顧客インサイトの分析手法&活用事例まとめ

ECやD2Cブランドを立ち上げて展開していく中では、顧客価値(顧客が商品・サービスに対して適正だと感じる価値)を創出していくことが重要です。

昨今、生活者の行動は多様化しているため、企業は顧客の心理・行動の変化を深く捉える必要があります。

そこで重要となるのが「顧客インサイト」です。
「顧客インサイト」とは、生活者の「何を買うか」「なぜそれを買うのか」といった、購買行動の背後にある深層の理由や感情を指します。
顧客インサイトを捉えることは、生活者の「体験価値」を理解し、顧客とより深い関係を築くための重要な鍵となります。

この記事では、顧客インサイトの収集手法、企業の取り組み事例、マーケティング戦略への具体的な活用方法を解説します。
この記事を通じて、顧客のインサイトの捉え方を理解し、顧客体験を最大限に高めるための実践的な知識を手に入れてください。

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顧客インサイトとは

顧客インサイトとは

顧客インサイトとは、生活者の「何を買うか」「なぜそれを買うのか」といった、購買行動の背後にある本当の理由や感情を指します。これは、生活者自身でさえも、はっきりと説明できないかもしれない、深層心理を含みます。

モノを買う理由は人それぞれで、とても複雑です。

例えば、いまこの記事を読んでいるあなた自身も、過去の自分の買い物の理由や動機をすべて整理して、はっきりと言葉にするのは難しいのではないでしょうか?中には、自分でも「なぜ買ったのかうまく説明できないような、思わず買ってしまった商品」もあるはずです。
このように、買い物の背後にある、生活者を買い物に駆り立てるさまざまな要素が「顧客インサイト」と呼ばれるものです。

例えば、あるスーパーマーケットが顧客インサイトを活用したケースを考えてみましょう。
スーパーマーケットは、顧客の購買データを分析し、特定の商品を購入する顧客が他にどのような商品を購入しているか、または特定の時間帯にどのような商品がよく売れるかなどを把握します。これにより、店内の商品配置や販売戦略を最適化し、顧客の購買体験を向上させることができます。

「顧客ニーズ」との違い

「顧客インサイト」と「顧客ニーズ」の違いを、わかりやすく説明します。

まず、「顧客ニーズ」は、顧客が自分の欲求や問題を解決するために必要と感じているものを指します。例えば、スマートフォンを使っている人が「もっと大きな画面で映画を見たい」と感じている場合、その「大きな画面」が顧客ニーズとなります。

一方、「顧客インサイト」は、顧客のより深い感情、思考を理解することです。顧客が「何を求めているか」だけでなく「なぜそのように感じるのか」を探るものです。

例えば、スマートフォンの「大きな画面」を求める顧客の背後には、「映画を見ることでリラックスしたい」という深層的な欲求があるかもしれません。この深層的な欲求を理解することが、顧客インサイトです。

つまり、顧客ニーズは「何を(What)求めているかという、顕在的な欲求」、顧客インサイトは「なぜ(Why)それを求めているか、潜在的な欲求」を理解することだと言えます。

これらを理解し、それに基づいた商品やサービスを提供することで、顧客満足度を高めることが可能です。

なぜ、顧客インサイトは重要なのか?

顧客インサイトは、ビジネスにおいて非常に重要な要素です。顧客インサイトの収集・分析は、顧客に関する多くの情報を企業に提供してくれるからです。

顧客インサイトには「顧客が誰であるか」、「何を求めているか」、「どのように行動するか」、「何に動機づけられて購買行動を起こすか」が含まれます。つまり、顧客理解を深め、ビジネスの成長と拡大の機会を見つけるのにも役立ちます。ターゲットをより的確に絞り込み、効果的なマーケティング戦略の立案・実行や、商品・サービスの開発などにも寄与します。

顧客理解の深化

顧客インサイトは、顧客の行動、嗜好、潜在的なニーズ、期待などを理解するための重要な手段です。これにより、企業は顧客が何を求めているのか、どうすれば彼らの課題やペインを解決できるのか、ヒントを得ることができます。

商品・サービスの開発・改善

顧客から得られるフィードバックやインサイトは、商品・サービスの開発・改善にも役立ちます。企業は市場のニーズに合った製品を開発し、競争力を保つことができます。

マーケティング戦略の最適化

顧客インサイトは、マーケティング戦略を最適化するのに役立ちます。顧客の行動や嗜好を理解することで、より効果的なマーケティングキャンペーンを設計し、ROIを向上させることができます。

