国内最大級の専門カンファレンス【モバイル&ソーシャルWEEK2012】 3日目の内容をレポートします。


マーケティングに携わる経営層や担当部署の責任者、そしてソーシャルメディアやスマートデバイス向けサービスの開発者、モバイルとソーシャルの提供事業者など、デジタルマーケティング業界のキーパーソンが一堂に会して行われた国内最大級の専門カンファレンス「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」。
2012年7月24日~26日の3日間にかけて行われた「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」で、SMMLabが取材したセッションをレポートしています。今回は第三日目(最終日)に開催された専門セッションの中から、急成長のスマートフォンアプリ「LINE」を展開するNHN Japanと、ソーシャルとモバイルを活用し街づくりを推進する東急電鉄の講演内容をご紹介します。

 
スマートフォンアプリ「LINE」の成長に学ぶ、スマートフォン時代のコミュニケーション戦略
NHN Japan ウェブサービス本部 事業戦略室/シニアマネージャー
マーケティングコミュニケーションチーム/マネージャー 矢嶋聡氏
全世界5, 000万ユーザーを突破し、破竹の勢いで成長を続ける「LINE」のマーケティングを担う矢嶋氏が登場。LINEが考える「スマホ時代のマーケティング戦略」について語りました。

 
PCからスマホに、ではない。スマホとは市場そのものが劇的に変わる革命である。
サービス開始からわずか1年強で全世界5, 000万ユーザーを突破。日本国内においても、スマホ利用者の44%にあたる2, 000万ユーザーを誇り、その月間アクティブ率は82%というLINE。なぜここまで急成長をしたか?その理由は「スマホ時代におけるニーズを的確に掴んだことだ」と矢嶋氏は語ります。
「この”スマホ革命”とは、単純にPCからスマホにデバイスが移ったという話ではなく、市場そのものが、そして人々の生活習慣や行動様式が劇的に変わるものです。今までのインターネットはリテラシーの高い人がデスクトップの前に座ってパソコンをするというスタイルでした。ところがスマホの普及により、今までインターネットに触れていなかった人もどんどんインターネットに入ってくるようになっています。スマホとは、まさに常時接続、high-spec computers 24/7/365 internet accessであり、私たちはそこに商機を見出したのです。」
そして、このスマートフォン革命を制するためには、「PC版をスマホに最適化」ではなく、「スマートフォンに完全に最適化」が必要で、ネットリテラシーが低い人でも直感的に操作できることが大切だと言います。
 
リアル&クローズドなコミュニケーションに注目
LINEは、FacebookやTwitterにはない「リアルなコミュニケーション」にも注目しました。
「FacebookTwitterは、友人を通じて多くの情報がもたらされるメリットがありますが、本当の意味でのリアルなコミュニケーションが取りくいのではと思っています。つまり、情報収集には便利ですが、コミュニケーションには弱い。ただ今後はもっと、リアルの人間関係をベースにし、それぞれの人間関係ごとに本音のコミュニケーションを取れるものが求められるのではと考えました。」
そしてここにも「誰でも、簡単に、すぐに使える」を徹底しました。それが「電話帳」による友達とのつながりであり、ちょっとした空き時間にもコミュニケーションでき、人間関係を円滑にする「スタンプ」であると言います。
 
リアルタイムマーケティングが成長を加速させる
そして、このLINEの急成長の背景には、LINEが徹底する「リアルタイムのマーケティング戦略」があると語ります。
「これまで、何かの商品やサービスを海外展開する場合は、現地法人を置いたり、国ごとのマーケティングが必要でしたが、アプリマーケットにはそれが必要ありません。言語設定さえ英語にしてしまえば、もう国境はないのです。そしてどこかの国で火がつけば、それがクチコミにより加速していきます。スマートフォンの市場は世界的に急激に成長しており、ある種イストリゲームの状態になっています。その中でいかに一番のポジションを、誰よりも早く取るか。そのためには、まずはマーケットに入り、初期のコアユーザーを確保することが大切だと考えています。」
「enter the market fast, lead nurture by PR/SMM, accelerate growth by advertising」
そしてLINEでは、まずは市場に入ってPRやSMM(ソーシャルメディアマーケティング)を実施し、その国である程度市場が取れそうであれば、オンライン広告やテレビCM等の広告で一気にスピードを加速させる手法を取っていると言います。
 
