今注目の「音声コンテンツ」を活用したマーケティング施策。
古くは「ラジオ放送」が担ってきたその領域にも、デジタル化の波がきています。
デジタル化は音声コンテンツマーケティングにどのような変化をもたらしたのか?
デジタル化によって何ができるようになり、どんな施策効果が期待できるのか。
今回は、音声コンテンツを活用したデジタル領域におけるマーケティング施策について、事例を交えながら解説していきます!
デジタル化によって再び注目される「音声コンテンツ」
これまで音声コンテンツメディアというと、その中心は「ラジオ」でした。
しかしラジオのユーザー数は年々低下。生活者のメディア接触時間が増える一方で、ラジオの接触時間は 減少傾向にあります。
画像引用:【博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所「メディア定点調査2020」】
しかし、インターネットの普及は音声メディアにとって、必ずしもマイナスな影響ばかりではありません。昨今はインターネットを介したデジタル上で音声コンテンツを提供するサービスが増えてきています。
例えば、音楽視聴は、ここ数年でこれまでのCD・ダウンロードからストリーミング形式へと移行しています。日本レコード協会が公表した2019年の音楽ソフト生産・音楽配信の統計では、前年比10%増の706億円の音楽配信の売り上げのうち、66%がストリーミングによるものでした(※1)。
これまで専用のチューナーが必要だったラジオ放送も、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器でラジオが聴ける「radiko(ラジコ)」のサービスが開始しました。これまでのラジオとは違った楽しみ方を提供することにより、2020年3月には月間ユニークユーザーが880万人に到達しています。(※2)
さらに、インターネット上で配信される音声番組である「ポッドキャスト」も人気です。ニュースや英会話など、豊富なコンテンツを楽しむことができるポッドキャストは、欧米を中心に普及が進んでいます。大手音楽配信サービスのSpotifyも力をいれており、Google社も2018年のAndroid版のリリースに続いて、2020年3月にはios対応のポッドキャストアプリをリリースしています。(※3)
では、こうしたデジタル音声コンテンツはマーケティング施策にどのように活用できるのでしょうか?ここからはその活用施策である「デジタルオーディオアド」「ブランデッドコンテンツ」についてそれぞれのメリットと事例を紹介していきたいと思います。
音声コンテンツを活用したデジタルマーケティング施策①デジタルオーディオアド
1つめにご紹介するのはインターネット上で配信できる音声クリエイティブ広告である「デジタル音声広告(デジタルオーディオアド)」です。
デジタル音声市場は日本でも拡大しており、株式会社デジタルインファクトによると、2020年のデジタル音声広告の市場規模は16億円になる見通しです。さらに、2022年以降、この拡大傾向は急速に進み、2025年には430億円規模の市場に成長すると予測されています(※4)。
出典:デジタルインファクト調べ
日本では現在、音楽ストリーミングサービスのSpotify、インターネットラジオ配信サービスのradikoが広告配信面として市場を牽引しています。
<デジタルオーディオアド、3つのメリット>
デジタルオーディオアドのメリットは以下の通りです。
①完全聴取率が高い
Spotifyでは、無料会員が再生している曲と曲の間に、radikoでは番組と番組の間のCM枠に、それぞれオーディオアドが配信されます。これらは、基本的には広告のスキップができない仕様となっており、広告の完全聴取率の高さが特徴です。
②多様なターゲティングが可能
これまで音声広告がメインだった地上波ラジオ放送の広告では、広告枠に固定の広告素材が割付けられるためその番組を聴いている全ての人に同じ広告素材が放送されていました。
一方、デジタルオーディオアドは、商品やサービスに応じてターゲティングしたユーザーごとに広告クリエイティブの配信が可能です。
Spotify、radikoでは、年齢や性別、聴取デバイスなどのデモグラフィック(基本属性)ターゲティングの他、ユーザーの興味関心・趣味嗜好・ユーザー行動傾向などの固有のターゲティングが実施できます。さらに、両メディアともに、プログラマティック(運用型)配信では、サードパーティーデータを利用したターゲティングにも対応しています。
