国内最大級の専門カンファレンス【モバイル&ソーシャルWEEK2012】 3日目の内容をレポートします。


マーケティングに携わる経営層や担当部署の責任者、そしてソーシャルメディアやスマートデバイス向けサービスの開発者、モバイルとソーシャルの提供事業者など、デジタルマーケティング業界のキーパーソンが一堂に会して行われた国内最大級の専門カンファレンス「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」。
2012年7月24日~26日の3日間にかけて行われた「モバイル&ソーシャル WEEK 2012」で、SMMLabが取材したセッションをレポートしています。今回は第三日目(最終日)に開催されたKeynote及び専門セッションの中から、JALと伊藤ハムの講演内容をご紹介します。
両社が実践する、ソーシャルメディアを通じたファンやお客様とのコミュニケーションとは?

 
Keynote:JALの経営を変えるウェブ戦略 ~ソーシャルで得られた共感とモバイルへの挑戦~ 日本航空 代表取締役会長 大西賢氏
まずKeynoteの最初に、JAL代表取締役会長 大西氏が登壇、JALが重点課題として取り組むウェブ戦略や、約67万人のファンを擁するJAL Facebookページの運営について語りました。
日本航空 代表取締役会長 大西賢氏
 
ウェブ化、個人化が重点課題
現在、JALの航空券販売に締めるウェブ販売比率は、国内線販売合計5, 000億円中50%、国際線販売合計4, 000億円中20%を占めており、今後もこのウェブ販売比率を着実に上げていきたいと言います。さらに、国内線における「個人向け航空券」に占めるウェブ販売比率は70%にも達しており、JALは「WEB化」に加え「個人化」を旅客販売基本方針に定め、収入最大化を図るための重点課題として捉えているそうです。
JALは、1995年にホームページを開設して以来、オンラインでの予約サービス、マイレージ会員向けオンラインCRM、ICチェックインやWEBチェックインの導入、空席照会のスマホアプリ提供等、様々なウェブ施策を実施してきましたが、そのほとんどは、ユーザーが「予約・搭乗し、機内に入るまで」の間の
利便性と効率性を追求するものだったと言います。そして、JALが今後目指すNEXT STAGEは、「日常から旅の目的地で過ごす時間まで」の間の需要喚起と、共感であると説明します。
 
ウェブ上で需要喚起・共感を醸成するために
この需要喚起・共感とは、既にJALを利用していたり、またJALカードやJALマイレージバンクの会員になっているユーザーだけでなく、航空券やツアー購入の意思はあるが、どこから買うかを決めていない「浮動層」にリーチし、コミュニケーションするためのテーマであると言います。
情報を入手、発信する手段が多様化し、お客様が情報を選択し、自ら伝播する時代においては、マスメディア中心の既存手法にとらわれない新しい手法にもチャレンジし「認知」×「共感」を広げていきたい。そして、そのキーワードとして「ソーシャル」と「モバイル」を掲げています。
 
JALの「ソーシャル」に関する取り組み
現在約67万人のファンを擁し、エアラインならではの「旬な情報」や「美しい風景」が人気で、国内におけるエンゲージメント率トップクラスを誇るJAL Facebookページは、当初、2010年1月の経営破たんからの再生に取り組むJALの姿をそのまま伝えたいとの想いから開設されました。
破綻当初、顧客から「もうJALには乗らない」「働いている社員の顔が見えない」との厳しい反応が続く中、もう一度JALとしての信頼を回復したい、お客様と正面から向き合い、双方向のコミュニケーションを取りたいとの想いだったそうです。
そんな中、最初からポリシーとして貫いているのは「社員が実名、顔出し、自身の声で伝えること」。そして、このFacebookの運営を通して、「顔が見えるJAL」の追求や、「お客様と正面から向き合う姿勢」「タイムリーな情報発信」など、お客様とのコミュニケーションにおいて大切なことを学んだと言います。
また、現在Facebookの運営は、お客様視点、JMB会員視点、広報視点、WEB視点など様々な視点を取り込めるように、マイレージ事業部、宣伝部、お客様相談室、法務部など横断的な組織で対応していますが、直接関わっている部署だけでなく、トップレベルも含めて社全体としてFacebookに取り組んでいるそうです。さらに、YouTubeやGoogle+の取り組みも開始しており、今後これらのソーシャルメディアを通じてお客様の空気感を感じ取り、ここから生まれるお客様視点を大切にしていきたいと語ります。
 