徹底的にモニタリング→チューニングを繰り返す
またLINEでは、「リアルの場で会話をするのと同じくらい、より早くレスポンスを返すことに開発のポリシーを置いている」と言います。
「ソーシャルメディアの普及によりユーザーの声を取りやすい状況になっていますので、LINEでは、ユーザーの反応を毎日毎日本当に細かく見て、チーム内全員でそれを共有、それに合わせてチューニングを繰り返しています。また、クリティカルなものにはすぐに対応する体制を取っています。ソーシャルメディアでは、悪いうわさや誤解もどんどん広まってしまうので対応の速さは重要だと考えています。」
 
Focus on Now!
そして最後にLINEの考える「今後の成長戦略」について次のように語りました。
「LINEとしては、今後のことではなく”今”にフォーカスしていきたいと考えています。”three months ahead is future” 3ヶ月先の計画を描いても、3ヵ月後にはそれが絵に描いた餅になっている可能性があるのです。」
矢嶋氏は、大ヒットの「スタンプ」も、そこまで戦略を持って始めたわけではなかったと言います。
「劇的な変化が起こっている今の時代に、もはや、1年や半年の中長期的なマーケティングキャンペーンは合っていません。本質的な価値のあるものをまずは市場に出して反応を見ていく、”戦略プランニング”から”リアルタイムプランニング”へシフトし、走りながら考えることが大切ではないでしょうか。」
 
街づくりにおけるモバイル&ソーシャルの活用
東急電鉄 都市開発事業本部 事業統括部 企画開発部 企画担当 福島啓吾氏
モバイルとソーシャルを活用し「その街に住んでいることがステータスになるような街づくり」に取り組む東急電鉄の福島啓吾氏が登場しました。

 
街の変化に合わせた新しい生活価値創造を
もともと街開発を事業とする田園都市株式会社の子会社を発祥とする東急電鉄は、田園都市線と東横線という非常に大きな2路線を持っており、そのエリアには506万人が住んでいるそうです。そして今後日本が人口減少社会に突入、超高齢化社会を迎え、世帯構成や生活スタイルも変化していくであろう中でも東急沿線に住んでもらうために、そして東急沿線で働き、遊びに訪れてもらうために、街の変化に合わせて、ハード・ソフトの両面で新しい生活価値を創造していかねばならないと考えています。
ハードの一環としては渋谷駅の大幅改修等がある一方、ソフトの一環として取り組むのが「PASMO」や「モバイル&ソーシャル」を活用した新しいサービスであると言います。
 
具体的なPASMOやモバイル&ソーシャル取り組み事例
2, 000年代の前半、街づくり事業者にとって「ネット」とは、あくまで「リアル」の対抗軸としてのものでした(ネットだけで満足せず、街に出てきてもらいたい)。しかし後半以降は「ネット」は「リアル」を増強させるものとして、短期的にはリテール系施設(百貨店、ストア等)における来客・売上向上のために、また中長期的にはエリア活性化、地域プロモーションのために活用しています。
 
PASMO活用事例
・エキッズ
子供が駅を通過すると保護者の携帯電話に通知が入るサービス。これ以外にも、生活導線上で必ず通る場所である駅でのピンポイントでのジオフェンシングにはまだまだ活用可能性があると考えているそうです。
・PASMOを活用したスタンプラリー
東急電鉄単体としての実施だけでなく、株式会社マピオン(Mapion)とコラボして実施したスタンプラリー【ケータイ国盗り合戦】『国盗おにごっこ』や、映画やゲームソフトの公開とコラボしたスタンプラリー等も実施しています。
・乗ってタッチクーポン キャンペーン
PASMOで記録された特定の降車履歴を、指定の施設の受付でリーダーにて読み取ることで、施設共通で使えるアナログクーポンを発行するもの。
・デジタルサイネージとPASMOタッチの連動
駅改札付近や駅待合室、商店街に設置したデジタルサイネージ(電子看板)にPASMOタッチするとクーポンが発券されるもの。
 
