ブランドの世界観が疑似体験できる完全予約制ショールーム
「THE MAYBELLINE HOUSE」によって、インフルエンサーとの関係を深化し、
ブランドマーケティングに新機軸を打ち出したコスメブランド
「メイベリン ニューヨーク」のPR担当者にインタビューしました!
アメリカで1915年に創業した「メイベリン ニューヨーク」は、日本でも幅広い世代に支持されている世界でもトップクラスの化粧品会社です。
その「メイベリン ニューヨーク」が、原宿の一角に完全予約制でオープンしたショールームが「THE MAYBELLINE HOUSE」。
黒とピンクを基調とした室内は、可愛らしさのなかにもエッジが効いていて、猫脚のバスタブやスリーピングカーテンの付いたベッドなど、「こういう部屋に住んでみたい!」と思わせるインテリアに囲まれています。
開設から約1年が経過した現在、「THE MAYBELLINE HOUSE」がブランドのマーケティングにどんな影響を及ぼしたのか、また、立ち上げのきっかけや今後の展望などについて、メイベリン ニューヨーク PR担当の関さんにお話をおうかがいしました。
聞き手:アライドアーキテクツ株式会社 SNSプランナー 金濱 壮史
テーマは「NYのイットガール」~メイベリンの世界観を疑似体験してもらう場所
金濱:まず、「THE MAYBELLINE HOUSE」を立ち上げたきっかけを教えてください。
メイベリン ニューヨーク PR担当 関 菜美子さん
関:メイベリンでは、ずっとインフルエンサーやメディア向けの大きなパーティーは行っていましたが、予算的な都合もあって、年間で開催できるイベント回数は限られていました。すると、接触機会が少なくなりますから、ブランドや製品についての理解が浅くなってしまいます。
さらに、大型のパーティーでは、ご挨拶しかできないこともあり、リレーションの距離を縮めることができないんです。そこで、一時的に利用する会場ではなく、常に情報発信や交流ができる場所が必要だと考えて立ち上げたのが、「THE MAYBELLINE HOUSE」です。
こうした「場」があれば、パーティーでご挨拶しかできなった方も、「今度遊びに来てくださいね」と気軽にお誘いしやすいし、接触回数を増やすことができます。
また、メイベリンは路面店を持っていないので、ドラッグストアやバラエティストアでは構築しづらい世界観をダイレクトに伝えることが出来る空間も必要でした。
アライドアーキテクツ株式会社 SNSプランナー 金濱 壮史
金濱:現在のようにインフルエンサー・マーケティングが活発化する前から、インフルエンサーたちとのリレーションを築かれていたんですね。
関:はい。「インフルエンサー」という言葉が一般的になる前から、ファッションブロガーと呼ばれる人たちをパーティーや協賛していたファッションイベントの会場へ招待して、イベント記事を作ってもらうことはしていました。Instagramを始めとしたSNSが流行してからは、そちらへ注力するようになりましたが、彼女たちとは今でもつながっていて、現在ではそこからさらにコミュニケーションが広がっています。
金濱:「THE MAYBELLINE HOUSE」は女性が好みそうなインテリアであふれていますが、どんなコンセプトやテーマで作られたのでしょうか。
関:コンセプトは、「NYに住むイットガールのアパート」です。メイベリンの世界観を強要することなく自然に伝えられること、ここに遊びに来た子たちがイットガールの生活を疑似体験ができることをテーマに作りました。そのために、メイクスペースはもちろんのこと、リビングやキッチン、クローゼット、バスルームなどを取り入れて、アパートを徹底的に再現したんです。
特にバスルームは人気スポットで、遊びに来た皆さんがよく写真を撮っています。意外だと感じたのは、彼女たちが部屋のスペース全体よりも小物に注目している点でした。本棚に無造作に置かれたアクセサリーや雑誌、メイク製品を並べた小皿など、そこまで作り込んでいないスポットでも写真をよく撮っています。
訪れたインフルエンサーに人気のバスルーム
最近の「インスタ映え」要素は、企業の発想外にある
金濱:現在の「インスタ映え」には、さりげなさや日常などを取り込んだ写真が好まれる傾向にあります。初めの頃は、タイムライン上に作り込んだ写真を並べ、そこからフォロワー数を増やそうと考えるインフルエンサーが多かったのですが、最近はストーリーズが新たに加わったことで、いかに日常的な雰囲気を出して、フォロワーとコミュニケーションを取れるかを考えるインフルエンサーが増えています。こういった背景も関係しているのかもしれませんね。