③情緒的訴求に適したクリエイティブ特性
「音声コンテンツは、音という限られた情報により、ユーザーの想像力を刺激しやすく、意図的に違和感を作りだすことで接触ユーザーの注意をひきやすいという特徴があります。
「音」のみの訴求のため、伝えられる情報量や視覚的な正確性には劣りますが、説明的訴求よりも情緒的訴求に長けているというクリエイティブ特性は、音声コンテンツのもつ大きなメリットと言えるでしょう。
<デジタルオーディオアドは認知獲得やブランディングに効果的>
前述したメリットから、デジタルオーディオアドは、「認知獲得」や「ブランディング」のための広告施策であると言えます。
まず、デジタルオーディオアドの持つ「完全聴取率」の高さは、広告接触者にクリエイティブをしっかりと届けることができます。
同時に、デジタルオーディオアドでは、多様なターゲティングメニューによって適切なユーザーに適切に広告を配信することができます。
また、「音」という限られた情報で構成されたクリエイティブによって、情緒的訴求ができることも、認知やブランディングに寄与すると考えられます。
これらを総合的に考えると、デジタルオーディオアドは認知獲得やブランディング目的の広告配信により力を発揮すると捉えることが可能です。
またさらに、以下の3つの理由からも「認知獲得」「ブランディング」施策への適正がわかります。
①インプレッションや再生回数による課金である
まず、「課金体系」です。
現在日本で提供されているデジタルオーディオアドは、広告が一定秒数配信されたCPM(広告表示)や、広告を全て聴き終わったことによる完全聴取での課金体系となっています。
Spotifyのオーディオアドでは、広告が流れている間、画面上にコンパニオンバナーと呼ばれるバナー画像が掲出され、外部への送客も可能です。しかし、現状このバナーに対するクリックやコンバージョン課金は提供しておらず、これらのアクションを目的としたダイレクト広告施策は、実施することが難しい広告フォーマットとなっています。
②ブランドセーフティーが高い
ブランドセーフティーの高さも、ブランディング施策の実施には重要です。
現在日本のデジタルオーディオアドを牽引しているSpotifyやradikoで配信されているのは、権利処理が適切に行われた信頼のできるコンテンツです。そのため、ブランド毀損につながるリスクが極めて低いと言えます。
さらに、Spotify、radiko共に、会員登録したユーザーに対して、スキップ不可な広告を配信しているという特徴があります。そのため、botによる不正なインプレッションの増加や、広告クリックの水増しなどアドフラウドが起こりにくく、無駄な広告出稿を防ぐこともできます。
③ブランドリフト調査が可能
広告想起やブランディング目的での施策を実施する場合、その広告が本当にそれらに寄与したのかどうかの効果測定が大切です。そして、その一般的な手法であるブランドリフト調査は、広告接触者と非接触者のグループに対してアンケートを行いその結果をもって効果を導き出す方法をとります。
この点で、Spotifyやradikoはサービス利用者に向けて広告を出稿しているので、広告接触者と非接触者を分けてデータをとっていくことができます。
実際、Spotifyには一定の出稿条件を満たした場合に利用可能な「ニールセンデジタルブラントエフェクト」と呼ばれるブランド効果測定のオプションがあります。
また、radikoでも有償のブランドリフト調査メニューを用意しており、認知、ブランディング目的の広告施策を行うための環境が整っています。
こうした理由から、デジタルオーディオアドは認知やブランディング目的の広告施策として活用していくのが適していると言えるでしょう。
実際にAdobe社がアメリカで行なった調査では、回答者の39%が、他のチャネルの広告と比較してデジタルオーディオアドの方が興味を引くと答えており、さらに38%の回答者が他の広告よりも煩わしさを感じないと答えています(※5)。
また、Nielsen Media Labが2017年に公開した調査では、Spotifyのオーディオアドは一般的なディスプレイ広告と比較し、ブランド想起は+24%、関心・購買意欲が2倍、広告理解も+28%という結果がでています。(※6)
<デジタルオーディオアドを活用したマーケティング施策事例>
では、実際にデジタルオーディオアドを活用したマーケティング事例にはどのようなものがあるのでしょうか?