モバイル&ソーシャルの取り組み
・渋谷駅周辺でのiPhone向け位置情報ARサービス
渋谷駅周辺のショップや駅中に位置情報付きの独自シール「AR(拡張現実感)マーカ」を貼りだし、ユーザーはiPhoneを片手に各所に貼られたシールを巡ってのゲームに参加できるもの。これによりシールを貼りだした店への誘致を狙うほか、iPhoneで歩き回った履歴がセンターに残り、ヒートマップ・行動履歴(位置情報プロット)を取得。
・ニコトコ
二子玉川駅周辺を対象エリアとして、街を訪れる「ニコトコ」利用者のスマートフォンや携帯電話に対して、さまざまな情報やクーポン、ポイントなどを配信することで、利用者に街の新たな魅力を発信し、街歩きを楽しんでもらうサービス。二子玉川周辺の1, 300店舗を登録、二子玉川ライズ・ショッピングセンターを始め、玉川高島屋ショッピングセンターや東急フードショー等約200店舗にQRコードを掲示、読み込みながら歩くことでのスタンプラリーやレコメンデーション、ポイントなどを得られるもの。
 
「本当に使いたいと思われるものになっているのか」が課題
ただ一方で、このような取り組みには課題も感じていると言います。
・相当な理由がないとユーザーは動かない
これからますますスマホが普及したとしても、そもそもスマホの中は過当競争になっており、相当な理由がないとユーザーには使ってもらえないだろう。「テクノロジーやデザインパワーだけ」では決してユーザー継続して使ってもらえるものにはならない。
・ユーザーに能動的なアクションを起こさせるだけのコンテンツとは?
クーポンやポイントは運営者側から見ると消耗戦にもなり得るし、ゲームには利用者層の偏りがある。また、ナビゲーションやコミュニケーションにも、本当に求められているのか?という疑問も残る。
・ユーザーに対するプッシュの情報発信
商業情報発信に対する嫌悪感や個人情報の問題もあるのでは?
つまり、面白い技術やデザインを用いて先進的な取り組みを始めたところで、それが本当にユーザーに参加してもらえるものになっているのか?それが本当に街づくりにつながっているのか?という視点を忘れてはならないと語ります。
 
そしてそれを解決するポイントとして以下の4つを大切にしていると言います。
 
・オンライン側にオフラインを可視化
オンラインだけではなく、街中になるべく情報を出していくこと。同じカード等をエリア内の店舗にどんどん配っていき、街ぐるみで盛り上げていく。これにより、「二子玉川何かやってるな」というようなイメージが付けられればと思っている。(今後、「I love Newyork」のようなアイコンと連動できれば大きな効果を発揮できる可能性あり?)
・自分ゴト化
誰かがやっているもの、ではなく街づくりを自分ゴト化させること。以前、「街中で、数字に見えるものを撮影してきてください」とのお題をだし、その画像をクリエイターが加工した上で駅のサイネージに表示させる取り組みをした。「自分が関わったサイネージ」で街づくりが自分ゴト化するのでは。
・リアルイベント連動
地域のお祭りなどの地域リソースを活用すること。ソーシャルはリアルに根ざしてこそ社会を変える力になる。
・多様性
東急沿線の街づくりになるような様々な「モバイル&ソーシャル」のサービスが生まれるように、プラットフォームを提供。位置情報を用いたアプリを作ろうとすると、技術はあっても、店舗情報などの必要情報を手に入れることが難しいことがある。そこに「プラットフォーム」を提供することで、二子玉川で何かアプリを作ってみようというモチベーションになるのでは。そして、色々な事業者が入ることでワイガヤ感が出て盛り上げることができる。
 
最後に、「生活に添った形での価値提供」をし、「その街に住んでいることがステータスになるような街づくり」をしたいと締めくくりました。
 
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