関:私もなんとなくですが、その傾向には気付いていて……。以前のメイベリンであれば、キービジュアルを入れて、ロゴや世界観を全面的に出すことが主流だったのですが、それだとインフルエンサーたちは写真を撮りたいと思わないんですよね。
「THE MAYBELLINE HOUSE」を立ち上げる時、社内では、ブランドイメージを全面的に押し出したいという意見もあったんです。もっと分かりやすいブランドのビジュアルを入れるべきだと。
金濱:インフルエンサーに限らず、昨今の若年層は、「企業のメッセージ」には敏感ですよね。SNSでも、企業が仕掛けているハッシュタグなどはすぐに見抜きますし、そこから「大人の策略」や「お金の匂い」を感じると、途端に嫌悪感を抱きます。それを考えると、「THE MAYBELLINE HOUSE」のような居心地の良い空間を作ることはとても大切だと思います。
関:はい。そのため、メイベリンのロゴは小皿やクッションなどにさりげなく入れる程度にして、本来のコンセプトである「NYのイットガールのアパート」という空気感を優先しました。そもそも「おしゃれ」「かわいい」と思ってもらえないと、遊びに来てくれませんから。
金濱:インテリアのなかで特に「インスタ映え」を意識した部分はありますか?
関:ダイニングテーブルのライトですね。遊びに来た子たちに「自分の部屋に欲しい!」と言ってもらえます。全体としては、どこに立っても撮りたい部分があるように考えて作っています。たくさん撮ってもらうことで、SNSに一枚だけではなく複数枚あげてもらえますから。
予想外だったのは、レンガの壁の前で製品の写真を撮る子が多かったことです。引きのアングルよりも、細かい部分を写真に収める傾向が強くて、「こちらが考えつかないようなアイデアを思いつくんだな」と感じました。
金濱:おしゃれだけど、日常とはかけ離れていない空間には、「自分らしさ」を取り入れられる余地がありますよね。みんなと同じ空間にいても、画一的にならないようにオリジナリティのある写真が撮りたい。素材は欲しいけれど、強制はされたくない、という気持ちを叶えてくれるような。
関:そうなんです。ですから、みなさんがそれぞれ工夫しやすいように、小物は動かせる状態にしておかないといけないと学びました。美容業界では、製品をきれいにディスプレイしておくのが常識でしたが、「THE MAYBELLINE HOUSE」ができてからは、みなさんが好きな角度や構図で写真を撮るので、似たような写真があがらなくなりました。面白い発見でもありますが、ブランド側が考えなければならない課題も出てきたと思います。
インフルエンサーから消費者を巻き込むことが今後の課題
金濱:製品に対して自由を許すのであれば、自由を許された空間全体でブランドの世界観を表現しないといけなくなりますね。いろいろな角度で多面的に伝えられることはメリットだと思いますが、それは解釈が増えてしまうということでもあります。ブランドのイメージを維持することが難しいと感じることはありませんか?
関:ビジュアルに関しては、ハウス内であればこちらの意図するイメージを伝えることは充分可能です。そのうえで、製品の情報はきちんと伝えることは大切ですね。ただし、メイベリンはマスブランドなので、製品を理解して手に取ってもらえたら、あとは皆さんの生活に溶け込んで、自分らしさを活かすような使い方をしてもらえればいいと思っています。
金濱:「自分らしさを支援する」というブランドの軸は、現代にとてもマッチしていますね。今は消費者へのイメージコントロールは難しく、ブランドの意思に反するものでも、完全に止めることはできません。そういったなかで、ブランドへの理解を深められる場所を作ることは、ブランドのメッセージを消費者へ届ける代弁者を作ることにもつながります。さらに、その代弁者が消費者にとって憧れのインフルエンサーであれば、ブランド側が直接伝えるよりも雄弁ですよね。
関:メイベリンはTVCMやデジタル広告が主なので、美容部員による直接的なコミュニケーションなど深い製品説明ができる機会がそんなにありません。製品をどう扱うかは、購入した人しだいではありますが、インフルエンサーからブランドイメージが伝われば、タイムライン広告としてもバランスがいいのではないかと思います。
金濱:PRについて、パブリック・リレーションよりもインフルエンサー・リレーションのほうが濃くなってきているように思えるのですが、費用や効果についての変化はありましたか?
