顧客をファンに変えるには、まず“企業の顔”を見せよう【「オウンドメディア」の話をしよう(5)】
*本記事は「日経BPコンサルティングスタッフルーム」からの寄稿を、SMMLabが一部編集してご紹介しています。
 
顧客をファンに変えるには、まず“企業の顔”を見せよう【「オウンドメディア」の話をしよう(5)】

ここまでの4回で、オウンドメディアの機能は、「企業の価値観をコンテンツの形でお客様に伝えていく」こと、その目的は、単なるお客様を超えて、「企業のファンやサポーターになってもらうこと」であることをお話ししてきました。では、どんなコンテンツを発信すれば、自社のファンが増えていってくれるのか?──そこが、オウンドメディア担当者の最大の悩みでもあります。しかし、オウンドメディアの強力なコンテンツは、意外にも自分たちの足下に埋まっているのです。今回は、社内のストーリー発掘についてお話します(全5回)。
 


 
 
 
これから作るオウンドメディアに、どのようなコンテンツを盛り込んでいくのか──クライアント企業のご担当者と弊社スタッフとで立ち上げの編集会議を行う際に、こちらから意識的にご提案するのが、“企業の顔”が見えるコンテンツです。
言うまでもないことですが、“企業の顔”といっても、社長さんのご挨拶という意味ではありません。もちろん、古くは本田宗一郎氏、盛田昭夫氏といった名経営者から、最近の急成長企業を率いるベンチャー経営者まで、情熱や哲学を感じさせるトップからの発信は、それだけでインパクトあるコンテンツです。“企業の顔”としても申し分ありません。
 
しかし、カリスマ経営者に恵まれていない企業であっても、心配はご無用。どんな企業でも、社内には情熱や哲学の持ち主、あるいはその業種ならではのエキスパートが数多くいるからです。むしろ、社内の至るところに情熱や専門スキルにあふれた人たちが大勢いて、その人々の知恵や工夫、思い入れによって、この会社の提供する価値が生み出されている──という伝え方のほうが、はるかに好感度が高いことだってあるのです。
つまり、“企業の顔”が見えるコンテンツとは、その企業を支える人々の営みが見える、あるいは体温が感じられるコンテンツのことなのです。無機質な企業と、人の顔が見える企業。製品やサービスのレベルが大差ないなら、どちらにファンが付きやすいかは、自明のことでしょう。
 
 

外からの目で、社内コンテンツを“発掘”する

 
多くの企業であまり意識されていないのですが、実は、企業の中は、お客様にとって興味があるストーリー(=コンテンツ)の宝庫です。社内の様々なストーリーを拾って歩くだけで、オウンドメディアのコンテンツには不自由しない、と言っても過言ではありません。
 
ただし、社内に埋もれた面白いストーリーを発掘するには、それなりの“目利き”が必要です。社内の人間であっても、外から見るとこのストーリーは面白がってもらえるだろうなあ、と判断できる客観性が不可欠ですし、我われのような編集者がお手伝いすることの意味も、読者の興味を軸にしてコンテンツを掘り起こし、選り分け、構成できるという点にあります。
 
 
かつて市販誌を編集していたときに、こんなことがありました。担当する雑誌で大きなホテル特集を組むことになり、ある名門ホテルを取材に訪れたときのこと。名門ホテルだけに、メディアで取り上げられる機会が非常に多く、当時、そのホテルをめぐるコンテンツは出尽くした観がありました。しかし、新鮮味のない誌面では、読者も我われも面白くない。そこで、広報のスタッフにお願いして、ホテルの中をネタ探しに案内していただいたのです。
 
重厚なバーや豪華なスイートルームなどを見せられた後、ホテルの宿泊客があまり足を踏み入れないエリアを案内していただきました。すると、グランドピアノとソファだけが置かれたガランとした部屋が目にとまったのです。グランドピアノはスタインウェイ製で、ピアノの経験がある人なら一度は弾いてみたいような超一流品です。
 