顧客体験の向上

顧客インサイトを活用することで、顧客体験を向上させることができます。顧客が何を求めているのかを理解することで、よりパーソナライズされた体験を提供し、顧客満足度を高めることができます。

ビジネス成長の促進

以上のすべての要素が組み合わさることで、ビジネスの成長を促進することができます。顧客理解の深化、商品・サービスの開発・改善、マーケティング戦略の最適化、顧客体験の向上はすべて、企業の売上と利益の増加に寄与します。

顧客インサイトを見つける手法

以下に、顧客インサイトを見つけるための主な手法をいくつか紹介します。

(1)市場調査

市場調査は、顧客のニーズや行動パターンを理解するための基本的な手法です。アンケート調査などを通じて、定量的なデータを収集し、全体の傾向を把握します。

(2)既存顧客からのレビュー(UGC)収集と分析

既存顧客からのレビューやユーザー生成コンテンツ(UGC)を収集・分析することで、顧客の本音や感想を直接把握することができます。これらの情報は、新たな商品開発やサービス改善のヒントになります。

顧客にとっての「体験価値」を明らかにする手段は、前述の「市場調査」、後述の「インタビュー調査」「SNS分析(ソーシャルリスニング)」など多く存在しますが、
調査・分析で得られたアウトプットを、その後のマーケティング施策に直結させられるUGCツールもあります。

▼アライドアーキテクツの運用型UGCツール「Letro

  • UGCの生成・収集~活用・掲載~計測・最適化までを一気通貫で「Letro」のツール上で進行。
  • 複数のカートシステムとAPI連携。
    購入者に対し「購入後〇日」などと指定して自動的にUGC投稿を促し、購入者によるUGC生成を自動化、継続的なUGC生成機会を創出。
  • 集まったUGCをもとに、「利用者のどんな悩みやきっかけで選ばれ、どんな課題や痛みを解決しているのか」といった顧客インサイトの分析も可能(別途オプション)。

(3)SNS分析(ソーシャルリスニング)

SNS上の顧客の声を収集・分析する手法です。TwitterやInstagramなどのSNSは匿名で自由に発信できるため、ターゲットやユーザーの本音を収集しやすいメディアだと言えます。商品と関係のない投稿からも、ライフスタイルの傾向や価値観、願望などが垣間見え、インサイトの分析に役立ちます。

(4)インタビュー調査

「デプスインタビュー(1対1のインタビュー)」や「グループインタビュー(座談会形式でユーザーの本音を引き出すインタビュー)」など、直接顧客と対話することで深く情報を引き出す方法です。顧客の生の声を聞くことで、表面的なデータだけでは見えない情報を得ることができます。

(5)行動観察調査(エスノグラフィ)

顧客の日常生活を観察することで、その行動や習慣、価値観を理解する手法です。「日記調査」なども含まれます。

「日記調査」とはマーケティングリサーチの一つで、特定の期間内で参加者が自分の行動や感想、体験などを日記形式で記録しておき、企業側に提供する、という調査方法です。これにより、参加者の日常生活や行動パターン、消費行動などを細かく把握することができます。

新製品の使用感(例:家電製品など)やサブスクリプションサービスの利用状況など、実際の生活の中での体験を詳細に記録してもらうことで、より深い顧客理解につながります。

顧客の生活に深く潜り込むことで、より深い理解を得ることが可能です。

(6)投影法

投影法は、顧客が無意識のうちに抱いている感情や態度を引き出す手法です。

具体的には、顧客に対して何らかの「お題」を提示し、その反応を観察します。

ここで言う「お題」とは、具体的な答えを求めるのではなく、顧客の自由な発想や感情を引き出すための刺激(きっかけ)を指します。

例えば、SNSのハッシュタグ投稿キャンペーンで「あなたがこの商品を使って感じたことを一言で表現してください」「この商品を使って思い浮かぶキャッチコピーを考えてみてください」などといったお題を出すことで、顧客自身の言葉で商品やサービスに対する感想や感情を引き出すことができます。

同様に、大喜利や川柳を考えてもらうといった方法も投影法の一つです。これらは、顧客が自由に発想を広げ、自身の感情や考えを表現することを促します。これにより、顧客が無意識のうちに抱いている感情や態度を理解することができます。

