ソーシャルメディアマーケティング(以下SMM)に積極的に取り組まれている企業の担当者に、現場でのSMM活動の実際についてお聞きするインタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】


こんにちは、SMMLabの小川です。
今回は、不動産・住宅情報ポータルサイト『HOME’S』を展開する株式会社ネクスト HOME’S事業本部 マーケティング部 四宮雅樹氏・石川歩氏にお話を聞きました。
「今すぐ住み替えたい人だけではなく、将来的に住み替える可能性がある人」に、いかにアプローチするかが課題と感じていた同社が取り組んだのが、「暮らし」全般に関する情報発信を行う自社メディア「暮らしといっしょ」と、自社メディアの情報をもとにファンとの関係性を構築するための「ソーシャルメディア」。同社が実践する「コンテンツ・マーケティング」とは?


株式会社ネクスト HOME’S事業本部 マーケティング部 ソーシャルメディア責任者の四宮雅樹氏(左)・コンテンツ担当の石川歩氏(右)
 
――不動産・住宅情報ポータルサイト『HOME’S』で実施している広告・マーケティング施策の概要を教えてください。
四宮:『HOME’S』全体としては、SEOやリスティング広告等の一般的なウェブマーケティングを中心に広告・マーケティング施策を実施しています。また、住み替えのオンシーズンである1~3月や9月頃には、テレビCM等のマス広告も展開しています。それ以外には、展示会への出展や、スポット的にイベントの開催・協賛等も行っています。
ソーシャルメディアも通年で運用しており、 『HOME’S』の公式アカウントとしては、Twitter、Facebook、mixi、YouTube、また「暮らしといっしょ」のアカウントとしては、Twitter、Facebook、mixi、Pinterestを持っています。
 
ソーシャルメディアは「将来のお客様」という重要な資産への投資
 
――広告・マーケティング施策の中で、ソーシャルメディアマーケティングはどのように位置付けていますか?
四宮:ソーシャルメディアマーケティングに取り組み始めた当初は、従来型のマーケティングの延長線として、お客様からの具体的なお問合せや資料請求等を獲得するものと位置付けていましたが、現在は、もう少し長期に渡ってのユーザーとの関係作りに軸足を移しています。
今すぐ物件を探している人向けには、リスティング広告やターゲティング広告、SEO等に注力したほうが効率がいい。例えば、「賃貸 吉祥寺」というキーワードで検索するユーザーには、すでに住み替えニーズが顕在化しているので、ストレートに吉祥寺の物件を見て頂けるように設計します。施策的には、「今日の売上」につながる部分で、費用対効果、つまりCPC(=Cost Per Click/クリック単価)やCPA(=Cost Per Acquiston/獲得単価)で測定される世界です。

一方で、ソーシャルメディアを使ったユーザーとのコミュニケーションについては、ニーズが顕在化していないユーザーとの関係性の構築に期待しています。言い換えれば、今日の売上に対する施策ではなく、「将来のお客様」という重要な資産に対する投資と位置付けており、「将来のお客様」との良い関係をコツコツとストックしていくことを成果と捉えています。
私たちのビジネスは「住み替えのお問合せを頂いて、それを売上に変える」というものですので、どうしてもニーズが顕在化したユーザーに集中しがちになります。しかしながら、「今すぐ住み替えたい」という人は、全体から見ると極わずかで、ほとんどの人は、「いつかは住み替えたいと思っているが、今すぐ物件探しをする状況にはない」のです。
私たちは、顕在ユーザーという全体からするととても限られた部分に対して一生懸命やってきたという側面が強いのですが、やはりもっと大きな部分、将来的にお客様になる人を含めて、きちんと関係を作っていかなければならないと考えました。
 
――なぜ「将来的なお客様」との関係作りに、ソーシャルメディアを利用しているのですか?
四宮:実は、この課題は今始まったものではなく、昔からあるものなのです。住み替えたいと思うのは、短くても2年に1回、長ければ10年先だったりしますので、住み替えてから次に住み替えるまでの間をどうやってつないでいくのか?どうしたら次の住み替えでも 『HOME’S』を使っていただけるのかという点は、常々課題に感じていました。
もちろん、従来からメールマガジン等の手法もありましたし、またポイントプログラムを使ってのCRM等も検討しましたが、数年のスパンをつなぐのはなかなか難しい状況でした。
最初からそうした課題を解決しようと決めてソーシャルメディアを導入したわけではないのですが、試行錯誤している中で、「暮らしといっしょ」の読者の方から「今の家はHOME’Sで探したんですよ!」という、嬉しいコメントをいただいたことがあり、私の中でひとつのきっかけになりました。ソーシャルメディアでのこうした対話を通じて、ユーザーとの距離が近づき、『HOME’S』というブランドが少しでも心に残ってくれれば、ひとつの解決策にはなるのではないかと。
 
アカウントは目的別に2つに分けて運用
 
――具体的に運用しているソーシャルメディアとして、『HOME’S』の公式アカウントと、「暮らしといっしょ」アカウントの2つに分けている理由は何ですか?

