第一三共ヘルスケアインタビュー

新型コロナウイルスの感染拡大により人々の生活様式や消費行動が大きく変化する中、企業の販促・プロモーション活動も大きくアップデートする必要に迫られています。各社はこの激動の変化の時代を、どのように乗り越えようとしているのでしょうか?

今回は、第一三共ヘルスケア株式会社 マーケティング部 広告宣伝グループの北條 秀明氏に、コロナ禍における同社の販促・プロモーション戦略方針と、今後力を入れていく施策についてインタビューしました。

※本記事は2021年3月16日(火)にアライドアーキテクツ株式会社が開催したセミナー「デジタル販促×SNS最前線#2 withコロナ時代の2021年にリテール・メーカーが挑戦するSNSを活用したデジタル販促戦略とは?」の内容を編集したものです。

コロナ禍中の「症状」に関するツイートと商品の売上に相関あり

-2020年、新型コロナウイルスの影響で第一三共ヘルスケアにはどのような変化がありましたか?

第一三共ヘルスケアはさまざまな症状に対してケアをする医薬品を販売していますが、2020年の各商品の売上は、新型コロナウイルス拡大の影響で例年とは異なる動きが見られました。

下の図は、Twitter社より提供いただいたもので、肩こり、腰痛、頭痛、風邪などの「各症状名」に関するツイート数の推移を表しています。赤色が2019年、青色が2020年の数値です。

肩こり、腰痛のカテゴリについては、2020年の緊急事態宣言以降にツイート数が伸びていることが見て取れます。頭痛のカテゴリは2020年前半に伸びたものの、後半になると2019年と同様に落ち着いてきました。生活者が、外出を自粛するコロナ禍での生活そのものに慣れていった様子がうかがえます。また、風邪のカテゴリは2019年に比較して非常に減っています。コロナ禍で手洗い・うがい・マスク等の感染防止対策が徹底されており、風邪そのものが減っていることが見て取れます。

各症状名のツイート数のボリュームと該当カテゴリ商品の売り上げは、ある程度の相関関係があると分析をしております。世の中の関心事と私たちの商品売上に相関が見られるため、SNS上の投稿内容やキーワードのボリュームなどを検証し、自社のマーケティング戦略に活かしています。

症状カテゴリ自体の変化
各症状カテゴリに関するツイート数の推移。赤色が2019年、青色が2020年のツイート数を表す。

コロナ禍でも「変わらないコミュニケーション」を大切に

-SNS上で生活者の関心事が変わっていく様子が見て取れる中、第一三共ヘルスケアとしても生活者へのコミュニケーション方法を変えていったのでしょうか?

実は、私たち自身は、コロナ禍によってクリエイティブメッセージやプロモーションのやり方を劇的に変えることはしておりません。逆に、「コロナ禍においても、それまで貫いてきたメッセージを改めて伝えていくこと」を大事にコミュニケーションしています。

医薬品を提供する会社としてもっとも大切なことは安心・安全であることと信頼性です。コロナ禍において表現としてふさわしくないものは省くなどの対応はしておりますが、それ以外は今までと変わらずどっしりと構えていることが、お客様の安心につながると考えました。

北條 秀明氏
第一三共ヘルスケア株式会社 マーケティング部 広告宣伝グループ 北條 秀明氏

「おジャ魔女どれみ」で頑張る女性に寄り添うプロモーションを実施

ただ、その中でも「コロナ禍において頑張る女性を応援したい」と実施したプロモーションがあります。

それが、2020年に「トラフル」という口内炎ブランドで実施したプロモーションです。口内炎をストレスの象徴として捉え、「口内炎ができるほど頑張る女性を応援するブランド」としてメッセージを発信しました。

口内炎を罹患しているまさにその時でないと、消費者に立ち止まってもらえない、という点に課題を感じておりました。そこで挑戦したのがちょうど20周年の節目を迎えた「おジャ魔女どれみ」とのコラボです。トラフルのターゲットとなる20代女性が小さいころに見ていた人気のアニメキャラクターと一緒にメッセージを発信することで、その懐かしさから立ち止まってほしいと考えました。