事例①映画『Diner』|ワーナー ブラザース ジャパン合同会社(Spotify)
2019年の7月に公開された、藤原竜也さん主演のサスペンス映画『Diner』は、Spotifyのデジタルオーティオアドを使ったプロモーションを実施しました。
このプロモーションでは、劇中で使われる藤原竜也さんの決めゼリフをサウンドロゴのようにしてクリエイティブを制作。ヘッドフォンやイヤホンで視聴した時により臨場感を感じてもらえるよう、セリフ部分はバイノーラル化(※)したものが使われています。(※7)
※バイノーラルとは:
より自然に「人の耳に聞こえる音」を追求した録音方法のこと。人の頭の形を模した「ダミーヘッド」などを使用して音を収録し、まるでその場にいるようなリアルな音を再現できる技術。
事例②プリッツオリジナルプレイリストがSpotifyで聴ける!|江崎グリコ株式会社(Spotify)
Spotifyでは一定の広告出稿を条件としてアカウントに公式マークが付与され、Spotifyのプレイリストの2次利用が可能となっています。これにより、企業はデジタルオーディオアドとあわせて、商品とのコラボなどメディアミックス施策を実施することができます。
江崎グリコ株式会社が販売しているスナック菓子「プリッツ」シリーズでも、この座組みを使ったキャンペーンが実施しています。対象商品のパッケージの内側に印刷されたQRコードから、オリジナルプレイリストを楽しむことができるこのキャンペーンでは、商品イメージに合った音楽を提供し、リッチな商品体験を作りだしています。
音声コンテンツを活用したデジタルマーケティング施策②ブランデッドコンテンツ
音声コンテンツを活用したマーケティング施策の2つ目は「ブランデッドコンテンツ」です。
デジタル音声コンテンツであるポッドキャストでも、Spotifyやradiko同様に、デジタルオーディオアドの配信が可能です。しかし日本においては、広告配信面としての活用は、音楽配信サービスやインターネットラジオへの配信と比較するとまだ後進であると言えます。
一方で、国内ではポッドキャストをはじめとした音声コンテンツを「ブランデッドコンテンツ」として活用する動きが徐々に広がっています。ブログやオウンドメディア上の記事コンテンツ、YouTubeにアップする動画コンテンツなどを、音声コンテンツに置き換える施策です。
ポッドキャストは、誰でも制作、配信することができる手軽さが魅力です。制作したコンテンツは複数のポッドキャストアプリやポッドキャストメディア上で世界中に配信されます。競合となるコンテンツが多い反面、複数のプラットフォーム上にて生活者との接点をもつチャンスがあります。
また、デジタル音声コンテンツには、独自のプラットフォームをもつ音声メディア上でチャンネルを持ち、公開する方法もあります。
日本では「Voicy」がそのパイオニアとしてサービスを提供しています。
<ブランデッドコンテンツとしての音声コンテンツ活用、3つのメリット>
ブランデッドコンテンツとしての音声コンテンツ活用には、大きく3つのメリットが考えられます。
メリット①ながら視聴によるエンゲージメント向上
音声コンテンツの聴取態度の特徴として、メディア接触中に何か他のタスクを同時に行う「ながら聴取」の場合が多いということがあります。
実は、この「ながら聴取」がブランドへのエンゲージメントを高めるという調査結果が出ています。
イギリスのBBCが発表した調査結果によると、ポッドキャストリスナーの94%が家事や車の運転、買い物やランニングなど、他のタスクを行いながらポッドキャストを聴いていました。そして、この「ながら聴取」のリスナーは、リスナー全体と比較して、ブランドエンゲージメントが18%高く、聴いたコンテンツに対する長期記憶も22%高いことが分かっています(※8)。
(※8):Audio:Activated – new BBC Global News study reveals unique effectiveness of branded podcasts|BBC
メリット②継続的な接点構築
アメリカのBuzzsprout社がまとめた「2020 Podcast Stats & Facts」では、ポッドキャストリスナーの約8割が、気に入った配信者の番組はほぼ全てのエピソードを聴くというデータが報告されています。
つまり、リスナーに番組を気に入ってもらえば、その後のエピソードも継続して聴いてもらうことができ、結果としてリスナーとの継続的な接触を行なって好意度やファン化につなげていくことができるのです。
メリット③企業人格を効果的に伝え信頼関係を構築しやすい
企業人格が問われる時代、どのように生活者に対してそれを伝えていくのかは難しい課題でもあります。その点でも、デジタル音声コンテンツは有効です。
直接的にサービスとは結びついていないが、企業として大切にしているエッセンスが伝わるようなコンテンツも、「番組」という形をとれば1つのエンターテイメントとして自然に発信することができます。