スタッフの方に聞いてみると、国内外の著名な音楽家が演奏旅行でこのホテルに泊まる際、練習場として使っている部屋だとのこと。彼の口からは、誰もが知っているような世界的な名演奏家の名前が、日常業務の一端のように淡々と出てきます。その上、「空いてさえいれば、一般の宿泊客も無料でお使いいただけますよ」と何気なくおっしゃったのです。
Steinway&Sons
ホテルの中に、名だたる演奏家たちが練習した部屋があるというストーリーだけでも面白いですし、ピアノ好きの読者であれば、名演奏家と同じこの練習室を使いたくてホテルに泊まるに違いありません。即座に、この練習室を誌面で取り上げたいとお願いしたのは言うまでもありません。
 
ところが、当初、ホテル側からは難色を示されてしまいました。彼らにとってこの練習部屋は、演奏家を裏で支えるバックヤード施設。珍しくもない日常風景であって、いわば楽屋が誌面になることには抵抗感があったようなのです。まして、そこに読者が関心を持ってくれるとは思えない。雑誌に載るなら、お客様の行き交う華やかな施設を、ということだったのでしょう。丁寧に説明を繰り返した結果、最終的にはOKとなり、出来上がった誌面にはかなりの反響がありました。
いまでもクライアント企業のご担当者に「ウチの社内の話なんか、ホントに面白いですかねぇ」と疑問を呈されるたびに、この時のことを思い出します。
 
現在では、テレビのバラエティ番組が、企業のバックヤードや生産工場を取り上げて面白いコンテンツを作っていますから、当時より理解されやすい状況にはなりました。それでも、社内のストーリーを発掘し、コンテンツ化することに消極的な企業はいまだ少なくありません。せっかくオウンドメディアをお持ちなのにもったいないな、と思います。
 
 

オウンドメディアで自社の価値を「再発見」

 
以上、5回にわたって、オウンドメディアのお話をしてきました。お読みいただければ、まず大事なのは、自社のメディアに対する基本的なコンセプトだとお分かりいただけると思います。誰に、何を、どうやって伝えるか、というメディアの基本は、オウンドメディアだって変わりません。
 
もし、「何を伝えればいいのか分からない」というのであれば、それは自社が提供する価値をきちんと認識できていないか、もともと自社のビジネスが人に語るほどの価値を生み出せていないかのどちらかです。
後者であれば、オウンドメディア以前の問題ですが、前者であれば、オウンドメディアを作るという行為そのものが、自社の価値を整理し、再確認することにもつながります。自分のことを人に伝えるには、まず自分自身をよく知っておかねばなりませんから。場合によっては、「再確認」だけでなく、新規ビジネスにつながる「再発見」があるかもしれません。
 
 
せっかく手間と時間とコストをかけてオウンドメディアを作るのですから、ぜひ、自社の価値を高める媒体を目指してください。いつでも、お手伝いいたします。
 
 
 


 
ソーシャルメディアが成熟期を迎え、企業のマーケティングでは今後、より「コンテンツ」が重視されるようになると考えられます。
そこでSMMLabでは、日経BP社の各種メディア編集部出身者を中心に運営されているコンテンツメディア『日経BPコンサルティング スタッフルーム』から、コンテンツマーケティングに関する有益な記事をピックアップしてご紹介することにいたしました。コンテンツ制作のプロによる専門性の高い情報を、ぜひご参考ください。
 
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日経BPコンサルティングは、企業のコミュニケーション活動をサポートする会社です。「調査・分析力」と「編集力」をクルマの両輪とし、それぞれ<お客様を知る><お客様に伝える>ことのプロフェショナルたちが、クライアント企業のために幅広い活動を展開しています。
「日経BPコンサルティング スタッフルーム」は、日経BPコンサルティング社のプロフェッショナルたちが、ちょっとした仕事の話題やノウハウなど、企業の経営やマーケティングに役立つ情報を発信するサイトです。
 
日経BPコンサルティングスタッフルーム
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<ライター紹介>
能勢 剛氏能勢 剛
日経BPコンサルティング 取締役・企画出版本部長
「日経トレンディ」「日経おとなのOFF」など、市販3誌の編集長を経て現職。
趣味は、自転車、カヌー、パラグライダーなど、乗れるものは何でも。好物は、ウイスキー、ワイン、日本酒、ビール、紹興酒など、アルコールの入っているものなら何でも。
 


 
オウンドメディアのソーシャル化やコンテンツ戦略など、
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https://www.aainc.co.jp/service/monipla/


 
 
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