Cookie規制・IDFA変更で何が変わる?アンチトラッキングの概要・影響範囲と今後の対策を解説!ogp

Cookie規制、IDFA変更…これまでのデジタル運用型広告を支えていたデータ活用が規制される「アンチトラッキング」の潮流が加速するなか、デジタル広告業界は大きな変化を迎えようとしています。
今回は、こうしたアンチトラッキングの流れについて、その概要から影響、今後マーケティングがどうなっていくのかについて解説していきます。

Cookieとはなにか:用語解説

そもそも、アンチトラッキング時代において規制の対象となる、Cookieやモバイル広告ID(ADID/IDFA)とはどんなものなのでしょう。まずはCookieについて簡単に解説していきます。

Cookieとは、ユーザーがWebサイトを利用する際に、一時的に保存しておくと便利な情報が格納される仕組みのことです。

私たちは普段、インターネット利用してWebサイトを閲覧する場合、Googleの提供する「Chrome」やAppleの提供する「Safari」などインターネットブラウザを利用します。Cookieはこのブラウザに、一時的に必要な情報を保存させることを目的に開発されました。

例えば、IDとパスワードによるログインが必要な会員ページの場合のログイン状態を保持して、毎回のID・パスワード入力を省略させるのにもこのCookieが使われています。
また、ECサイトで一度カートに入れたもののその後ECサイトを離れてしまっても、もう一度ECサイトを訪れた時に以前カートに入れたものがそのままになっていたことはありませんか?この場合もCookieが使われ、商品がカートに入っている状態を保持しているのです。

細かな説明は省きますが、Cookieとはこのブラウザからアクセスした人は「このIDとパスワードを使っていますよ」ということや、「この商品をカートに入れましたよ」ということを、Webサイト側が分かるように一時的につけられる目印のようなものと考えてください。

このCookieの技術のおかげで、私たちは快適にインターネットを利用することができているのです。

ファーストパーティCookieとサードパーティCookieの違い

実は、Cookieには「ファーストパーティCookie」「サードパーティCookie」の2種類があります。前述の会員ページログイン状態の保持などに使われるCookieはユーザーが訪問したWebサイトが持つことのできる目印であり、ファーストパーティCookieと呼ばれています。

一方、サードパーティCookieは主に運用型広告配信を行う多くの広告配信業者が使う目印です。ユーザーが訪問したWebサイト上に広告バナーが表示されたり、その広告をクリックしたりした時にその行動を記憶するCookieが発行されます。

このファーストパーティCookieとサードパーティCookieの違いで最も大きいのはその利用範囲です。ファーストパーティCookieは、訪問したWebページのドメイン(例えばsmmlab.jpなど)だけが使うことができる目印です。
一方、サードパーティCookieはドメインに関係なく使うことができる目印なので、複数のWebページでのユーザー行動などの情報を横断的に利用することができます。

例えば、同じ商品の広告が複数のWebページで表示されるのも、このサードパーティCookieを利用したものです。広告配信業者などは、このサードパーティCookieの仕組みを利用し、ユーザー属性や閲覧傾向などの分析を行い、広告配信におけるターゲティングの精度を高めてきました。

モバイル広告ID(ADID/IDFA)とは何か:用語解説

モバイル広告ID(ADID/IDFA)は、いわばCookieのモバイル版のようなものです。Cookieがブラウザごとに割り振られる識別子であるのに対して、モバイル広告IDはスマホやタブレットなどの端末毎に割り振られます。

モバイル広告IDは、ある特定のOSがその端末にインストールされる際に付与され、1つの端末につき1つしか存在しないユニークなIDであるのが特徴です。例えば、パソコンのデスクトップでブラウザを利用するのは、必ずしも1人のユーザーとは限りません。そのためCookieのデータには、複数のユーザーのデータが混在している可能性があります。
一方、モバイル端末の場合、利用するのはほとんどの場合1つの端末につき1人のユーザーです。つまり、取得した情報がどのユーザーの情報であるのか、より正確に紐づけることができるのです。

モバイル広告IDはOSによって呼び方が異なり、iOSの場合は「IDFA」、Androidの場合は「ADID」と呼ばれています。

広告配信業者やアプリ事業者は、取得された広告IDをアドネットワークに連携させることで、そのIDに付随する情報を集積し、 個々の端末を識別することができます。そして、その端末を使うユーザーの行動を明らかにし、傾向を分析・把握することができるのです。また、居住地域や使用する端末の属性などによってもユーザーを分類することが可能です。

モバイル広告においては、モバイル広告IDを利用したユーザーの傾向や属性の分析結果からターゲティングを行い、効率的な広告配信を行ってきました。
同時に広告の閲覧有無やコンバージョン、インストール後にどのようにアプリを使用したのかも計測できるため、アプリの改善やマーケティングメッセージ設計などにも大いに役立つものとして使われてきました。

Cookie規制、モバイル広告ID(ADID/IDFA)変更はいつから?何がおきているの?

