D2Cモデルで大きな成長を成し遂げている企業はどのような価値観や考えの下、マーケティングにおける意思決定を行っているのでしょうか?
業界の中でも注目度が高い「アンカー・ジャパン」「ZENB JAPAN」の2社に加え、株式会社Appify TechnologiesでCVOを務める菅原健一氏をモデレーターにお迎えし、 D2C時代に事業を伸ばすためのヒントをディスカッションしました。
広告依存からの脱却、アプリ展開、UGCなど、いま業界の中でホットなキーワードを軸に展開された議論の模様をお届けします。
※セミナー概要:
D2C的ブランド成長戦略~アンカー・ジャパン、ZENB JAPANに聞く、サステナブルな事業の伸ばし方とは~
アライドアーキテクツ株式会社と株式会社Appify Technologiesが共同で開催したセミナーイベント。2022年5月16日にWeb上でのライブ配信形式で実施された。
登壇者
モデレーター:
スピーカー(50音順):
事業を伸ばすためのプロダクトづくり
ー菅原氏:本日は、D2C時代のサステナブルな事業の伸ばし方について伺っていきます。
そもそもプロダクトが良質でお客様に選ばれなければ、マーケティング施策に取り組んでも事業成長は望めません。そこで「プロダクトの優位性をどこに置いているのか?」をアンカー・ジャパンさんとZENB JAPANさんにお聞きしたいと思います。
猿渡氏:当社は充電器のイメージが強いと思いますが、実は現在は、モバイルバッテリーや充電ケーブル等の売上は全体の半分以下です。
それ以外のイヤホン、ロボット掃除機、プロジェクターの売上が伸びてきており、充電器の会社というよりは総合デジタル機器メーカーに変貌を遂げています。
スマホ・PC等のコアデバイスを補完するアクセサリ(=充電器やケーブル)作りから、自分達がプロジェクター等のコアデバイスを作るようになってきています。
猿渡氏:モバイルバッテリーや充電器の市場規模は、スマホ本体に比べて遥かに少なく、単価も小さいです。すると、本気で「充電器に対してR&D(研究開発)投資しよう」と考える会社はあまり存在しません。逆に言えば、例えば100億市場だとして、シェア50%を取れたら50億で、結構大きいと言えます。
充電ケーブル・充電器について、10年前は誰も、ブランドを指名して選んでいませんでした。
ところが最近では「Ankerの充電器がいい」と選んでくれる人もいます。すると「耐久性がある」「サイズが小さい」「充電速度が速い」等のちょっとした差が、選ばれるポイントになります。
そこで得たノウハウを、オーディオ機器や、ロボット掃除機に応用する等、愚直にやってきました。
西村氏:ZENBでも同じく、「お客様の気持ちをどれだけ捉え続けられるか」を重視しています。そうでなければ、広告に頼って一時的に売上を獲得し、あとは頭打ち…という事態にも陥りかねません。
よって、どれだけお客様を捉えきれるか、そこに合わせた商品展開を追求する企業努力が必要です。
西村氏:パスタのような見た目の「ZENBヌードル」は「黄えんどう豆」を原料にした麺です。食品メーカーとして技術の試行錯誤を重ね「世界初の黄えんどう豆100%ヌードル」と打ち出しているところが優位性の一つです。捨てられてしまう薄皮まで使っているところや、グルテンフリーといったポイントもあります。食品として訴求軸が複数あり、お客さんのニーズに合うように作っています。
村岡氏:ブランドがスケールしたのは、プロダクト力の高さと表裏一体なのでは?実際に食べてみて美味しい、繰り返しさまざまなレシピにトライしたくなる…だから結果的にSNS等で情報がシェアされたのではないでしょうか?
猿渡氏:食品メーカーとして「美味しさにこだわる」以外に、伸びた理由として思うところはいかがですか?
西村氏:ニーズを深堀りしていくと、ダイエット、美容、生活習慣改善に興味のある人や、グルテンフリーが理由で買ってくれる人もいます。
菅原氏:お客様の悩みを解決できるプロダクトだからこそ、選ばれているんですね。
サステナブルな事業と、そうでない事業の違い
ー菅原氏:「サステナブルな事業と、そうでない事業の違いとは?」このテーマを掲げられてパッと直感的に、皆さんどう答えますか?