Facebookページも2つのアカウントに分けて運営している
左:『HOME’S』の公式アカウント  https://www.facebook.com/homes.co.jp
右:『HOME’S』「暮らしといっしょ」  https://www.facebook.com/kurashito
 
四宮:まず、『HOME’S』の公式アカウントでは、いわゆる「公式アカウント」として、『HOME’S』からのお知らせやキャンペーン情報等を中心に発信しています。
『HOME’S』のTwitterアカウントに関しては、「ホームズくん」というキャラクターがおり、「ホームズくん」がユーザーの声に答えて物件探しをしたり、面白い物件の紹介をしたりしています。今すぐの住み替えニーズはないけれども、比較的近い将来での住み替えに興味を持っている層を対象にしている感じですね。

『HOME’S』 Twitterアカウント ホームズくん https://twitter.com/#!/HOMES_kun
一方で「暮らしといっしょ」は、今の時点ではあまり「住み替えや引越し」を意識していない層を対象にし、暮らしに関する様々な情報を広く発信しています。自社メディアを中心に、その情報をTwitterやFacebookでお知らせしたり、またファンの方と対話したりする活動をしています。
アカウントを分けることで、色々な層のユーザーと、関係を築いていけるとよいなと思っていますね。
 
住まいに、「モノ」だけでない価値を
 
――「暮らしといっしょ」という形で取り組みを開始した理由を教えてください。
四宮:「暮らしといっしょ」は、2011年8月にオープンしました。元来、『HOME’S』が提供するメインの情報は物件です。物件をいかに探しやすくするか、情報量を増やしてお客様が比較検討しやすくするか。つまり、「物件=モノ」と捉え、「m2」「徒歩○分」「鉄筋・木造」など、スペックで比較検討をするという考え方でした。家電のカタログと同じような感覚です。
でも、実際には、ユーザーはモノを選ぶわけではないのです。賃貸でも購入でも、住み替えることで生まれる新しい暮らしや、「夢」みたいなものを買うわけであって、単純に鉄筋コンクリートなのか木造なのかじゃない所の方が、実は大きいわけですよね。
住まいの「モノ」としての側面に加え、そこから生まれる「暮らし」「ライフスタイル」というもっとソフトな一面にも注目していただくためにはどうしたらよいかを考えたときに、石川が中心になって「暮らし」「暮らし方」の提案型の記事やコンテンツを『HOME’S』のブランドで発信していくメディア「暮らしといっしょ」のアイディアをまとめてくれました。
この「暮らしといっしょ」は、モノとしての「住まい」とそこから生まれる「暮らし」をいっしょに考えましょう、という意味と、それを「HOME’Sといっしょ」に考えていきましょうという、二つの想いを込めて、石川がネーミングしました。

「暮らしといっしょ」 今のくらしを大切に。未来のくらしも大切に。http://www.homes.co.jp/kurashito/
左:リアルキ 丁寧なレポートで評判のリアルな街歩き企画
右:リノベ暮らしな人々 中古住宅を自分たちの暮らしに合わせてリノベ―ションした人たちのお家拝見レポート企画
 
――石川さんが中心になって立ち上げたとのことですが、準備にはどれくらいの時間がかかりましたか?また、具体的な成果が数字で見えにくい「メディア」の立ち上げについて、社内での理解はすぐに得られたのでしょうか?
石川:2011年8月のメディア立ち上げにあたり、同年4月頃から準備を開始しました。当初は、私以外にもう一人スタッフがおりましたが、本当に「何をしよう」というゼロからのスタートでした。

まずは社内に説明がつくように、「年間どれくらいの方が住み替えるのか」「住み替えるだろう方たちの中でも、どういうライフステージの方に向けていくのか」「それぞれのライフステージの方が日本でどれくらいいるのか」等、マーケットの背景となる統計をある程度調べました。とはいえ、直接的な「売上」が立つものではないので、定性の価値を社内で認めてもらえるように準備をしましたね。
四宮:私は違和感なかったですね。石川からアイディアを聞いたとき、「実際にできるのかな?」とは思いましたが、すぐには住み替えない「将来のお客様」とどのように関係作りをしていくのかの課題感はありましたので。また、弊社はWebサービス運営会社ですので、社長役員含め、皆ソーシャルメディアを使っているという背景もあり、ソーシャルの導入もスムーズにできたのだと思います。
<後半へ続く>
前半は、株式会社ネクストのソーシャルメディア運営の目的とその背景についてお聞きしました。後半は、社内でのソーシャルメディア運用体制や、担当者として運用して改めて気づいたこと、また効果測定についての考え方等、より具体的な内容についてお聞きしています。後半も、お楽しみに!
後半記事:【企業担当者に聞くSMM最前線】株式会社ネクスト 四宮雅樹氏・石川歩氏 ~ソーシャルメディアで「将来のお客様」との関係作りを(2/2)
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プロフィール
四宮雅樹氏
株式会社ネクスト HOME’S事業本部 マーケティング部 編集グループ長
石川歩氏
株式会社ネクスト HOME’S事業本部 マーケティング部 編集グループ
『HOME’S』:http://www.homes.co.jp/
暮らしといっしょ:http://www.homes.co.jp/kurashito/
インタビュアー:小川 裕子(アライドアーキテクツ株式会社 SMMLab)
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http://fan-app.monipla.jp/
■【企業担当者に聞くSMM最前線】
・株式会社リクルート HRカンパニー 原田芳江氏:
http://smmlab.jp/?p=6545
・株式会社フィリップス エレクトロニクス ジャパン 高橋 淑恵氏(1/2):
http://smmlab.jp/?p=5027
・タマホーム株式会社Facebook課 川野和義氏(1/2):
http://smmlab.jp/?p=2717
・ライフカード株式会社 鎌倉早佑理氏(1/2):
http://smmlab.jp/?p=2473
・リーデル(RSN JAPAN 株式会社) 西村 敏雄氏(1/2):
http://smmlab.jp/?p=681