楽天グループ様 インタビュー_OGP

コロナ禍以降、急速に世の中のデジタル化が進み、生活者は以前にも増してオンライン・オフラインを行き来しながら購買行動を起こすようになりました。しかし、そのような生活者の行動をデータから正しく捉えて、販促/広告施策を一気通貫で展開するのは容易なことではありません。

このような環境下において「楽天グループ」が提供しているのが、1億以上(2022年6月時点)にのぼる楽天会員に基づく「楽天ID」と、同社独自の仕組みから蓄積される「オフライン購買データ」を組み合わせた、オムニチャネルにおける新たな販促・広告手法です。

今回は、楽天グループ株式会社にて、オフライン購買データに基づくIDマーケティングソリューション「RMP – Omni Commerce」を主導している山口 高志(やまぐち たかし)氏にインタビュー。同社が目指す「これからの販促・広告のカタチ」について詳しく聞きました。

コロナ禍により世の中のデジタル化が加速。OMOへの対応も急務に

ー山口さんの現在の担当業務を教えてください。

山口氏:
2016年3月楽天に入社し楽天市場での新規事業推進を担当した後、楽天内の新規事業創出プログラムにてオフライン事業を提案。2019年2月にユーザー向けサービス「Rakuten Pasha」※1)を開始しました。

2019年4月には楽天ID×オフライン購買データに基づくIDマーケティングソリューション「RMP – Omni Commerce」※2)を立ち上げ、現在はRakuten Marketing Platformにおけるオムニコマース領域を主導しています。

(※1)「Rakuten Pasha」とは:
スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど、毎日の街での買い物で「楽天ポイント」を獲得できるスマートフォン向けサービス。
Rakuten Pashaを通じて蓄積されるレシートデータは月間1,000万枚以上(2022年7月時点)にも上る。

(※2)「RMP – Omni Commerce」とは:
オフラインでの購買データに基づくIDマーケティングソリューション。楽天がオンラインとオフライン双方の消費行動分析データを蓄積していることを活かし、販促起点でのマーケティングを実現可能(詳細後述)。

山口氏
楽天グループ株式会社 アド&マーケティングカンパニー
データ&DXソリューション部 ヴァイスジェネラルマネージャー 山口高志(やまぐち たかし)氏

ー2019年2月に「Rakuten Pasha」および2019年4月に「RMP – Omni Commerce」を立ち上げ、その後1年程度でコロナ禍に突入しています。オンライン/オフラインの垣根を超えたユーザーの購買行動に向き合い、企業への最適なマーケティングソリューションのあり方を提案されてきた中で、この数年どのような変化がありましたか。

山口氏:
企業がオンライン/オフラインを超えたOMO施策(Online Merges Offline)を推進する動きは従前よりありましたが、コロナ禍によりそのスピードが一気に加速した
と感じます。

例えばブランドを中心としたメーカー企業は、店頭で実際にお客様に商品を試していただく機会が減る中、来店前に接点を持つ重要性が上がり、その手段としてデジタル活用が不可欠になりました。

小売店も、密を避けるためにチラシなどでお客様を一気に集客することができない、お客様の店頭滞在時間も減らさなければならない中で、効率よく集客しながら店頭スタッフの負荷も下げる手段として、デジタル活用が急速に浸透しました。

時が経つと共に「With コロナ」が当たり前になり、企業の販促/広告活動も一部従来型に戻ってきていますが、一方で「デジタルでも良いところ」「むしろデジタルの方が良いところ」も浮き彫りとなり、デジタル活用が当たり前に定着したように思います。

ーデジタル化が定着したことで「良かったこと」とは何だと思いますか?

山口氏:
デジタル化により、各施策にかける工数が大幅に短縮され、施策の計画から実施までのスピードが圧倒的に上がりました。

例えばメーカー企業が店頭販促を行う場合、これまでは小売店との調整や店頭の売り場作りを含めて3~4か月前には施策を決定し、人手をかけてクリエイティブを制作するなどの工数がかかっていました。他方、例えばデジタルクーポンを活用した店頭販促であれば、デジタル上で画像を作り配信設定をするだけですぐに施策が実施できます。店頭の負荷もかかりません。

また、デジタルの場合は予算のコントロールがしやすい点もメリットだと考えます。例えば店頭で全員がもらえるキャンペーンを行う場合、先着にした場合はどこまで先着かが分かりづらく、先着にしなかった場合は企業にとっても全体にかかる予算を予測しづらい側面がありました。デジタルであれば、一定の条件が来たらそもそもの配信をストップすればよいので、企業にとって格段にコントロールしやすいと言えます。

このように、コロナ禍以降ある意味強制的にデジタル化が進む中で、企業がデジタルの良さを実感し、どのようなお客様が何の販促施策によってどう行動したかもデータで掴みやすくなってきたことを背景に、企業がオンラインとオフラインの垣根を超えてマーケティングのPDCAを正しく回したいというニーズが急速に高まってきたと考えます。

楽天IDとオフライン購買データを軸にした「RMP – Omni Commerce」とは

ー生活者の購買行動や企業のマーケティングニーズの変化に対応して、楽天グループが現在提案している新しい販促・広告手法を教えてください。

山口氏:
楽天グループは「RMP – Omni Commerce」というIDマーケティングソリューションにて、国内1億以上の楽天会員に基づく「楽天ID」で、「オンラインとオフライン(オムニ)」における「購買(コマース)」を起点にしたマーケティングを提案しています。