猿渡氏:良いプロダクトを、お客さん目線で設計できること。それができる組織、意思決定できる経営陣がいること。つまり「プロダクト」「顧客視点」「組織」の三位一体が重要で、どれか一つが欠けても絶対にうまくいきません。
世間では「タピオカ店が流行って、その後、からあげ店が流行って…」といった流れもありますよね。1年の売上を最大化する目的では、それもアリだと思いますが、当社のようなハードウェア事業ではそういうわけにもいきません。
菅原氏:長く売れるものをしっかりと作り続けていく。リーダーが、そのような会社のカルチャーを作っていくことも必要ですよね。ZENB JAPANさんは、ミツカンさんの子会社ということで「長く続ける」文化が会社にインストールされているのでは?
西村氏:ミツカンは江戸時代から続く会社で歴史は長いですが、会社の考え方自体は実はあまり変わっていません。「サステナブル」という言葉は、最近よく聞きますが、ミツカンとしては「事業の結果、環境や社会に貢献する」という考え方を昔から持っています。「取り組みを、長く続けていくためにどうするか?」「長く愛されるには?」「10年先を見据えた取り組みを考えよう…」など、長期スパンの視点を持ち、一過性のところにすぐに飛びつかない。そのような物の見方の社風です。
菅原氏:「サステナブルな事業=顧客が居てこそ」だと思います。つまり、お客さんが居るところで、しっかりビジネスができているからこそ続く。
「毎回広告を見せないと買ってくれない」ではなく、一度買っていただけたら、すごく気に入ってくれて、あとは勝手にリピートしてくれる人をどれだけ増やせるかが重要ですね。
2社とも、繰り返し買ってもらえるビジネスですよね。
西村氏:買ってもらった後が、本当の勝負です。ZENBでは、初めて食べた2〜3日後が「第一の勝負どころ」であり、そこでどれだけ良い体験をしてもらうかを重要視しています。1回食べたら、食べ切ってもらうために、どうするか。コミュニケーションをSNSやサイト、メールで情報を補完していき、「次も頼もう」というループを永遠に回していく。その取り組みが、非常に大事です。
菅原氏:「1ヶ月経って、前に買った商品をまだ食べ切らずに、余ってしまっている」「美味しくて食べ切って、何ならもっと早く、次の分を配送してほしい!」両者では体験として、全然違いますよね。
つまり、お客さんの中でも、「プロダクトが大事」であり、「もっと繰り返し使いたい」とお客さんが思ってくれることが、サステナブルという意味でも重要ですね。
村岡氏:マーケ手段でハックする、もしくは、顧客体験を良くしていく…2軸の施策があると思っています。
「CRMの取り組み方」「広告クリエイティブの作り方」等、マーケ手段をハックすることも非常に大事ですが、ユーザー視点では「箱が開けやすい」「捨てやすい」「不在時はポストイン」「届く数日前にリマインドあり」といった顧客体験も重要です。
カスタマーエクスペリエンスが良いと、LTVが上がり、KPIが良化していく。マーケの人もリアルな顧客体験をキャッチアップしてこそ、全体最適に繋がっていくのではないでしょうか?「新規獲得できた!こんなプロセスで引き上がった!」といった、自分たちのKPIに紐づくところにフォーカスしがちですが、その前後のストーリーもキャッチアップできると、施策内容、施策量も変わってくるかもしれません。
顧客が増え続けるサイクル
ー菅原氏:サステナブルにお客さんを増やすためには…
- Step1 : SNS投稿を見て、欲しくなる。
- Step2 : アプリなどの手段で、いかに簡単に購入でき、いかにリピート購入したくなるか。
- Step3 : 商品を体験した喜びをSNSに投稿。
企業公式アカウントにフォロワーがたくさんいても、情報は同じ人にしか届きません。でもユーザーが投稿すれば、新しいユーザー層に情報が届きます。 - Step4 : クチコミが起きて、欲しくなり、企業公式アカウントをフォロー。
それでまた、新商品情報の刺激を受け、買いたくなる…という一連のサイクルを回す必要があります。
ー菅原氏:SNSを上手く活用していると言えばZENBさん。「Step1」としてどんなことをやってますか?
