D2C最前線#2セミナーレポート 後編

D2C企業のディスカッションを通してD2Cトレンドの本質を見つめ、これからのブランドが事業を成長させるヒントを提供するイベント、「D2C最前線」シリーズ。

シリーズ二回目となる今回は、現在急成長しているD2CブランドであるMEDERI、MiL、Linc’wellの3社を招き、「D2C的ブランド立ち上げ」をテーマにパネルディスカッションを行いました。今回はその内容を前編・後編の2回に分けてレポートします!

ディスカッションの後半では、各社によるクラウドファンディングの経験、どのように生活者の声を聴きブランド展開に活かしているのか、事業立ち上げから拡大フェーズに移行する際の注意点など、急成長D2Cベンチャー企業ならではのリアルな話が展開されました。

前編の記事はこちら:
エモいストーリーの裏側に緻密な戦略あり!注目のD2Cベンチャー3社が語る、「D2C的ブランド立ち上げ」とは?【D2C最前線#2 イベントレポート・前編】

※イベント:D2C最前線とは?
株式会社SUPER STUDIOとアライドアーキテクツ株式会社が共同で開催するセミナーイベント。2020年2月の第一回開催に続き、2020年5月27日にシリーズ第二回目となる「D2C最前線 #2」がWeb上でのライブ配信形式で実施された。
D2C最前線 #2イベントサイト

「成長D2C企業が語るD2C的ブランド立ち上げとは?」
パネリスト(五十音順)
・MEDERI株式会社 代表取締役CEO 坂梨 亜里咲氏 
・株式会社MiL 代表取締役社長 CEO 杉岡 侑也氏 
・株式会社Linc’well COO 氷熊 大輝氏 

モデレーター
・W ventures株式会社 代表パートナー 東 明宏氏

クラウドファンディングを通じて、市場の生の声を

-東氏:本日登壇の皆さん全員、「クラウドファンディング」に取り組まれた経験をお持ちですね。「クラウドファンディング」を実施してみて、最初自社で持っていた仮説と同じだったところ、違ったところはありましたか?

氷熊氏:弊社の場合は、当初自社で持っていた仮説が市場の受け取り方とおおよそ合っていることが確認でき、その点は安心しました。でもやはり、実際に消費者の方と話してみることで得られた面白いインサイトはありましたね。

例えば、どれくらいの価格感が妥当かについてです。良い成分を入れようとするとどうしても原価が高くなり商品の価格が上がってしまうのですが、消費者の方からの「安すぎると(逆に)品質が悪いと感じる」などの声によって、適切な価格ラインがだいたいどのくらいなのかを引くことができ、また自分たちの価格はそんなに悪く受け取られないのかもしれない、という発見もできました。

坂梨氏:私たちも初期プロモーションとしてクラウドファンディングを行いました。その中で想定外だったのが、女性だけでなく男性にも多くの支持を頂いたことです。私たちの商品は男性には煙たがられるのでは、という仮説も持っていましたが、多くの男性の方がアクションを起こしてくださったのは嬉しい驚きでした。

実は、当初「夫婦ふたりで飲めるサプリメント」を検討していた時期もあったのです。ブランドのメッセージがぶれそうかな、と考えて見合わせていたのですが、今後はそのようなアプローチも良いのかなと考えるようになりました。

また、弊社がターゲットとしているパートナーがいて妊娠準備中の方や、既に身ごもっている方だけでなく、独身女性の方にも共感していただきました。こちらは、恐らくクラウドファンディングの利用者属性によるところもあるかもしれません。

クラウドファンディングが終了した今も、クラウドファンディングのページ経由でじわじわとお問い合わせをいただけています。資金目的だけでなく、PRやマーケティング目的としてもクラウドファンディングに大変助けられたと感じますね。

D2C最前線#2 Ubuクラウドファンディング
サプリメントボックス「Ubu」の先行会員をCAMPFIREで募集
画像引用:【日本初】子を望むすべての女性へ向けたサプリメントボックス「Ubu」先行会員募集|CAMPFIRE

杉岡氏:弊社もクラウドファンディングを2回実施しました。先ほど価格の話がありましたが、弊社のベビーフードの価格は市場の約3倍くらいするのです。当初は「購入するのは港区に住んでいる人くらいなんじゃないか」などとも言われたりしましたが、実際に購入していただいた方のデータを全部見ていくと、世帯年収が1,000万円を超える方は全体の20パーセント強くらいしかいないんですね。価格うんぬんよりも、もっともっと子供に良い体験をさせたい、という気持ちがあることがデータから読み取れます。

よって、クラウドファンディングだけに限らず、やはりデータを中心にユーザーとしっかりコミュニケーションをすることがとても大切だと思います。いいものを作ろうとすると原価がかかり、その分売価が上がりますよね。でも、売価そのものは「誰の何を解決するか」で決まるものですから、原価がロックされた状態で価格の議論を始めるのではなく、