関:費用は増えていませんが、使い所が変わってきたという印象はあります。3年前は、大きな会場を借りてメディアへPRするリード優先のものでしたが、今年は会場を「THE MAYBELLINE HOUSE」にして、1日に30人ずつ集めて、3回ほどプレゼンする形にしました。一度に集められる人数は減りますが、その分、一人ひとりとお話しすることができるので、製品理解をより深めてもらうことが出来ます。大々的なパーティーに比べると、華やかなイメージは薄れてしまいますが、時間の融通も効きやすいので、忙しい方にもふらっと立ち寄ってもらえましたし、結果的にブランドの理解者数を増やすことが出来ました。
また、昨今では写真が重要視されるWeb媒体も増えてきましたが、パーティーイベントではどうしてもビジュアルが画一的になってしまいがちでした。しかし「THE MAYBELLINE HOUSE」では各媒体がそれぞれ自社メディアのイメージに合わせた写真を撮影してもらうことが出来ますので、掲載しやすいと感じていただけたようです。以前のやり方よりもコストカットができて、広告換算でも効果がありました。これは今年一番の成功といえますね。
企業はどう向き合う?インフルエンサーとの付き合い方
金濱:インフルエンサー・マーケティングが年々大きくなってきていて、インフルエンサーにもバブルが訪れています。なかには、自分の影響力を知ってしまった子が暴走することもあって、マーケティング手法として賛否両論が起きていますが、以前からインフルエンサーたちとリレーションを築いてきた関さんは、この状況をどう考えていらっしゃいますか?
関:インフルエンサーたちとの付き合い方や向き合い方には、特に気を使うようになりました。メイベリンの「PR」である私から直接インフルエンサーに依頼する場合は基本的に無報酬なのですが、事務所やエージェントを通して依頼したインフルエンサーには、キャスティング料が発生してしまっている場合があります。私はPRという立場的に金銭の発生しないリレーションを目指しているのに……というジレンマはありますね。それに、金銭が発生するインフルエンサーとは果たしてこれから長く付き合えるのかな、という疑問もあります。
金濱:現在は事務所に所属するインフルエンサーも増えていますよね。
関:個人的には「THE MAYBELLINE HOUSE」に遊びに来てくれても、事務所のNG判断で投稿をしてもらえない場合もあります。こういう部分は以前より難しくなったと思いますね。
ただ、一方では、有名人でギャランティが発生していないにも関わらず、気に入ったからと本人のSNSへ投稿してもらえる場合もあります。フォロワーも「宣伝ではなく、本人が本当に気に入ったものしかあげない」と分かっているので、効果は高いですよね。
これはインフルエンサーに限ったことではありませんが、「自社ブランドをいかにひいきにしてもらえるか」は今後の課題です。これを解消するためには、企業側の力不足の改善や、インフルエンサーとどこまで本音で付き合っていけるかがポイントになってくると思います。
しかし、インフルエンサーと深く付き合うことは、多くの時間を費やす必要があるうえに、人気は半永久的なものではないので、コントロールが難しい点がありますね。
金濱:友人やインフルエンサーからの推奨によって購買が発生する時代になり、ブランドは「LTVが高い人」だけでなく、「(購入量に関わらず)他者への影響力が高い人」との関係を構築をする必要性も出てきています。
そんな中、最近はCRMならぬIRM(Influencer Relationship Management:インフルエンサーとの良好な関係性構築やコミュニケーション履歴を管理する手法)という概念も登場しました。
他者への影響力は数字として見えにくい部分ではありますが、プラットフォームを作ってしまえば、ユーザーが投稿するハッシュタグ数やオンライン上でのブランドとの接触頻度を元にスコアとして可視化して管理することもできます。
IRMに取り組んで行く上で、「THE MAYBELLINE HOUSE」のようなブランドの世界観を表現したイベントスペースは重要な場所になるのではないかと感じました。ユーザーがハウス内で撮った写真をSNS広告へ二次利用することもできますし、企業が企業目線で作った広告よりも、圧倒的に広告効果は高いのではないでしょうか。
関:確かに現状ではリーチについての数字は出せるのですが、効果については分かりづらい部分があります。特に、メイベリンは路面店を持っていないので、商品に大きな動きがないと営業にまで声が届かないんです。
現在は、インフルエンサー・マーケティングが活発なので、リーチ数だけで済んでいますが、今後は、本当に意味があるのかどうかを精査しないといけなくなるだろうし、証明できる数字が必要になってくると思います。インフルエンサーの影響力で商品が動いたことを可視化できるやり方を模索しています。
金濱:この前ドラッグストアでインフルエンサーを活用した店頭POPを見ました。通常は金銭報酬がなければ、インフルエンサーの写真を広告コンテンツとして使用することはできませんでしたが、IRMによって純粋に「商品が気に入った」という気持ちからSNSに投稿してくれたものを、店頭POPや広告で使わせてもらえば真の生活者目線のメッセージが作れますね。
どのインフルエンサーのコンテンツが効果を生んだか、金額換算することもできます。
ちなみに、グローバルでのインフルエンサー活用ではトップランナーとして知られているメイベリンですが、海外と日本のインフルエンサーではどんな違いがありますか?
