ソーシャルメディア・マーケティング(以下SMM)に積極的に取り組んでいる企業の担当者に、現場でのSMM活動について聞くインタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】。

今回は、旅行好きの女性たちに大人気のInstagramアカウント「tabi_jyo(タビジョ)」を運営する株式会社エイチ・アイ・エスの担当者に話を聞きました。

 
 
「tabi_jyo(タビジョ)」Instagram公式アカウント(右)「#タビジョ」ハッシュタグページ

(左)「tabi_jyo(タビジョ)」Instagram公式アカウント(右)「#タビジョ」ハッシュタグページ

 
旅行会社大手の株式会社エイチ・アイ・エス(以下H.I.S.)が女性の旅先の素敵な写真を紹介している公式Instagramアカウント「tabi_jyo(タビジョ)」。このアカウントと連動して作られた “旅する女子”を意味する造語「タビジョ」のハッシュタグが今、20~30代の女性を中心に大変人気となっています。
 
2016年3月のアカウント開設から約1年半で「#タビジョ」が付いた投稿写真は累計20万枚を超え、現在は約1週間でおよそ1万枚が投稿される巨大コミュニティへと成長しました。
 
「tabi_jyo(タビジョ)」を運営しているH.I.S.は現在、ユーザーが投稿した写真(UGC)を軸にファンのエンゲージメント強化に取り組んでいます。最近はフォロワーや公式インスタグラマーを招いてリアルイベントを開催するなど、その活動はInstagramの外にも広がり始めました。
 
株式会社エイチ・アイ・エス コーポレートコミュニケーションチーム チームリーダー 丹下 陽一郎 氏
ソーシャルメディアとUGCをビジネスに活用するお手本のような公式アカウント「tabi_jyo(タビジョ)」は、いかにして生まれたのか。
 
アカウントを開設したきっかけや、これまでの取り組み、そして「tabi_jyo(タビジョ)」がビジネスにもたらした効果などについて、SNSを担当しているH.I.S. コーポレーショコミュニケーションチームの丹下 陽一郎氏に話を伺いました。
 
 
 
株式会社エイチ・アイ・エス
コーポレートコミュニケーションチーム チームリーダー 丹下 陽一郎 氏
 
 

Instagramの活用方法を模索する中、UGCで新たなコミュニケーションに挑戦

 
藤田:「tabi_jyo(タビジョ)」のアカウントを開設したきっかけを教えてください。
丹下:私が所属するコーポレートコミュニケーションチームのミッションは、旅のきっかけをいかに作れるか、きっかけに寄り添えるかということです。そのための手段の一つとして、FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSアカウントを運用しています。
「tabi_jyo(タビジョ)」を開設する以前は、主にFacebookやTwitterのアカウントの運用に力を入れていました。しかし、Instagramの人気が若い女性を中心に非常に高まってきたため、新しいSNS活用にチャレンジしてみようということで「tabi_jyo(タビジョ)」という公式アカウントを立ち上げました。
 
藤田:アカウントを開設した当初から「#タビジョ」というハッシュタグを使っていたのでしょうか。
丹下:最初から使っていました。当時、特定の分野に興味を持っている女性を「○○ジョ」と呼ぶことが流行っていましたから、それにヒントを得て、旅好きの女性を「タビジョ」と呼ぶのがいいのではないかと考えました。「タビジョ」という造語がインスタグラムユーザーから受け入れられるのか不安はありましたが、まずは思い切ってやってみたというのが正直なところですね。
 
藤田:最初からユーザーが投稿したコンテンツ(UGC)を活用しようと考えていたのでしょうか。
丹下:そうですね。UGCを使うことで、弊社と生活者との関係が大きく変わるのではないかと期待しました。自社で撮影した素材を投稿するだけでは、生活者との新しいコミュニケーションは生まれにくいですから、思い切って一般ユーザーが投稿した写真を使ってみようと考えたわけです。
 
藤田:UGCを公式アカウントのメインコンテンツに使うことに対して、社内で反対意見などは上がりませんでしたか?例えば、ブランドイメージを損なうとか、炎上リスクがあるとか。
丹下:反対意見はありませんでした。SNSは、やってみなくてはわからない部分もありますから、まずは一度やってみようという雰囲気でスタートしました。
 