また、声にはその人の人格や温度感を伝えやすいという特徴があります。これは話し手と聞き手の間の親密性の高い関係を形成するのに効果的であり、企業姿勢を伝え、生活者との間に信頼関係を築いていくことに有効だと言える点でしょう。
<音声ブランデッドコンテンツのデジタルマーケティング活用事例>
事例①トレンドランナーbyリクルート|株式会社リクルートホールディングス
リクルートホールディングスの公式ポッドキャスト番組である「トレンドランナー」は、同社で働くその道のプロが「仕事探し」や「学び方」「美容」や「食」といった様々なテーマの最新トレンドについて語る番組です。同社で公開しているオウンドメディアの記事コンテンツのポッドキャスト版となるこの番組。ポッドキャストという形態を採用することで様々なポッドキャストプラットフォームに番組が掲載され、集客効果も期待できる活用事例です。
事例②flier|株式会社フライヤー(Voicy)
「本の要約サイトflier」を運営する株式会社フライヤーでは、Voicyにて企業チャンネルを開設し、番組を配信しています。
同社の番組「荒木博行のbook cafe」は、同社のCOO・荒木氏がビジネスパーソンにオススメしたい過去の名著から最新の書籍まで、幅広い本を紹介しています。
「本の要約サイト」という効率面を重視したサービスは、ともすれば無機質に捉えられてしまいがちです。同社では、サービスを作る企業側の人間の声を使うことで、温かみや人間味を伝えています。実際に、番組のリスナー限定のオフ会も開催されるなど、音声によるブランデッドオコンテンツをきっかけとしたコミュニティ形成、ファン作りに成功しています。(※9)
事例③/番外編:エンゲージトーク|エン・ジャパン株式会社(Voicy)
また、Voicyでは音声コンテンツを少し角度を変えた施策で活用することができます。それが「社内向け」の音声コンテンツです。
求人メディアの運営や人材派遣サービスを行なっているエン・ジャパン株式会社には、同社が提供する採用支援ツール『engage(エンゲージ)』担当チームだけが聴くことができる番組「エンゲージトーク 」があります。
メンバー間の相互理解を深めて、コミュニケーションロスを最小限にすることを目的とした同チャンネルでは、チームの「社内報」的な役割を果たしています。
対顧客だけではなく、自社内のコミュニケーションの円滑化や理解促進にも、音声コンテンツが活用できることを示している事例です。(※10)
最適化された「音声コンテンツ体験」がもたらすもの
ここまで、音声コンテンツを活用したマーケティング施策について説明してきました。
現在私たちは、スマートフォンなど個別のデジタルデバイスを保有し、毎日動画やSNS、ニュースサイトからソーシャルゲーム、電子書籍まで、様々な「視覚」を通じたコンテンツに接触しています。「視覚によるコンテンツの可処分時間」は既に飽和状態が近いとも言えるかもしれません。
音声コンテンツはこの「視覚」ではない「聴覚」によるコンテンツ接触であり、今後の生活者のメディア可処分時間の観点からも、ますます需要は高まってくるでしょう。
また、これまで音声を活用したマーケティング施策は、届ける相手によってクリエイティブを変えていくなどの運用が難しいという側面がありました。
しかし、デジタル化により、接触者データの取得や、ターゲティングによるクリエイティブの出し分けなど、生活者ひとりひとりにカスタマイズした施策設計が可能になっています。
こうした、生活者ごとに最適化された音声コンテンツ体験は、「音声」がもつ情緒的訴求力を高め、企業と生活者との新しい接点を作り、企業やブランド・商品に対する好意度をあげていく方法として今後ますます注目されると考えられます。
デジタル音声コンテンツ市場やマーケティング施策の動きについて、今後もぜひご注目ください!
参考:
※1)2019年音楽配信売上は706億円で6年連続プラス成長、2011年以来の700億円超え|PRTIMES
※2)radikoはラジオ界の「救世主」になれるのか|東洋経済ONLINE
※3)Google、PodcastアプリのiOS版リリース Android版もデザイン改善|ITmediaNEWS
※4)デジタル音声広告の市場規模は2020年に16億円、2025年には420億円に|株式会社デジタルインファクト
※5)State of Voice Assistants 2019|Adobe
※6)【初心者にもわかりやすい】Spotify(スポティファイ)広告の解説|オトナルブログ
※7)藤原竜也 の「絶叫」を サウンドロゴ のように: Spotify デジタル音声広告、映画『Diner ダイナー』の活用事例|DIGIDAY
※8)Audio:Activated – new BBC Global News study reveals unique effectiveness of branded podcasts
※9)ファンコミュニティができる企業チャンネル『荒木博行のbook cafe』|Voicy Journal
※10)エン・ジャパンの「engage(エンゲージ)」チームが社員エンゲージメント向上に使った「社内ラジオ」って何のこと?|Voicy Journal