台湾において多くの日系EC通販企業のマーケティングを支援、日本企業の「海外からの売上獲得」に貢献している株式会社マイクロアド台湾 代表の丸木氏に「日本のEC通販企業が台湾で成功する秘訣」についてインタビューする本シリーズ。
シリーズ最終回となる本日のテーマは「台湾市場における日本企業の勝ちパターン」と、「日本企業は、台湾の次のステップとして何を目指すべきか」です。
(※)本記事は、全三回シリーズの第三回目(最終回)です。
前回までの記事はこちら:
・日本のEC通販企業が「台湾」で成功しやすい理由とは?【マイクロアド台湾に聞く、台湾EC市場で成功する秘訣 Vol.1】
・台湾EC市場で勝つために、日本企業がまずやるべきこととは?【マイクロアド台湾に聞く、台湾EC市場で成功する秘訣 Vol.2】
台湾で成功する日本企業 4つの勝ちパターン
-マイクロアド台湾さんが多くの日本企業の台湾進出/越境ECをサポートする中で、成功する企業には4つの勝ちパターンがあるとお伺いしました。その具体的な内容を教えてください。
はい。私たちがこれまで多数の日系企業様をご支援してきた経験から、成功する企業様には以下4つの勝ちパターンがあると言えます。
1つ目は台湾における口コミ(UGC)作りと、その有効活用です。
台湾でも日本と同様に、よほど低価格の物でない限り多くの場合は口コミを検索した上で購買が行われています。インスタグラムのハッシュタグで口コミを探す人も多く、そのようなインスタグラム上のUGCをLPに掲載することでLPのCVR(コンバージョンレート)が改善する事例も出ています。良い口コミ(UGC)を生み、それをLPや広告クリエイティブとして継続的に活用していくことで、新規顧客の獲得に大きく貢献すると言えます。
また、UGCもあればいいというわけではなく、いかに分かりやすく商品の魅力や効果が伝わるものを増やせるかが重要です。弊社は「Japaholic」という日本のトレンド情報を台湾の女性向けに伝えるメディアを運営しており、その中で「Japaholic Girls」というマイクロインフルエンサーのネットワークを構築しています。現在は彼女たちに実際に商品を使ってもらうことで、彼女たち自身の言葉で商品の魅力が伝わるUGCを増やす取り組みを行っています。
何より自然で本物の口コミであることが大変重要であり、企業によって作られた印象を与える嘘っぽい口コミは逆に台湾ユーザーから拒否反応が示されます。インフルエンサーやブロガーを起用する際にも、まずはしっかり商品を使ってもらって、その人の言葉で語ってもらうことが大切です。
2つ目は、動画を用いたマーケティング施策への投資です。
現在、台湾での動画広告市場が非常に面白くなってきています。台湾の広告市場は過去数年Facebook広告に依存してきましたが、今回のコロナショックの影響もありユーザーはFacebookからYouTubeにより時間を使う傾向になっており、YouTube広告の需要が大きく伸びています。動画を活用していかにユーザーにアプローチしていくかに、各社の注目が集まっています。
中でも、台湾ユーザーの目を引く新たな訴求、見せ方の動画を作れるかがポイントと言えます。直近も、漫画風のクリエイティブで商品を紹介する5分ほどの動画を作ってYouTube広告で流したところ、従来はGoogle経由でほとんど新規顧客獲得ができていなかったのにも関わらず、いきなり100件程度、今までの10倍以上の件数を獲得できた事例が出ています。
このように、いかに目新しく刺さる動画コンテンツでユーザーにアプローチできるかが、今後重要になると考えています。なお、日本で作った動画に繁体字の字幕を入れて台湾でそのまま横展開したことで大きく獲得を伸ばした事例もありますから、必ず新しい動画を一から制作しなければならないわけではなく、いかに「台湾ユーザーに刺さるアプローチ」を見つけられるかがポイントになるのではないでしょうか。
また、今はまだ台湾では動画の「需要」に対して動画制作の「供給」が追い付いておらず、いかに動画を用意するかが各社の課題になっていると言えます。弊社では、制作人材を採用し動画を内製できる体制を整えるとともに、日本の動画制作サービスのテクノロジーを用いて一定の質の動画を量産できるようにしています。
3つ目は、季節イベントにあわせた効率的なキャンペーンの設計です。
台湾では、各企業が暦にあわせたイベントを非常に多く行っており、ユーザーもその中でショッピングを行うことが一般的になっています。「商品購入の際に別商品を無料でプレゼント」「期間限定、まとめ買いすると格安で購入できる」「抽選で高額商品をプレゼント」などのキャンペーンを打ち、その内容で広告露出をすることで通常の広告運用以上のパフォーマンスが期待できます。オファーにより広告のCPA(顧客獲得単価)が下がりますから、インセンティブを用意するコストを含めても全体コストを抑えて新規獲得ができます。
イベントには、各社がキャンペーン設計やインセンティブなどさまざまな工夫をしてかなり力を入れて臨んでいるため、オファー内容で負けてしまうとライバル他社に顧客が流れてしまいかねません。直近の事例では、台湾企業各社が「母の日」に向けたキャンペーンにかなり力を入れており、弊社でも15社ほどのクライアントのキャンペーンを運用しておりました。このように、台湾現地の情報をインプットし、適切なキャンペーン設計を行うことが非常に重要なポイントになります。