(写真左)丹下氏と共に「タビジョ」プロジェクトを担当している同部署の三瓶 佳奈子氏

(写真左)丹下氏と共に「タビジョ」プロジェクトを担当している同部署の三瓶 佳奈子氏

 
ユーザーさんがInstagramに投稿する写真は、綺麗な風景や、おしゃれな自撮りなど、旅先の土地のイメージをポジティブに表現しているものがほとんどです。そのため、ブランドイメージを逸脱するとか、炎上リスクというのはあまり心配していません。
人物が写り込んでいても個人を特定できないものがほとんどですし、むしろ風景に人物がうまく溶け込んでいたりして、魅力的な写真が多いですよ。
 
藤田:写真にはユーザーさんの個性も表れますよね。
丹下:本当にそう思います。例えば、ボラボラ島やウユニ塩湖といった世界的に有名な観光地は、誰が撮影してもある程度同じような綺麗な写真が撮れます。でも、インスタグラマーさんの中には、普通の人は気づかないような珍しい景色を見つけ出して、投稿していたりするんですよ。インスタ映えする写真に対する嗅覚というか、それは本当にすごいと思いますね。観光地の新しい魅力を発掘してくれることもありますから。そして、そのような写真が他のユーザーさんの「旅のきっかけ」を生み出してくれていると思います。
 
 

ハッシュタグに累計20万枚以上の写真を集めた方法とは?

 
藤田:「#タビジョ」の写真の枚数は累計20万枚(2017年6月時点)を超えていますね。アカウント開設当初から写真は集まってきたのでしょうか?
丹下:最初から上手くいったわけではありません。1万枚に到達するまでには約6カ月かかりました。フォロワーが数百人で、ハッシュタグ付きの写真も数百枚しかない時期は、ユーザーさんから「『#タビジョ』にはどんな価値があるの?」という見られ方をしていたと思います。
ただ、投稿写真が1万枚を超えたあたりから、写真が集まるスピードが飛躍的に早まりました。その後、投稿数が増えるにつれて写真の投稿枚数も加速度的に増えていき、今では約1週間でおよそ1万枚が投稿されています。旅行好きの女性が使う必須のハッシュタグの1つに入れていただけたと感じています。
 
藤田:最初の6カ月間は、写真を増やすためにどういった取り組みをしていたのでしょうか。
丹下:例えば、熱心に写真を投稿してくださっていたユーザーさんに、お気に入りの旅先に関する記事を書いていただくよう依頼しました。その記事を弊社のオウンドメディアに掲載し、ご紹介するということを地道に繰り返しました。
写真や記事がオウンドメディアで紹介されると、そのユーザーさんは「記事になりました」とSNSで拡散してくださいます。すると、他のユーザーさんの中からも記事を書きたいという方が出てきたりして、徐々に「#タビジョ」の認知が高まっていきました。
 
 
「#タビジョ」投稿者に執筆依頼した記事を掲載しているオウンドメディア「Like the World」

「#タビジョ」投稿者に執筆依頼した記事を掲載しているオウンドメディア「Like the World」

 
 
藤田:オウンドメディアに記事が掲載されたり、公式アカウントに写真が取り上げられたりすることがユーザーさんにとって名誉になるということですね。
丹下:そこは、H.I.S.ブランドのアドバンテージがあったかもしれませんね。当初は「H.I.S.に取り上げられた」という反応が多かったですから。
 
藤田:ユーザーさんとの関係性を深めていくことで、コアなファンを増やしていったのですね。
丹下:「tabi_jyo(タビジョ)」アカウントを開設した当初から「熱量の高いコミュニティ」を作りたいと思っていました。「タビジョ」のコミュニティにしっかり関わってくださる方に集まっていただき、長く関与していただくにはどういう工夫が必要かを考えてアカウントを運用しています。
 
 

「タビジョ」コミュニティはH.I.S.のビジネスに貢献している?