企業にとって、広告配信やユーザー分析などマーケティング施策を行う際に有益であるこのCookieやモバイル広告IDですが、昨今ブラウザ事業者などは、データ利用に対する規制を強化しています。

  • 2017年9月  AppleがSafariにおけるサードパーティCookieの制限を発表
  • 2020年1月 GoogleがChromeにおけるサードパーティCookieの段階的な廃止を発表
  • 2020年6月 AppleがIDFAの情報利用に対して同意取得(オプトイン)を必須化
  • 2021年4月 Appleがアプリ業者によるトラッキング規制の方針を発表

米・Appleは同社のブラウザ「Safari」において広告配信などに利用されてきたサードパーティCookieへの対応をやめることを発表。さらに、モバイル広告IDの利用についても、IDFAを利用しユーザーを追跡する場合にはユーザーの同意(オプトイン)を必須とすることを決めています。さらに今年4月、Appleはアプリ業者が他社のアプリを横断して、行動履歴の追跡を行うことを規制する方針を発表しました。

米・Googleでも同社のブラウザ「Google chrome」において、サードパーティCookieの利用制限の方針を発表し、情報利用に関する規制強化の姿勢を示しています。ただ、廃止期限については、当初2022年1月から2023年中旬から終わりまでに延長することが発表されています(※2021年8月情報更新)。

いずれにせよ、これまで運用型広告のターゲティングやコンバージョン計測に使われてきたサードパーティーCookieは、近い将来利用できなくなる見通しです。

Cookieやモバイル広告ID(ADID/IDFA)の利用が制限されるようになった背景

では、こうしたCookieやモバイル広告ID(ADID/IDFA)の利用がなぜ制限されるようになったのでしょう。

もともと、Cookieやモバイル広告IDなどは個人情報ではないとされ、利用者に許諾をとることなく自由に広告配信や効果計測・データ分析に利用されていました。
しかし、イギリス・ケンブリッジ・アナリティカ社のFacebookデータ不正収集問題の発覚などにより、このCookieやモバイル広告IDを個人情報とみなす流れが強まってきました。

Cookieやモバイル広告IDはそれ単体ではただの数字の羅列でしかありませんが、ブラウザやアプリ、デバイスを横断して様々なデータを取得・照合することで、高精度に個人を特定することができる、個人情報であるという見方が広まってきたのです。

実際、ヨーロッパのGDPRやアメリカ・カリフォルニア州のCCPAが制定され、日本においても2020年3月に個人情報保護法の改正案が閣議決定されるなど、国や政府単位での規制が行われています。

①GDPR(EU一般データ保護規則)

  • 個人データ保護やその取り扱いについて定められた法令。
  • EU域内の各国に適用される。
  • ユーザーの個人情報を、ユーザー自身でコントロールし、不利益が生まれないようにすることを目的としている。
  • GDPRはCookie情報を個人情報とみなすことを明言。
  • 一般ユーザーだけでなく、企業の従業員の個人情報も保護の対象。
  • EUに拠点を持っていれば、日本企業であっても適用されるのが特徴。
  • 違反した場合に、多額の制裁金支払いが課せられる。

②CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)

  • 米国・カリフォルニア州の住民に対するプライバシー保護を定めた州法。
  • 州の住民(世帯)の個人情報が保護対象。
  • 個人情報の定義はcookieやモバイル広告IDなどの識別子を含め幅広いのが特徴。
  • カリフォルニア州内に拠点がなくても、カリフォルニア州の住民の個人情報を扱っていれば適用される。
  • 義務違反の場合、制裁金が課せられたり、住民から民事訴訟による賠償金請求が行われる可能性がある。

③改正個人情報保護法

  • 2020年3月に閣議決定され、2022年4月1日より施行される改正法案。
  • 個人関連情報の第三者提供を行う際に、本人の同意などの確認を義務化。
  • 個人関連情報とは、cookieやモバイル広告IDなども含まれる、個人についての情報で、その情報だけでは個人が特定できないもの。
  • それだけでは個人は特定できないが、第三者に提供された際、すでに第三者が保有しているデータと照合することで個人を特定され、不利益を受ける可能性があることから、この改正が行われた。
  • また、データ内の氏名など個人を特定できる情報を削除または個人がわからない別の情報に置き換えて個人がわからないようにする「仮名加工情報」は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができない程度で良くなった。
  • これによって、企業は保有する情報を仮名加工情報に加工し、利活用がしやすくなると期待されている。
  • 一方、仮名加工情報は法令による場合や共同利用の場合を除き、第三者提供を行うことができないという制約があるため、仮名加工情報を第三者に提供してビッグデータとして活用することはできない。