参考:投影法とは|電通マクロミルインサイト

顧客インサイトの活用事例

以下に、さまざまな企業の顧客インサイトの活用事例を紹介します。

「臭いが気になるから使う」ではなく「掃除や帰宅時のルーティンの一環」だった:ファブリーズ

P&Gの消臭・芳香剤「ファブリーズ」は以前、「なかなか市場に浸透しない」という課題を抱えていました。

そこで、ファブリーズのヘビーユーザーに対する家庭訪問インタビューを通じて、顧客インサイトを深掘りすることに。

その結果発見できたのは、ヘビーユーザーがファブリーズを「消臭」のためではなく、日常の掃除や帰宅時のルーティンの一環として使用しているという事実でした。

これはP&Gにとって大きな発見であり、商品の位置づけやマーケティング戦略を見直すきっかけとなりました。

それ以前は、P&Gはファブリーズを「臭いが気になったときに使うもの」として宣伝していましたが、ヘビーユーザーはそれを「毎日のルーティンの一環として使うもの」として捉えていました。

このような顧客インサイトを捉えた訴求方法により、P&Gはファブリーズの使用シーンやアイテムが限られてしまうという問題を解決し、消費者にとって「なくてもいいか」「あ、使うの忘れた」という状況を避けることができました。

この新たな発見を活かし、ファブリーズの市場浸透に成功しました。これは、顧客インサイトを深く理解し、それをマーケティング戦略に活用することの重要性を示しています。

参考:データでは「売れない」ファブリーズ大成功の理由 消臭芳香剤市場を2倍にした商品の意外な真実 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン

メディアや美容業界が推進する美の基準に不満を感じていることを発見:Dove

ユニリーバのボディケアブランド「Dove」の「リアルビューティーキャンペーン」は、顧客インサイトを活用した成功例として知られています。

2004年に開始されたこのキャンペーンは、「美の社会的基準」を再定義することを目指しました。

Doveは、多くの人々が自分の体に対する満足度が低く、メディアや美容業界が推進する美の基準に不満を感じていることを発見しました。

このキャンペーンでは、YouTubeやFacebookなどのソーシャルメディアを通じて、実際の女性たちのビデオや画像を共有し、自分たちのユニークな美を受け入れるように奨励しました。Doveは女性たちに自分の写真を、キャンペーン固有のハッシュタグを付けて投稿するように求め、キャンペーンを支持するコミュニティを作り上げました。この「リアルビューティーキャンペーン」は、Doveのブランド認知と収益に大きな影響を与えました。

この事例から、顧客インサイトの分析には、商品の機能的な価値への評価だけでなく、ユーザーがどのような「体験価値」を感じているかの収集が重要であることがわかります。

参考:「ダヴ・リアルビューティーの約束(Dove Real Beauty Pledge)」の発表

「お金がかかってもいいから成果を出したい」という体験価値を強力に打ち出し、ダイエットを成功させたいユーザー層に刺さった:RIZAP

パーソナルトレーニングジム「RIZAP」の「結果にコミットする」キャンペーンは、顧客の深層心理に対する理解とそれに基づくマーケティング戦略の成功例です。

このキャンペーンでは、顧客が「自分自身の健康と体型に対するコミットメントを強化する」という体験価値を提供し、顧客の心を掴みました。

ダイエットとは、多くの人が「時間がかかる割には、成果が出ない」と感じているテーマだと言えます。そこに対して「お金がかかってもいいから、成果を出したい」という体験価値を強力に打ち出したことで、ダイエットを成功させたいと考えるユーザー層に刺さったのです。

その結果、RIZAPのサービスを契約したいと感じる顧客が増え、RIZAPはビジネスの大きな成果を上げることができました。

企業が顧客の深層心理を理解し、それに基づいたマーケティング戦略を展開することで、大きな成果を上げることができた事例です。

参考:「カップヌードル」と「ライザップ」の成功に共通すること|Diamond Online

「質のいい野菜をお得に試せる」という点に価値を感じている人が多いとわかり、新規獲得LPを改善:大地を守る会

オイシックス・ラ・大地株式会社が運営する食品宅配サービス 「大地を守る会」は、取得した顧客インサイトをLP(ランディングページ)制作に活かしています。

顧客インサイトや広告運用結果を分析すると「大地を守る会」のユーザーは、「質のいい野菜をお得に試せる」という点に価値を感じている人が多いとわかりました。

そこで、従来の「安心安全」や「質の高い野菜」といった訴求に加え、「質のいい野菜をお得に試せる」という訴求を加えたLPを新たに制作し、LP経由のCVRを改善。顧客インサイトから得られた結果をマーケティング施策に活かすことで、新規顧客獲得の効率化につなげている事例です。