関:海外では、それだけで生活をしている人も多いですが、日本は本業があって発信が成り立っているというのが大きな違いだと思います。
面白いと思ったのは、各国から1名ずつ「メイベリン・イットガール」と呼ばれるアンバサダーを選んで、年3~4回ほどイベントを開催していること。メイベリンハウスを作って、そこで製品を試してもらったり、各国から集まった子たちでプレスツアーをグローバルにしたり。さらにそこから、コンテンツを作って各国へ配信をするんです。旅費などはこちらが負担しますが、ギャランティは発生しません。もちろん日本からもこのイベントへ参加してもらっています。
金濱:日本から参加したインフルエンサーは、世界中から集まったインフルエンサーたちと会うことで、すごく刺激になるのではないでしょうか。
関:日本国内ではなかなか接触できない他国のインフルエンサーと仲良くなれると、純粋に楽しんでくれているようです。ギャランティをもらう以上の価値があると感じてくれています。
金濱:インフルエンサーの登用が増えていくと、関さん以外の人の協力も必要ですが、誰でもできるという仕事でもありませんよね。
関:そこは課題ですね。インフルエンサーとは金銭が発生しない限り、人と人との付き合いになりますから、得意不得意が大きく分かれる分野になりますし、インフルエンサーとの相性の問題もあります。ですから、エージェントのような、企業とインフルエンサーの真ん中に立つ人の存在も今後ますます重要になってくると思います。
インフルエンサーは、メディアの方のようにオフィスにいるわけでもありませんし、PR担当との年齡の差によるギャップなんかもある。どうリレーションをとっていけばいいのかは現在模索しているところです。
金濱:最後に今後の展開について教えてください。
関:2018年にリニューアルを予定しています。現在のコンセプトからさらにひねったものを出していきたいと思っています。「THE MAYBELLINE HOUSE」は、本社からも視察が来るなど、社内的にも注目をされているので、今年学んだことを来年に活かして、さらに発展していきたいです。
あとは、インフルエンサーだけではなく、消費者との距離も縮めていきたい。そのためには、イベントだけではなく、ここでコンテンツを作れるようにしたいですね。広告撮影や配信など、インスタグラムだけではなく、すべての発信の場になって欲しいです。
<インタビュー後記>
2015年あたりから注目を集め始めたインフルエンサー・マーケティングですが、キャスティング一辺倒の施策から「どうやってインフルエンサーとの関係を構築するか」という段階に入ってきたと感じます。
さらに次のステップとして「自社専属のインフルエンサーを育成」をするような動きも本格化してくるでしょう。
2018年はブランドがインフルエンサーをおもてなしする場所としてスタジオを用意したり、管理・育成のためのプラットフォームを構築する、「インフルエンサー・マーケティング2.0」が台頭する一年になるのではないでしょうか。(金濱)
◆インタビュアー:金濱 壮史(Takeshi Kanahama)
アライドアーキテクツ株式会社 SNSプランナー
Twitter https://twitter.com/Kanahama
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■参考記事
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