各法律によって違いはありますが、基本的に「Cookieやモバイル広告IDなどをもとにデータを計測・利用するためには、その目的を明確にし、許諾を得なくてはいけない」というのが共通概念です。

そしてこうした法整備が加速するのを背景として、ブラウザを提供している事業者は、サードパーティCookieやモバイル広告IDの利用を制限する動きを強めているのです。

この規制の流れは「アンチトラッキング」とよばれ、アンチトラッキングの潮流が加速する中、企業のマーケティング施策は大きな変化を迎えようとしています。

アンチトラッキングが企業のマーケティング活動に与える影響

アンチトラッキングの潮流が企業のマーケティング活動にあたえる影響としては、大きく以下のような事が指摘されています。

  • 自動入札の最適化が困難に
  • アトリビューション計測への影響
  • 広告配信ターゲティングの精度の低下
  • リターゲティング広告にサードパーティCookieデータの利用ができなくなる
  • アフィリエイト広告への影響

まず、サードパーティCookie規制や、IDFAの利用制限などによって、Webサイトやプラットフォーム、デバイスやアプリを横断したデータ利用はできなくなります。これまで複数のデータを紐づけてユーザーを識別し、ユーザーの年齢などのデモグラフィック属性や、閲覧行動から興味を推測してきましたが、これが使えなくなります

ユーザーの識別ができなくなれば、個別のユーザー単位でのコンバージョンの有無の把握ができなくなり、これまで機械学習によって行って効率化してきた自動入札による最適化も難しくなるでしょう。
同時に、広告接触したユーザーの行動の計測もできなくなります。そのため、その広告でコンバージョンに至らなかったユーザーが他のポイントでコンバージョンに至るまでの過程の分析など、アトリビューション(※)計測に大きな影響が出ます。

当然広告配信業者が保有できるユーザーデータの精度が下がるので、これまでのような高精度なターゲティングもできなくなります。
特に、クライアントサイトへの訪問履歴があるユーザーに対して、別のプラットフォームでその商品の広告をあてるリターゲティング広告においてもサードパーティCookieデータが利用できなくなり、これまでの運用型広告のあり方が大きく変わっていくと予想されます。

また、アフィリエイト広告において、広告がコンバージョンしたかどうかの計測にもサードパーティCookieが使われています。サードパーティCookieの利用ができなくなれば、アフィリエイターの記事内で発生したコンバージョンの計測が行えなくなることが懸念されています。

※アトリビューションとは:コンバージョンに至るまでの過程のうち、直接成果につながった接点だけではなく、そこに至るまでの様々な接点を分析し、それぞれコンバージョンへの貢献度を割り当てる考え方。

アンチトラッキングに企業はどう対応すべきか

これまで当たり前に利用してきた施策ができなくなり、企業のマーケティング活動は変化を求められています。では具体的にはどんな対策を行えばいいのでしょうか?対策として大きく2つの方向性が考えられます。

  • 広告クリエイティブのブラッシュアップ
  • 広告に依存しないマーケティング施策

まず、1つ目は広告クリエイティブのブラッシュアップです。
前述のように、運用型広告ではターゲティングや入札、コンバージョンの計測にいたるまで、様々な点に影響がでると予測されます。一方で、Cookie規制やIDFA変更の影響を受けないのはクリエイティブです。そのため、広告施策で成果を上げるという点において、「クリエイティブ」の重要性が高まるでしょう。クリエイティブをスピーディーに量産し、ABテストの結果をもとにクリエイティブ改善のPDCAを回しながら、より広告効率の高いクリエイティブを目指す姿勢が求められます。

そして2つ目は、広告施策に頼らないマーケティング施策への取り組みです。具体的には、自社について熱量高く情報発信を行ってくれるインフルエンサーとの関係構築や、アンバサダー施策もますます注目されていくでしょう。

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アンチトラッキング時代のマーケティングは、運用型の広告施策によってコンバージョンを追い求めていくことにだけ目を向けていては戦うことが難しくなります。生活者に支持されるブランドとなるためのコミュニケーションを設計し、LTVの向上につなげていくような、新規顧客の刈り取りに依存しないマーケティング施策の実施が成功の鍵を握ると考えられます。

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