大地を守る会

「品質管理を徹底して安⼼安全なおかずを届ける」がブランド価値だとわかり、新規獲得LPを改善、CVR向上:三つ星ファーム

株式会社イングリウッドが展開する冷凍のおかず定期便サービス「三ツ星ファーム」でも、取得した顧客インサイトをもとにLP(ランディングページ)制作に取り組んでいます。

既存顧客から得られたUGCをもとに顧客インサイトを分析すると、「安心安全なおかず」「管理栄養士が監修」「添加物の少ない食事」が顧客から評価されていると、新たに発見することができました。

その一方で、従来の新規獲得LPは機能価値の訴求がメインとなっており、十分にブランド価値を伝えきれていないため、潜在顧客を獲得し切れていない可能性が出てきました。

そこで、顧客インサイト分析結果をもとに新たなターゲットや訴求を策定しLPを制作。メインユーザー層である30-40代の女性から高く評価されていた「品質管理を徹底して安⼼安全なおかずを届ける」という訴求を新たに追加。その結果、従来のLPと比較してCVRが1.3倍改善し、それにより、全体のCPAにも好影響を与えて、CPA改善率27%を実現しました。

UGCをマーケティングコンテンツとしての活用するだけでなく、インサイトから顧客理解を深化し、マーケティングコミュニケーションの改善にまで昇華させている事例です。

三つ星ファーム

顧客インサイトを施策に活かす方法

顧客インサイトを施策に活かす方法として、次のような取り組みが挙げられます。

商品開発への活用

顧客インサイトを商品開発に活用することで、顧客が本当に求めているものを提供することが可能になります。例えば、顧客の購買行動や好み、ライフスタイルなどを分析することで、新たな商品のアイデアを生み出したり、既存の商品を改良したりすることができます。

マーケティング施策への活用

マーケティング施策においても、顧客インサイトは重要な役割を果たします。顧客の行動や嗜好を理解することで、より効果的なマーケティング戦略を立てることができます。例えば、どのようなメッセージが顧客に響くのか、どのチャネルを通じて情報を得ているのかなどを把握することで、ターゲットに合ったマーケティング活動を展開することができます。

サービス改善への活用

また、顧客インサイトはサービス改善にも活用できます。顧客のフィードバックや満足度を分析することで、サービスの問題点を発見し、改善策を立てることができます。これにより、顧客満足度を高め、リピート購入や口コミによる新規顧客獲得につなげることができます。

顧客の「体験価値」を正しく理解しよう

顧客インサイトがなぜ重要かと言うと、その深い理解が企業の成長と成功に直接貢献するからです。

顧客インサイトの洞察は、顧客のニーズ、欲求、行動、そして感情を理解するための強力な手段であり、企業はより効果的な製品開発、マーケティング戦略、そして顧客体験のブラッシュアップが可能になります。

成功事例を見てみると、P&Gのファブリーズ、Doveのリアル・ビューティー・キャンペーン、そしてRIZAPの「結果にコミットする」キャンペーンは、いずれも顧客インサイトを活用した結果、市場での成功を収めました。顧客の「体験価値」を理解し、それを製品開発やマーケティング施策に反映させることが、顧客の心をつかみ、長期的な成功につながると言えます。

顧客インサイトの分析においては、商品の機能的な価値への評価だけでなく、ユーザーがどのような「体験価値」を感じているかを理解することが重要です。

これにより、企業は顧客の真のニーズを満たす商品・サービスを提供でき、その結果、顧客満足度の向上とビジネスの成長を実現することができると言えます。

この記事の著者

景山 真理

景山 真理

フリーランスのライター。EC店舗、タウン情報誌制作会社、マーケティング支援企業などへの勤務経験を経て、Webメディア・紙媒体で活動しています。専門領域はデジタルマーケティング、コンテンツマーケティング、ECのセールスメルマガ、デジタルトランスフォーメーション。
Website:Mari Kageyama Writing Works

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