楽天IDとオフライン購買データを軸にした「RMP - Omni Commerce」

山口氏:
楽天IDの特徴は、豊富な属性データと質・精度の高さ
です。国内1億以上の楽天会員の多くが楽天内の複数のサービスを横断的に利用しており、「楽天ID」には、そうした楽天エコシステム(経済圏)におけるユーザーの消費行動分析データが豊富に蓄積されています。

また、毎日のオフライン購買で楽天ポイントを貯めることができる「Rakuten Pasha」や、一部の楽天ポイントカード加盟店様()のデータから「オフライン購買データ」を蓄積する仕組みも構築しています。

(注)マーケティング施策におけるデータ利用に同意している店舗のみが対象

「RMP – Omni Commerce」は、こうしたデータを活用することで、オンラインとオフラインをまたいだ生活者の行動を分析できる環境を提供しています。企業様は「実際にオフラインで購買しているお客様はどのような方たちなのか」の理解をより深めることができるため、マーケティングの次のPDCAにつなげることが可能となります。

これまで、オンラインで購買が行われるECの領域では、「どんな人が何を買っているのか」をデータで把握し、適切なターゲティングを行うことが当たり前に行われてきました。

その一方、オフラインで購買が行われる場合は、オンラインの販促・広告活動がどうオフラインの購買に結び付いているかが可視化できず正しい評価ができなかったり、オフラインでの販促・広告活動は全生活者が対象となってしまい効率が改善しづらかったりする状況でした。

「RMP – Omni Commerce」は、「楽天エコシステム」の膨大なデータをもとにオフライン/オンラインの行動を組み合わせて販促・広告を一気通貫で行うことで、こうした従来の課題を解決することを目指しています。

ー「RMP – Omni Commerce」で実際に提供しているメニューを教えてください。

山口氏:
販促、顧客の育成、広告という3つの領域において、複数のメニューを展開
しています。

例えば販促領域のメニューの一つ「ポイントバッククーポン」は、「Rakuten Pasha」にてユーザーが事前にクーポンを獲得し、店頭購入後にレシートを送るとポイントがもらえる仕組みです。ユーザーによってはレシートを送ることが手間に感じられる方もいらっしゃるので、一部の店舗では、店頭で楽天ポイントカードを提示すれば後からのレシート送付が不要な「らくらく申請」機能も使えるようになってきています。

企業にとっては、事前にクーポンを配布することで店頭での負荷をかけずにキャンペーンが実施できますし、もちろんどのような層にクーポンを表示させるかのターゲティングも可能です。
発生する費用についても成果報酬の形式を取っているので、獲得単価をコントロールすることができます。

アサヒグループ食品の公式TikTokアカウント

山口氏:
どのような方たちが購入したかの購買分析もオプションとして提供
しています。デモグラはもちろん、新規/リピート、トレンド分析、チェーン分析などを流通横断で分析することで、次のアクションに反映が可能です。

オフライン購買分析

山口氏:
こうしたキャンペーンを楽天内の各メディアで露出させるとともに、楽天IDに基づき広告配信することもできます。「購買」を軸にしてターゲティングすることで、より費用対効果を高められるだけでなく、楽天IDを軸にして広告のインプレッション~クリック~実店舗での購買までを追うことができるため、どの広告が実際の売上に寄与したかの可視化も実現します。

また、楽天IDを基軸にすることで複数のブランドにまたがったクロスブランドマーケティングも可能となります。

Instore Tracking活用

ー具体的にどのような企業の利用が多いですか?

山口氏:
飲料、酒類、食品、日用品など、スーパーマーケットやドラッグストアに商品の取り扱いがあるメーカー企業様や、一部小売店様からご利用いただいています。大手企業様だけでなく、特定のカテゴリで知名度の高いブランドを持つ中規模企業様からのご利用も多いです。

オンラインで出来ることをオフラインでも当たり前に

ー今後の展望を教えてください。

山口氏:
これからも世の中のデジタル化は加速していくでしょう。生活者の行動がよりシームレスになる中、企業のマーケティング活動もそれに付随して進化していく必要があります。

我々は、オンラインで当たり前にできるデータを軸とした購買起点マーケティングをオフラインでも当たり前にできる環境を構築することで、より正しい顧客理解ができる状態を作っていきたいと考えています。

また今後のCookieレス時代を見据えて、各企業がファーストパーティーデータを蓄積し利活用する必要性が問われ始めていますが、自社単独でやりきるには時間もノウハウも必要です。「楽天ID」と「オフライン購買データ」を活用いただくことで、顧客理解が進み、マーケティングのPDCAが正しく回る状態を創り上げることを目指しています。

そして、こうした世界観の実現には、何よりオフライン購買で動機付けできるユーザー数の拡大が不可欠です。前述したレシート送付の代わりに購買時に楽天ポイントカードが使える「らくらく申請」を拡大するなどして「ユーザーの使いやすさ」を高め、ユーザーがオフラインの買い物を「お得」なだけでなく「楽しい」と感じていただけるような機会を作りつつ、並行して楽天エコシステムにおけるさまざまなサービスを通して接触点を設けることで、より規模を拡大していきたいです。