まずは「このニーズをこのプロダクトで解決できるのか」の改善を、ものすごいスピードで重ねていくことが大切なのではないでしょうか。そしてその過程で、いつしかニーズに価格がバチっとはまっていくのではないかと思います。このようなプロセスを辿れるのが、私たちのようなD2Cベンチャーの強みであり、大手メーカーとの違いだと考えます。

D2C最前線#2 ベビーフード寄付プロジェクト
ベビーフード寄付プロジェクトをReadry forで実施
画像引用:頑張るひとり親家庭を救う、ベビーフード寄付プロジェクト|READYFOR

大企業に負けない、D2Cベンチャーの強みとは

-東氏:「大手メーカー」との違いについての話が出ましたが、ベンチャーとしてまだ資産もそれほど多くない中で、既存の大手とどのように対峙していこうと考えていらっしゃいますか?

杉岡氏:私たちは既存メーカーと同じく「物売り」ですが、「物売り2.0」だと考えています。外から見えているものは一緒でも、組織構造や原価構造など、中身はまったく異なっています。私たちが提供する価値は、既存のメーカーが提供する価値とまったく異なるところにあるということです。例えば、物を売るだけでなく、それ以外のサービスもできるだけインタラクティブに、かつシームレスに提供していくことも、大手との違いの一つです。

氷熊氏:弊社の場合も、同じようにヘルスケア領域を扱っている大手がたくさんいます。ただし、今まではあくまで違うステークホルダーから分断されて価値が提供されていたと思うんですね。例えば、風邪だったらここのクリニックに行く、頭皮に悩んだらスカルプシャンプーを使う、さらに悩んだらAGA専門クリニックに行くなど、それぞれ分断された情報をもとに、違うブランド・全く違う体験で、商品やサービスが提供されていたと思います。

一方で、弊社が提供する価値は、どんなヘルスケアの内容であっても、一つの一元化されたデータ管理のもとに、統一されたUXで、商品やサービスを提供できることです。一人のユーザーとあらゆるタッチポイントでつながり、その方の状況に応じた価値を提供していきます。

また、オンラインやオフラインだけで勝負するのではなく、オフラインも活用しながらオンラインにも展開したり、またオンラインで得られた知見や示唆をオフラインにも活用することで、いいシナジーを生み出していくこともD2Cとしての価値に繋がると考えています。

-東氏:D2Cというとオンラインを中心にビジネスをするイメージがありますが、Linc’wellさんはオフラインも活用することで強みに繋げていらっしゃるのですね。

杉岡さん、坂梨さんは「オフライン」の取り組みについてどうお考えですか?

杉岡氏:私はオフラインとオンラインの2極化構造で語るというよりも、マーケットがあり、それにオンラインやオフラインも含めてどのような販路があり、それぞれの販路の特徴が何で、それぞれでどう既存と戦えるか、という観点で考えています。

坂梨氏:あらゆるタッチポイントをうまく活用していきたいと考えています。新型コロナウイルスの感染拡大により環境が変わってしまっていますが、もともとはオフラインイベントも色々仕込んでいたんです。今後はスクールビジネスにも着手していきますが、実際の体験を通じて弊社プロダクトのファンになってもらえるような取り組みもしていきたいです。

-東氏:さまざまなタッチポイントを作り、管理していくのは大変さもあるのではないでしょうか?まだ立ち上げたばかりの社員数も多くないタイミングで、どのような体制でコントロール、マネジメントしているのですか?

氷熊氏:弊社の場合はあまりオンラインとオフラインで分けることはしていません。エンジニアも、オンライン診療やD2Cブランドなどオンライン事業部分を開発する人と、クリニックなどオフライン事業部分を開発する人をわけずに、両方の領域を同時にカバーしていますね。やはりそれぞれで分けてしまうと、それぞれの領域内での最良になってしまうと思うんです。

人数が少ないため結果的にそうなっている面もありますが、現在はエンジニアも、そしてビジネスサイドも全員が一丸となることで、サービス間の連携・全体を通した最適化などもスムーズに行えていると思います。

坂梨氏:私は前職のメディアでさまざまな企業さんとのコラボに取り組んだ経験が多く、その仕組みづくりは自分の得意分野です。現在は、人が少なくても、そうしたコラボを通じて事業のコントロールができている面があります。これから立体的に事業を組み立てる中では、自分ごと化ができて、事業に本気になれる人を、組織の中に何人持てるかがポイントになると考えています。

D2C最前線#2 イベントの様子
今回はオンラインミーティングツールを使用し、リモートセミナーの形で実施された

D2C事業拡大フェーズにおいても、顧客とのつながりを大切に

-東氏:価値作りの面でも、また組織作りの面でも、必要なものを逆算して構築していけるのが大手と異なるD2Cベンチャーの強みと言えそうですね。
MiLさんは「事業立ち上げ」から、現在は「事業拡大」のフェーズに移っていらっしゃると思いますが、その過程での注意点はありますか?