西村氏:SNS上に、いかにUGCを自然発生させるかが課題です。
ZENBのニーズとして高いのは「ダイエット」「美容」ですが、逆説的に「もう夜遅いけど、何か口に入れたいな…(罪悪感のない食べ物を)」といったニーズもあります。そこで「夜ガッツリ食べたい!」みたいな切り口から、投稿促進キャンペーンを打ったりしています。
西村氏:こういうきっかけを提供すると、面白がって色々上げてくれます。
単に「あなたのレシピ投稿して!」だけだと、あまり上げてくれなかったり、後に続かない。でも、このように敢えてオケージョンを絞ったタイトルだと、ハッシュタグをつけて参加したくなる。そこも狙っています。1人で3、4回上げてくれる人もいて、キャンペーン自体が盛り上がるし、他のユーザーに良い刺激も与えられます。
村岡氏:投稿テーマが漠然としすぎると、アウトプットのイメージが見えないから自分の意見を投稿しづらいですよね。
例えば…コロナ禍、Zoom会議に参加する人が増える中、あるファンデーションメーカーが「Zoomで一番映えるやり方は?」みたいな投稿テーマに絞ったら、凄く投稿が増えた事例もあります。
SNSで投稿を増やしたい、と思っている会社は多いと思いますが、投稿テーマのシチュエーションを細分化すればするほど、スケールしやすいと言えます。
なおかつ、誰でも企業公式投稿のクリエイティブを真似しやすいよう、あえて普通のシチュエーションがいいと思います。「お皿さえあれば、自分も真似して料理の写真を撮影できる」とか。
UGCは、「リアルな声」「身近なコンテンツが欲しい」という背景から求められるものです。
ところが、インフルエンサー、アンバサダー施策等でUGC領域が膨れ上がってくる中で、業界が「UGCであれば何でも良い」という思想に変化しつつあるようにも感じています。
でもそれでは、本質ではなく、原点とズレてしまいます。
「クチコミを得たほうが、企業が発信するメッセージでは勝負できないところで、勝負できるようになる」が原点だったはずです。
菅原氏:昨今の生活者は「この情報は本当か?嘘か?」にすごく敏感です。企業としては、「嘘」や「無理」がない状況を目指さなくてはなりませんね。
ー菅原氏:続いて、「Step2」の話です。アンカー・ジャパンさんがアプリから簡単に買える仕組みを導入した理由は?
猿渡氏:お客様にとって、より選択肢が増え、顧客目線を考えると便利になるからです。Anker Japan公式サイトよりも、もっと販売寄りにコンテンツを絞って、直営店(Anker Store)の場所を手早くチェックできたり、カスタマーサポートとのチャットも利用できます。
製品が他社より50円高かったとしても、「あの会社ならアプリでカスタマーサポートにすぐ聞ける、相談できるから、ここを選ぼう」という状況を作る。それもプロダクトの一部だと考えています。
そして、アプリをダウンロードしてくれる人は、ロイヤルティ、LTVの高い人です。よりファンになっていただきやすい人を、しっかり惹きつける。そのために、アプリは良いツールだと言えます。
ただし、アプリの作り込みを目的にしないで「カスタマーサポートのチャットを利用できて、最低限見やすい」といった絞り込みも大切です。つまり、あまり巨額の費用をツール作りに投じないで「お客様のためになるように」という視点で活用すべきだと思います。
顧客の解像度をいかに上げられるか
ー菅原氏:最後に、今後の展望を一言ずつお願いします。
村岡氏:我々としては「UGCでKPIを良化させる」といった話をよくさせていただくのですが、その本質は「マーケット、そして顧客の解像度を、全員がいかに上げられるか?」にあります。
つまり、UGCを通して顧客を深く理解するーその積み重ねで、D2C・ECのブランド活動を支えていきたい。それがサステナビリティにつながると確信しています。
西村氏:ZENBでもすべての取り組みは「お客さんとのつながりを、いかに増やしていくか」に帰結します。
リピーターが何を求め、何を考えているかを、SNSやインタビューを通じて理解し続け、時代に合わせて変化しながら、生活者に向けて新たな価値を提供していきたいです。
猿渡氏:「Ankerのある生活は、サステナブルな生活」を実現するために、顧客目線のプロダクト作りをしっかり積み重ねていきたいです。
菅原氏:ビジネスモデルが「刈り取り型」になってしまうと、サステナブルだとは言えませんよね。お客さんに良い体験を提供し、リピート購入を増やしていけるよう、取り組んでいくことが大事ですね。