また、キャンペーンを行うタイミングも重要です。「キャンペーンを毎月行ってもいいのでは?」という質問も受けますが、それをやってしまうとユーザーがキャンペーンを待つようになり買い渋りにつながりかねないため、あまりお勧めできません。キャンペーンをやればよいというわけではなく、暦を捉えて最適なタイミングでキャンペーンを打つことが大切です。
4つ目は、現地メディアやインフルエンサー、テレビなど影響力の大きいメディアを用いた販売の設計です。
FacebookやLINEなど日本企業が慣れているメディアだけでなく、台湾独自のメディアを効果的に用いる事ができるかも今後の台湾市場においては非常に重要だと考えます。
例えば、台湾にはTVが100チャンネル以上あります。それぞれのチャンネルの平均視聴率は1%を下回っているため、プレイスメントを実施する場合においても日本円で200万円ほどという価格感であり、日本と比較できない程の金額でTV広告の実施が可能です。「視聴率も高くないから影響力もほどほどなのでは?」と思われる方が多いかもしれませんが、台湾の場合は「美容商品だとこの番組」というように長く続いている番組が多く、主婦層の方々や美容興味者が見る番組がある程度決まっているような状況です。
例えば、「女人我最大」という美容番組では多くの日系商品が紹介されており、この番組に紹介をされた後に検索量が大きく伸びたり、その番組内容を編集した動画を使ったYouTube広告にて獲得効率が大きく成長したりなどの効果が出ています。
また、日本ではテレビ広告というと、市場参入初期ではなくある程度ベースが出来上がり、よりビジネスを拡大していく時期に取り組むイメージがありますが、台湾では進出1年目から通常の広告運用と並行して実施するケースも良く見られます。どの番組でどんな訴求を行うか、テレビでの紹介後にどのようにWeb上で刈り取りを進めていくのかなど細かく緻密な設計を行い、デジタル広告とテレビ広告をうまく組み合わせ並行して進めていくことで、通常デジタルのみで広告を運用している時とは違うアプローチで新規獲得効率の改善ができます。
また、現地メディアやインフルエンサーも同様のことが言えます。現地メディアに取り上げられた事で商材の成分が有名になり成分名の検索ボリュームが大きく拡大した事例や、現地の有名人やインフルエンサーをイメージキャラクターとして起用することで大きく獲得効率が改善した事例もあります。現地のメディアのことをよく理解し活用することで台湾市場でより効果的に新規顧客獲得を進めることが可能です。
Webミーティングツールを用いて、丸木氏へのインタビューを行った
台湾で培ったノウハウで、アジア諸国へ横展開を
-ありがとうございます。最後に、台湾市場に進出し、ある程度の成功が見えた企業様が次に進むべき道は何か、丸木さんの考えを教えてください。
まず一つは、台湾においてある一つの商材で成功できたら、別商材についても同じように展開することです。例えば、もともとオールインワンの商品として長く展開を行っていた企業様が別訴求軸でさらに商材を追加した結果、いずれの商品においても同規模で売上が出てきている事例もあります。まずは日本市場における主力商品で台湾市場に進出し、新規顧客獲得できる方法を構築した上で、複数商材で横展開をしていく流れが一般的です。
もう一つは、台湾を足掛かりに、香港やシンガポール、マレーシアなど、アジア他国へも展開をしていくことです。私は、今後はこの流れが強くなってくると確信しています。これらの国々はFacebookやGoogleなど利用しているメディアがほとんど同じであり、台湾で得たノウハウをそのまま活かして横展開が可能です。
現在、弊社台湾拠点で取り扱うFacebook広告の出稿においても、全体の10%ほどは台湾以外の海外向け広告配信になっており、今後さらに伸び代が期待できる状態です。まずは台湾から先行的に投資を開始、台湾をハブとして、まだまだ先行優位性のある東南アジアに向けた広告配信をしていく流れが今後強まっていくでしょう。
まずは、平均的に所得が高くさまざまな言語スピーカーのいるシンガポールやマレーシア、香港といった国々への展開を台湾から越境ECの形で行うと良いと考えられます。これらの国々には華僑と呼ばれる方々がおり、彼らは中国語スピーカーでもあります。台湾で中国語による成功体験を積めたら、今度は言語設定は中国語のまま、国設定のみ変えて別のアジア諸国に広告配信を行うことができます。広告配信先の母数を増やすという意味で、大変分かりやすく横展開が可能です。
また、アジア各国に中国語から入ることで、どの国で商品の需要があるかが分かってきます。例えば、シンガポール向けの中国語ベースの広告配信による獲得効率が良いことが分かったら、今度はシンガポール向けに英語で展開してみる、その後シンガポールの現地語で展開してみる等、言語ベースでさらにボリュームアップができます。
さらにその次のステップとしては、人口の多いベトナムやインドネシア、タイなどに対して展開を進めていく流れが考えられます。
この台湾をハブにしたアジア諸国への展開に関してはまだまだ先行者メリットが大きい状態であり、早く確実に新しいものをやりきることができれば、十分な結果を出すことができると思います。海外展開においては、なんとなく敬遠をされたり、コストがかかり投資事業だと認識されたりする傾向にあります。ですが、改めて日本市場と比較した時に、これほど期待感のある市場も多くはないのではないでしょうか。
これからは各社が海外に目を向け展開を行っていく世界になってくると思いますが、やはりどの市場においても常に新しいものにチャレンジし続けられるかが成功の鍵となってくるかと思います。弊社も、これからも新しいものをいち早く提供し続けることができる企業でありたいですね。