 
藤田:「タビジョ」のブランドが確立されたことは喜ばしいことである一方、「タビジョ」のイメージが一人歩きすると、H.I.S.のイメージが薄れてしまい、ビジネスへの成果から遠ざかってしまう可能性もあるように思います。
丹下:その点は、もちろん考えなくてはいけないところだと思っています。ただ、せっかく新しいアプローチの方法を試みているわけですから、今はH.I.S.のブランドを強く出しすぎず、ユーザーさんの力を借りて新しい需要創出の方法を探っていきたいと考えています。
コーポレートコミュニケーションチームの役割はH.I.S.のお客様を増やすことですが、もっと広い意味で「旅行の需要を喚起する」こともミッションだと考えています。弊社は海外旅行の販売シェアが年々上がっていますので、旅行の需要を喚起すれば、自ずとリターンも増えると考えています。
 
藤田:「タビジョ」コミュニティを、H.I.S.のビジネスに具体的につなげる取り組みも進めているのでしょうか?
丹下:ユーザーさんが自発的に投稿した写真は、商品ページなどへのリンクは一切貼らず、広告などにも使っていません。一方、弊社などが旅費を負担する「タビジョレポーター」が投稿した写真は、宣伝用にも使うことをあらかじめご了承いただいていますから、ツアーページにリンクを貼ったり、商品ページのイメージ写真として使ったりしています。
 
藤田:ビジネスへの具体的な成果については、いかがでしょう?
丹下:まだ大きな成果が出ているとは言えないかもしれませんが、少しずつビジネスへの成果の兆しも見えています。
例えば、インスタ映えするようなフォトジェニックなスポットを巡る「タビジョツアー」というパッケージツアーを作りました。タビジョで話題の場所を巡って、Instagramのギャラリーを豊かにしてみませんか、というご提案です。このツアーは売れ始めています。
「タビジョツアー」のような今までにない商品が生まれたことで、店頭での商品提案の幅が広がったという営業所の声も、ちらほら聞くようになりました。
 
インスタ映えするようなフォトジェニックなスポットを巡る「タビジョツアー」掲載ページ

インスタ映えするようなフォトジェニックなスポットを巡る「タビジョツアー」掲載ページ

 
 
藤田:「タビジョ」プロジェクトにKPIは設定していますか?
丹下:「#タビジョ」の投稿数におおよその目標を設定しています。「タビジョ」という造語をいかに浸透させられるかを重視しているので、公式アカウントのフォロワー数よりもハッシュタグ付きの写真の投稿数にこだわっています。
 
藤田:公式アカウントのフォロワー数は2万6000人ほどですよね。これは自然増ですか?
丹下:そうですね、広告は一切行っていません。
藤田:自然増で2万人を超えているのはすごいですね。
 
 

公式インスタグラマーはフォロワーの人数より「コミュニティへの貢献度」を重視

 
藤田:タビジョの公式インスタグラマーさんを起用していますが、Instagram上のインフルエンサーの影響力をコミュニティ拡大に生かしたいという狙いがあるのでしょうか。
丹下:それはないですね。見ていただくとわかる通り、公式インスタグラマーはフォロワーがそんなに多くないんですよ。フォロワーは2000~8000人程度です。
公式インスタグラマーを選ぶ基準としては、「コミュニティにしっかり関わっていただけているか」とか「良い記事を書いていただいているのか」とか、公式アカウントに対する関わり方を見ています。先ほどお話しした通り、「いかに熱量の高い人たちに集まっていただけるか」を重視していますから。
たとえ万単位のフォロワーを持っているインスタグラマーさんであっても、コミュニティに顔を出していただけないような方では意味がないと思うんです。
実際、「#タビジョ」の投稿写真に対する「いいね」の数などを分析すると、投稿者のフォロワーの人数よりも、「タビジョ」というコミュニティへの関わりの強さが影響していることがわかりました。「タビジョ」というコミュニティへの思い入れや愛着を持ってくださっているインスタグラマーさんのことを、公式アカウントのフォロワーさんも支持するのだと感じています。
 
藤田:「タビジョ」のコミュニティから人気インスタグラマーになる方も出てきていますか?
丹下:はい、いますね。そして、その人気インスタグラマーに憧れる人も出てきています。「手の届きそうな憧れ」を醸成していくことが、「タビジョ」というコミュニティを育てていくための肝だなと思っています。
 
 

今後はUGCの広告活用も積極的に進めたい

 
藤田:タビジョレポーターが投稿した写真を広告クリエイティブとして活用して行くご予定はありますか?
丹下:広告にUGCを活用する取り組みは積極的に進めたいと思っています。
 