今回「おジャ魔女どれみ」と一緒に発信したメッセージは「いつの間にか『大人』になったあなたたちへ」です。アニメを見ていた当時小さな女の子だった皆さんも、20年の時を経て、今は第一線で活躍する大人として毎日を頑張って過ごしておられます。この「おジャ魔女どれみ」とのコラボを通じて、そんな「頑張る女性」の皆さんにメッセージを届けることを目指しました

今回、東映アニメーションさんに63秒間のWEB動画を描き下ろしていただきましたが、その映像主人公は「どれみ」ではなく「ゆき先生」にしました。「昔、おジャ魔女どれみを見ていた皆さんも、ゆき先生の年代になったんですよ」というところからコミュニケーションを始めるストーリーになっています。

WEB動画の公開以外にも、トラフルの公式サイト上での展開、キャラクターを活用した広告配信やTwitterキャンペーン、店頭用POPの展開なども行ってプロモーションを実施したところ、Twitter上でも大変な反響があり、高評価を頂きました。商品に対して過去実施した施策と比較しても大きな態度変容が見られ、キャンペーン期間中から大きく売り上げの増加する結果となりました。

このプロモーションを通じて実感したことは、Twitter上での単純なリツイートの数だけでは表せない「熱量の高さ」が人を動かし、結果として売上にもつながってくるということです。これからは、目に見える指標だけでなく、そういった熱量の高さの可視化にもチャレンジしたいと思っています。

新たなタレントを起用したCMのティザ―動画を公開、SNSで話題に

-コロナ禍の生活者に寄り添うだけでなく、ファンの熱量からSNS上でも話題化し売上につなげた素晴らしい企画ですね。第一三共ヘルスケアの販売促進活動において、SNSマーケティングはどのように位置づけているのでしょうか?

私たちがメインで重視しているSNSプラットフォームはTwitterです。もっとも生活者の近くに寄り添えるメディアがTwitterだと考えており、そこでのコミュニケーションを非常に重視しています。コメントを見ているだけでも本当に学びが大きいです。

第一三共ヘルスケアのスキンケアブランド「ミノンアミノモイスト」「トランシーノ」ではInstagramアカウントも積極的に運用しています。広告プラットフォームとしてはFacebookも活用中です。

SNSに日々接していて感じるのは、SNSは人が集まる「井戸端会議」のような場所であり、いかにそこで話題にしていただけるタネを提供するかが大事だということです。また、SNS上で話題になるものは必ずしもデジタルだけで完結するものではなく、むしろオフラインで話題になったものがデジタルに載った方がよりパワーがあるなという感覚があります。

北條 秀明氏

-オフラインで話題になったものが、SNSなどのオンラインでも話題になることでより拡散力が上がるということでしょうか?

そうです。持続性風邪薬「プレコール」という商品では、新しいイメージキャラクターとして俳優・横浜流星さんを起用したCMを2020年10月17日より全国で放映開始したのですが、そのCMの開始よりも先に、横浜流星さんを起用した「店頭用資材」が展開されることになったのです。本来はCM放映と同時に店頭用資材も展開を開始するため、想定外の出来事でした。

ところが、まだCMの放映も開始せず、公式に「横浜流星さんの新キャラクターの起用」をお知らせしていない段階で店頭に資材を並べてみたところ、「プレコールのイメージキャラクターが変わっているぞ」と、ざわつきが生まれたんです。

そこで、テレビCMを放映開始するまでこの熱量を持続させ、テレビCMの認知を最大化したいと考え、「新たなイメージキャラクターを起用したCM Coming Soon!」のティザー動画をTwitterで紹介しました。その結果、実際にテレビCMの放映が開始された時に「あのティザ―動画のCMだ!」と多くの方に話題にしてくださいました。より効率よくCMを認知いただくことができたと思います。CM放映開始後もTwitterキャンペーンを実施し、熱量がトーンダウンしない工夫を行いました。

2021年のデジタル販促戦略

-これからの展望を教えてください。

私たちのデジタル販促戦略において、SNSの活用は「生活者の関心事の把握」「生活者とのコミュニケーション」「話題化」など、さまざまな側面において欠かせないものとなっています。

2021年もSNSを通してしっかりと生活者の声を聴き、また製薬会社として信頼いただける情報発信に努めながら、オンラインだけでなくオフラインでの施策も含めてSNS上で話題にしていただけるような取り組みにもチャレンジしていきたいです。