ソーシャルメディアマーケティング(以下SMM)に積極的に取り組まれている企業の担当者に、現場でのSMM活動の実際についてお聞きするインタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】。

 
こんにちは、SMMLabの藤田です。今回は、世界100カ国以上で展開する世界的なブランド、「フィリップス」のWEBマーケティング領域を総括されている「カントリーインターネットマネージャー」高橋 淑恵氏に、グローバルブランドにおけるソーシャルメディア戦略についてお聞きしました。
 

カントリーインターネットマネージャーとは?


――まず、御社の業務体系と高橋様の業務内容を教えてください。
 
高橋:弊社は個人消費者を対象とした「コンシューマーライフスタイル」と、主に法人を対象とした「ヘルスケア」、「ライティング」の三つの事業部門から構成されています。私は三つの事業部のどこにも属さず、各部を横断する形で、オンラインに関するマーケティング全般を包括的に見ている立場です。
 
――ソーシャルメディアマーケティングに取り組むきっかけは?
高橋:そもそもは、ソーシャルメディアを使ってコミュニケーションをとっていくとどんなメリットがあるだろうか?というところがスタートで、まずソーシャルメディアでなにが出来るかを勉強するところから始めました。最初に分かったのは「人の意見を聞くことが出来る」ということ。誰かがフィリップスに関して話している事を直接聞くことが出来るというのは、今までのメディアに無かった良さだと感じました。
もちろん、以前製品のマーケティングをしていた時から、消費者の声を聞く施策は行ってきましたが、日本人の特性なのでしょうか、グループ・インタビューは、隣の人の意見や周りの雰囲気に流されてしまいがちですし、1対1は本音を聞き出すのが難しく、実態に即していない場合もありました。一方インターネット上でも匿名の掲示板はかなりバイアスのかかった意見が多いため、オンライン担当になった当初は、アマゾンや価格コムなど既存サイトのレビューやTwitterの声を集めて分析していました。そうしたところ、ヘッドフォンに関しては既に数多く語られており、製品に対する評価がかなり定まっていることが分かりましたが、「電気シェーバー」や「ソニッケアー」に関しては自然発生的な「声」が少なかったので、自分たちで「場」を作り、集めておく必要を感じたのです。
次にどんなソーシャルメディアを活用するかと検討した際、弊社はグローバル展開しているため、共通で取り組めるメディアとしては、やはりFacebookだろうという判断になりました。最初は日本とフランス、オーストラリアでスタートし、現在はイギリス、イタリア、スペイン、オランダを加えた7カ国でFacebookマーケティングを実施しています。今後は、各国の製品展開の有無とソーシャルメディア、インターネットの状況との兼ね合いで随時拡大していく予定です。
 
――現在の運用状況と体制を教えてください。
高橋:マーケティングはそれぞれの部門で製品ごとに実施されています。プロモーションなどを担当するマーケティング・コミュニケーション担当がいる部門もありますが、マーケティング・マネージャーが全てやっているところもあります。現在Facebookマーケティングに取り組んでいるのは、「コンシューマーライフスタイル」部門の「電気シェーバー」を始めとしたメンズグルーミング製品と「ソニッケアー」という電動歯ブラシで、オンライン・コミュニケーションの実務に関しては、コミュニティ・マネージャーと呼ばれる人が担当しています。
「ソニッケアー」は2011年9月、「メンズグルーミング」は10月にそれぞれFacebookページを立ち上げましたが、ソーシャルメディアに注力しようという目標は、実は一年以上前からあったんです。
 

グローバルブランドだからこその
ハードルは、時間をかけた
綿密な計画と事前準備でクリア

 
――その期間はどのような準備をされていたのですか?
高橋:まず、それぞれの製品でどうやって利用するかという検討に、かなり時間をかけました。例えば電気シェーバーだと、技術革新はすごく進んでしまっているため、もはや技術だけでは他社との差別化は難しい。では「何をソーシャルメディアで語りかけていくのか?」と考えた結果、ダイレクトに商品を訴えかけていくのではなく、「スタイルアップした自分」を想起させる「物語」を伝えていこうということになったのです。そして、「自分を表現するってどういうこと?」「毎日を自分らしく過ごすってどんな感じ?」といったことを、ソーシャルメディアユーザーに語ってもらうというテーマが生まれ、「今日もジブン、出していこう(Express yourself everyday)」という企画に発展しました。
 
次に、具体的なターゲットに関する事前調査を念入りに実施しました。メインターゲットにしたい20代男性にとって、電気シェーバーは、もっとひげが濃くなってから使うものというイメージが強いという事が分かったので、他社製品のユーザーを取り込むのではなく、T字カミソリユーザーに「オシャレ」や「身だしなみ」という部分からアプローチするプランを設計しました。
そして最後に実務面ですが、フィリップスは本社のあるオランダでは創業120年の老舗ブランドですので、もともとブランドガイドラインがしっかりしていて、基本的なものだけでも膨大な量のガイドブックがあります。そこにインターネットやソーシャルメディアに関連したガイドブックも派生しました。そのためオンライン・コミュニケーションの運用担当であるコミュニティ・マネージャーには、このガイドラインに従いフィリップスというブランドや製品の本質をしっかりと理解してもらう必要がありました。
 