藤田: UGCを使った広告はフィードに馴染みやすいことなどから、通常のバナーよりも効果が高いことが弊社のクライアント企業の事例からも実証されています。
丹下:そうなんですね。一方で、広告に自分の写真が使われることに抵抗を感じる人もいますから、そこは今後工夫の余地があるかなとも思っています。
 
藤田:今後は、良質なUGCを集めるために、ファンとどのようなコミュニケーションを図っていくのか、その辺りが企業にとって重要なポイントになりそうですね。
 
 
 

「タビジョ」の取り組みがリアルイベントにも波及

 
藤田:Instagram内で始まった「タビジョ」の取り組みですが、今はオウンドメディアや、タビジョユーザーを招待したリアルイベントなどにも波及していますね。
丹下:こうした取り組みはすべて、「タビジョ」のコミュニティに集まったみなさんに、いかに楽しんでいただけるかを追及している過程で生まれてきたものばかりです。オウンドメディアに記事を書いていただくことも公式インスタグラマーになっていただくことも、レポーターになっていただくこともすべて、タビジョに関わる皆さんに楽しんでいただくのが目的です。
リアルイベントは今年の6月までに4回実施しました。他社様とのコラボレーションにも取り組んでいます。弊社が単独で開催するよりも、旅行や写真に関連する企業さんと組めば、より楽しいイベントになると考えていますので、これからも積極的にコラボレーションしていきたいです。
 
藤田:「タビジョ」のコミュニティから自主的なグループも自然発生しているそうですね。
丹下:今年3月頃から、「関西タビジョ会」「沖縄タビジョ会」などが自然発生的に生まれました。オフ会も開催されています。各地のタビジョ会の取り組みを活性化するため、タビジョ会が投稿した写真で記事を作り、弊社のオウンドメディアで公開するような取り組みも実施しています。
 
 
各地で自然発生的に生まれた「タビジョ会」掲載ページ

各地で自然発生的に生まれた「タビジョ会」掲載ページ

 
 
藤田:「tabi_jyo(タビジョ)」を始めた当初は、「タビジョ」のコミュニティがこれほど大きく広がっていくと想像していましたか?
丹下:最初から想像していたわけではありませんが、やりながら、こうなっていけば良いなという方向に向かって取り組んできました。今は理想に近づいていっているかな、という手応えも感じています。というのも、「タビジョ」に関わるユーザーさんたちが、すごく喜んでくださっている姿が見えるんですよ。写真を公式アカウントで紹介したり、イベントに招待したりすると、皆さんが本当に喜んでくださるんです。関わってくださっているみなさんに喜んでいただけるなら、今後も「タビジョ」の活動を広げていく意義があると思っています。
 
藤田:最後に、今後の「タビジョ」の展望や計画をお聞かせください。
丹下:「#タビジョ」の投稿写真を使って旅行ガイドブックを作ったり、「#タビジョ」の写真だけの写真展も開催してみたいです。また、旅のきっかけが生まれるような、タビジョが集う旅行サロンのようなスペースも作りたいと思っています。
リアルのコミュニティを作ることで、今まで以上に「タビジョ」の価値を高めていきたいですね。
また、ユーザーさんにリアルイベントの企画に携わっていただくことも計画中です。企画段階から加わっていただいて、弊社だけでは考えつかないアイデアをユーザー目線で出していただきながら、一緒に盛り上がっていけるのが理想です。
 
藤田:「タビジョ」の可能性は、まだまだ広がりそうですね。本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
 
 


 
<プロフィール>
丹下 陽一郎 氏
株式会社エイチ・アイ・エス
コーポレートコミュニケーションチーム チームリーダー
三瓶 佳奈子 氏
株式会社エイチ・アイ・エス
コーポレートコミュニケーションチーム
 
「tabi_jyo(タビジョ)」公式サイト
http://www.his-j.com/girls_trip/tabi_jyo/index.html
「tabi_jyo(タビジョ)」Instagram公式アカウント
https://www.instagram.com/tabi_jyo/
公式Webマガジン「Like the World」
https://like-world.his-j.com/story/2193
 
インタビュアー:藤田 和重
アライドアーキテクツ株式会社 SMMLab
記事構成・執筆:渡部 和章
ライトプロ株式会社
http://writepro.co.jp/
 
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