— 広告に関する企画・マーケティング・ビジネス開発を幅広く手掛けていらっしゃるプロデューサー、高広伯彦氏にソーシャルメディア時代のマーケティングについてお聞きしています。
– ソーシャルメディアマーケティングは、自らがソーシャルメディアの中で活動出来るマーケターが、コミュニケーションという原点に立ち戻った発想の転換が出来るかどうかが大切だということでしたが、現場の担当者レベルだけではどうしても立ち行かない問題もあるのではないでしょうか?たとえば担当者レベルだけでなく、企業全体の消費者に対する距離感も非常に大切なのでは?
高広:プロダクトアウトとマーケットインという企業戦略を考えるには多分、2つのレイヤーがあって、ソーシャルメディアやソーシャルメディアマーケティングを使うというところでは、利用者や消費者の輪の中に入っていける「参加者」でないとわからないことがあると思う。でも、プロダクトを開発するとか、マーケティングを企画するっていうレイヤーでいくと必ずしもそうでなく、「この商品がいいんだ」という信念だとか、あるいはもっとプロダクトアウトの発想でもいいかもしれない。だから企業戦略的にはプロダクトアウトとマーケットインの両方が必要であって、これもやはり発想のバランス。
たとえば、到底マーケットに受け入れられそうにない商品が出来上がって来た時には、それが今の世の中にどうしたら受け入れられるか、ということを考えなくてはいけない。世の中の人たちが持っている感覚では理解出来ない価値を、それでも「必要」だと感じさせられるように翻訳する必要がある。この「翻訳する」ということがマーケターの最大の職能なのでは。だって初めから世の中に完全にフィットする商品を作ってしまったら、マーケティングなんて要らなくなるでしょ。
— 消費者に向き合った企業戦略で有名なP&Gでは、消費者のアンケート調査のようなものは意味がない、そんなところに答えはなくて、実際に使ってる消費者の自宅に上がり込んで、自分たちの仮説を伝えて、その仮説を聞いている人たちの表情などから、様々なインサイトを知ることのほうが大切だと言われていますが、こうした取り組みについてはどのようにお考えですか?
高広:「アンケート」という手法をどう使うかということじゃないかな。全く新しい商品を開発する場合は、P&Gのように消費者の使っている利用シーンに入りこんで、そこから次の商品のインサイトを得るというはとても効果的だと思うけど、現行の商品を改善するということなら、アンケートや既存ユーザーからのフィードバックはすごく重要。これを間違って、新商品開発にアンケート結果を使ったら、理屈的にはどこも同じ商品になってしまうわけで、アンケートがダメだとか、参与観察が良いって言う手法の問題ではなくて、どう使うのかという話だと思う。
— お話を聞いていると、今までは定量的なデータを元にすべての戦略を立てていたところが、非常に感覚的になってきていて、企業にとってはソーシャルメディアマーケティングに取り組むべきか否かの判断が、非常に難しいのではないでしょうか?たとえば、担当者が上司を説得出来ないという話をよく聞きますが。
高広:ゴールデンルールはないと思うのだけれど、パターンはいくつかあると思う。ひとつ気をつけなくてはいけないのが、世の中の流れの中で流行だからコレをやるべきだというのが一番マズい。このフィルターを外して考えたら絶対理由はあるはず。その理由をどう構築するかじゃないかな。流行物に乗ってるだけでしょ、みたいな感じに終わるのが一番失敗する動きの原因だと思う。
— 流行ってるからやりましょうというのは、企業としての戦略を考える事を放棄している、と?
高広:結局、なぜ必要なのか?という問いに対して、新しい物だからというように答えてしまうから上手く行かない。今まで出来なかった事が、このような形で出来るようになるという説得の仕方が出来るかどうかの問題だよね。
— 今までうちの会社こういう事がやりたかったけれど、出来ていなかったことが遂に出来るんです、だからうちもやりましょう!と言えるかどうかですね?
高広:あとは、リスクとメリット。一番良くない企画書は、メリットばっかり書いてあるもの。マーケティングにリスクは付きものだけれども、そのリスクをどういう風に乗り越えるかという、シナリオが出来ているかどうかが重要。まずはリスクカットを考える。そのリスクカットをやれば乗り越える事が出来る。たとえば、ソーシャルメディアマーケティングというのは、ユーザー、コンシューマーと直結してるから、いわゆる炎上みたいなものを、引き起こしやすいという側面があるわけだけれども、その局面でリスク対応をどうするかを、ある程度想定したシナリオがあれば、ちゃんと対応が出来るはず。それは従来の顧客対応と同様でしょう。
— 最近ではマイクロソフトが、ソーシャルメディアリードという職種を新設した事が話題となりましたが、そもそもソーシャルメディアマーケディングは、どういった部署が担当すべきだとお考えですか?
高広:究極、どこの部署がやってもいいんじゃないかな。上から言われてやるというよりは、やるべき意識を持った人がやるのがベストだと思うから。
— ソーシャルメディアの本質を正しく理解して、メリットとリスクをきちんと設計出来れば必要以上に恐るることなかれ、といういうことですね。これは、今現在ソーシャルメディアマーケティングに取り組んでいる担当者や、これから取り組もうとしている企業にとって、大いに勇気づけられるお話だったんではないかと思います。どうもありがとうございました。
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高広伯彦氏 略歴
同志社大学大学院(社会学)修了業後、博報堂、電通を通じて、営業やインタラクティブ系コミュニケーションプランナー、ビジネス開発を経て、2005年から2008年までGoogleで広告商品AdWordsの sales marketing チームを率い、YouTubeの広告ビジネスなどの日本導入などを手がける。2009年1月から独立し個人事務所「スケダチ」を設立。新しい広告と新しいメディアの企画、新しい広告領域ビジネスの開発支援を行う。第二回東京インタラクティブアドアワードグランプリ他受賞暦多数。
インタビュアー:中村壮秀(アライドアーキテクツ株式会社代表)
【キーパーソンインタビュー】高広伯彦氏に聞くソーシャルメディアマーケティング(3 / 3)
2009.12.07
2020.04.03
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