――コミュニティ・マネージャーの選任はどのようにされているのですか?
高橋:私たちがコミュニティ・マネージャーに求める素養は二つ。まずは、「フィリップスブランドを理解している事」。プロミスからバリューまで、ブランドに対するガイドラインが非常にしっかりしていますし、すべてにおいて「こうあるべき」という事が決まっているので、そこをきちんと理解していただきたいというのが前提条件です。次に、インターネットリテラシーが高い事。ソーシャルメディアの役割や功罪をきちんと理解しているのはもちろん、コミュニケーションのセンスがあり、ソーシャルメディアの空気を肌で感じる事が出来る人を、製品担当のマーケティング・マネージャーと私で選んでいます。
 
――施策のプランニングはどのようにされていますか?
高橋:各製品担当マーケティング・マネージャーがプランニングしたものを私が監督管理しています。ブランド毎の運用チームの定期的なMTGを、最初のうちは週に2回ぐらい実施していましたが、今は週1から二週間に1回程度です。その他、各国のコミュニティ・マネージャーが集まるグローバルの編集会議が月に1回あり、それぞれの進捗や施策の検証をしています。
 
 
――かなり綿密な計画と事前準備を経て、Facebookページを開設されたわけですが、現状での評価はいかがですか?
高橋:ソーシャルメディアの取り組みは、始めて1、2ヶ月で評価するものではないと思っています。1年後にはこの位になっていたいという目標はありまして、現状はそこまでのスケジュールからは外れない範囲で成長出来ていると思っています。
インターネットのコミュニケーションには、コアとなる人がいて、その人に絡む人がいて、その周りで見ている人がいるという感覚があるので、Facebookではある一定数の「見ている人」を集めることで、コアとなる人を浮かび上がらせたいと思っています。その人数は製品のマーケットシェアだったり、現在の認知度などによって変わってくるものだと考えています。例えば、最初にFacebookの取り組みを始めたオーストラリアでは「Facebook始めました」というTVCMを流しましたが、本社のあるオランダでは「フィリップス」というだけでファンになってくださる方もかなりの数いたようです。
 
――現在の日本の状況では、自然増加だけではファンを集める事は難しいと思いますが、「キャンペーン」の活用に関してはどのようにお考えですか?
高橋:ただファン数が増えれば良いというわけではないので、それぞれのFacebookページの意図がきちんと伝わるキャンペーンテーマを設定しています。

 
【Facebookページでの開催キャンペーン】
ファンから新製品への興味関心の高い書き込みが、数多くポスティングされているタイミングで実施されたモニタープレゼントキャンペーン。自社サイトでも告知を行う事で、新規ファンを3, 000人近く獲得することに成功している。
 
 
 
高橋:消費者の方々は今や広告される事に疲れてきている傾向がありますし、自分に関係ないと感じた広告は排除することも出来るようになってきているので、ソーシャルメディアを通じたメッセージは「自分ごと」として捉えていただける「気づき」を提供する事が出来ないとダメだと思います。「キャンペーン」には、そうしたきっかけを生み出す事を期待しています。
 
――現在、課題と考えている事はなんですか?
高橋:キャンペーン毎に人数的な目標を設定してはいますが、あくまでも反応率や会話量などのエンゲージメント率を重要視しています。今後は、ウォールでのコミュニケーションから、ファンのみなさんの「声」を引き出し、それをきっかけに会話が盛り上がるようなページを作ることが課題だと思っています。
 
《次回へ続く》
前半はFacebookマーケティングのきっかけと、現在に至るまでの経緯を中心にお聞きしましたが、伝統あるブランドのグローバル戦略において、製品ごとの縦割りマーケティングでソーシャルメディアに取り組む難しさを感じました。後半ではB to B領域から人事採用、社内のソーシャル化まで、多角的な取り組みの計画についてお聞きします。
 
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高橋 淑恵 氏 プロフィール
株式会社フィリップス エレクトロニクス ジャパン
カントリーインターネットマネージャー
略歴
米国企業日本法人を経て2006年株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパン入社。電気
シェーバーやヘッドフォンのマーケティングマネージャーに就いたのち、2010年より現職。
■関連リンク
公式企業サイト http://www.philips.co.jp
フィリップスブランドサイト http://www.philips.co.jp/uh
シェーバーフェイスブックページ http://www.facebook.com/PhilipsSelfExpression.jp
ソニッケアーフェイスブックページ http://www.facebook.com/sonicarejapan
 
 
インタビュアー :藤田 和重(アライドアーキテクツ株式会社 SMMLab)
 
■参考リンク
モニプラファンアプリ http://fan-app.monipla.jp/
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