杉岡氏:事業が拡大するにつれ、ブランドがもともと顧客対象としている人たち以外の方も入ってきたときに難しさが出てくると考えています。弊社のようにニッチをターゲットにしている事業に、ありがたいことにニッチなニーズを持つ方以外のユーザーが入ってきたときに、期待に応えられなくなるという問題が生じます。

この時に大切なのは、いかにその新たなニーズを早くキャッチアップできるかではないでしょうか。そのニーズが自分たちが解決すべき課題だと判断できれば、それをプロダクトやサービスにスピーディーに載せ替えていくのが大変重要だと思います。

-東氏:その課題に取り組むべきかどうかは、どのようにジャッジしているのですか?

杉岡氏:私たちは、顧客の声を拾うことに意識的に投資をしています。大手のメーカーで顧客の声を拾うことに注力している企業は少なく、例えば通販事業でもコールセンターを外注しているところが多いですよね。弊社はコールセンターも全て内製にしておりますし、さまざまなご意見がテキストで360度の方向から入ってくるようにしています。

「どの点が解決すれば弊社の商品を買いたいですか」という問いかけはオンラインでもオフラインでもずっと実施しておりますし、その中で認識した「私たちが解決すべき課題」のランキングを作り、優先順位を付けて一つ一つ解消する、という作業を行っています。未来にあるべきNPS(ネットプロモータースコア、顧客ロイヤリティの指標の一つ)と、現在のNPSの乖離を把握し、社内で議論してスピーディーな解消を目指しています。

また、内製にこだわったからこそ、急激な顧客増加や相談増加に耐えきれず、破綻も経験しました。ですが一筋縄では行かないからこそ、他社への競合優位へとつながり、未来の顧客へ提案できる新しい価値につながると考えています。

-東氏:なるほど。顧客の声を大切にし、それをもとに事業拡大につなげているのですね。顧客からの評価の話もありましたが、氷熊さん、坂梨さんは、自社のブランドが現在どれだけの力を持っているかの定量/定性評価をどのように行っていますか?

氷熊氏:私たちの場合はまだD2Cブランドを立ち上げたばかりですので、まだまだこれからの部分ではありますが、顧客の声から、私たちのブランドストーリーに共感されているのかいないのか、それはどのポイントなのかを定性的に把握するようにしています。

例えば、現在は、Twitterで何かしら弊社のクリニックに関してつぶやかれると、その情報が社内のSlackに全て上がってくるようにしています。そのつぶやき内容がポジなのかネガなのかをリアルタイムで把握できる仕組みを作り、事業改善に活かしています。また、Makuakeで支援いただいた方、商品を購入いただいた方、SNSを通じてご意見を頂いた方にコミュニケーションを取り、zoomで個別にヒアリングなども行っています。

坂梨氏:弊社もまったく同様ですね。弊社の場合はインスタグラムでクチコミが投稿されるケースが多いので、インスタグラム内で日々エゴサーチしています。

また、弊社が扱う領域はセンシティブなので、SNSのDMを通じて「商品を買いたい」、「詳しく教えてください」などのご連絡を頂くことも多くあります。できるだけ個別に丁寧にコミュニケーションを取るよう心掛けています。

-東氏:最後に、今後みなさんが「ブランドづくり」の観点で大事にしていきたいポイントを教えていただけますか?

氷熊氏:ブランド立ち上げ当初に大事にしていたストーリーやミッションを、拡大時においても、愚直に追求していきたいと考えています。

現在も、新しい製品やサービスライン・機能を追加するときなど一つ一つのアクションにおいて、その点は本当にヘルスケアにおいて世の中の方が悩んでいるものなのか?本当に必要なものなのか?を徹底的に考えています。今後組織を大きくするうえでも、まずはPatients first、患者様・お客様一人一人の観点に立つことを忘れずにいたいです。

杉岡氏:今後も子供×食の領域でどういうサービス、プロダクトであるべきかを真摯に考え続けていきたいです。

現在は、大手の赤ちゃん向け用品の小売店さんでも1,000億円を超える売り上げのうちデジタルはいまだ3%しかないような現状にあります。しかしながら、今後はデジタルを通じて24時間いつでもコミュニケーションが取れるような世界に近づいていくはずです。私たちも、そのようなつながりを通して、弊社の商品を買ってくださる皆さん、応援してくださる皆さんとコミュニケーションを続けていきたいと考えています。

坂梨氏:「早い段階から自身の妊よう力を知る」を実現するために、今後どう潜在層にアプローチするかが、私たちが今直面している課題です。新たな慣習を作っていくのはスタートアップだけではできない面もありますから、行政や学校、両親も巻き込んで、味方につけて、市場を盛り上げていきたいです。

東氏:皆さま、ありがとうございました!

今回は、急成長中のD2Cベンチャーの皆さまにお話を伺いました。コロナショックにより消費活動そのものが大きく変わってしまった今、企業にも変化が求められています。ゲームチェンジが起こりやすいこの環境下、本日のセミナーが皆さまの「これから」を考える有意義な機会となっていれば嬉しく思います。