JALの「モバイル」に関する取り組み
ソーシャルと同様、JALはウェブ戦略において「モバイル」が重要であると説明します。
現在、JAL顧客の10人に1人がモバイル経由で予約購入をしており、内スマートフォンからの購入が50%を超えているそうです。現時点でスケジュールアプリ、先得航空券予約アプリ、AIRポートナビアプリ等複数のモバイルアプリを提供していますが、今後も「かんたん、便利、たのしい」アプリの提供をしていくそうです。また、7月から開始した「機内WI-FI」の推進を進め、お客様の満足度向上や、機内でもウェブコミュニケーションを図る取り組みを行っていきたいと言います。
最後に、JALは今後も「ソーシャル&モバイルの取り組みを通じて、共感のマーケティングを推進、変化に挑戦していき、世界で一番お客様に選ばれ、愛される航空会社を目指す」と締め括りました。
 
ユーザーから”いじられる”ことこそ財産 -伊藤ハムに聞く、人気Facebookページの作り方
伊藤ハム 広報・IR部 広報室 関澤昌弘氏、日経BP社 日経トレンディ 編集部記者 荒井優氏
「ハム係長」で知られる伊藤ハムFacebookページ担当の関澤氏が登場。日経トレンディ記者との対談形式で、ハム係長誕生の裏話や、ソーシャルメディア上でのコミュニケーション術について語りました。
伊藤ハム 広報・IR部 広報室 関澤昌弘氏
 
-大人気の「ハム係長」、誕生の経緯は?
「ソーシャルメディアを立ち上げよう」ということで、2010年12月に会社の決裁をとり、2011年1月から準備を開始しました。最初は特にキャラクターの活用は考えていませんでしたが、キャラクターを使った方がコミュニケーションしやすいというアドバイスを頂いたことと、今までも店頭販促用のキャラクターもあったことから、最初からキャラクターを立てての運用にしてみようかとの話になりました。
キャラクター案は20案くらい出ており、当初は現在のハム係長とは全然別の「パンダ」をモチーフにしたキャラクターにほぼ決まりかけていたんです。でも、それは男性だけの会議で決めていたものだったので、最終決定する前に、もう1度社内の女性の意見を聞いてみたところ、ハム係長がダントツ人気だったのです。
伊藤ハムはどちらかというと地味な会社なので、あまり突飛なことをやりたがらない風潮にあります。でも、若手や女性の意見としては、「ソーシャルメディアをやるなら今までの伊藤ハムらしくないものの方がいいのではないか」という発想でした。そして20案ある中で一番くだけていたのがハム係長だったんです。実際にハムを買うのは女性が多いので、最終的には女性に支持されるものを選択しました。
結果的には、「係長」というネーミングが、管理職でもなければ、平社員でもない立ち位置として、男性にも支持頂けるものになったのではと思います。やはり、ソーシャルメディアでキャラクターを開発する際は、ユーザー目線が大切なのだなと考えさせられました。
 
-ファンから愛される「ハム係長」。ソーシャルメディア上でのコミュニケーションで心がけていることはありますか?
シェアよりも、コメントをとても大切にしています。「わざわざ書き込んでくれる」ファンの気持ちを大切にして、できる限り素早く、そして感謝の気持ちを込めながら丁寧に返信するように心がけています。
また、トーンやマナーには十分気を付け、丁寧な口調を心がけながらも、あまり堅苦しくなりすぎないように気を付けていますね。とはいえ、くだけすぎたり、奇をてらうようなことはあまりしません。ファンの方の投稿内容やコメント内容に合わせて、フレンドリーならフレンドリーに、丁寧なら丁寧に返信するのが基本ではないでしょうか?
 
-ファンからのコメントをどのように引き出しているのですか?
ファンの方が書き込んでいただきやすいテーマを作るようにしています。
しりとり
例えば、以前ファンの方とFacebook上で食べ物をテーマにした「しりとり」をしたことがあります。コメントするハードルを下げ、参加しやすいようにと考えたものだったのですが、いつもならコメント数が平均数十件くらいのところ、300件程度のコメントを頂けました。普段の「レシピ」等に関する投稿の場合、やはり反応するのは女性が多く、男性の方にはあまりコメントをしていただけない。でもしりとりの場合は誰でも参加できるテーマだったのがよかったのだと思います。
トリビア
伊藤ハムの過去の歴史や取り組みを紹介していく「トリビア」というシリーズの投稿を開始したのですが、その最初の投稿で、「なるほど!と思った方は、へぇ~のコメントをください」と呼びかけました。結果的にたくさんの「へぇ~」コメントを頂けましたね。
4コマ漫画
4コマ漫画も非常に人気のあるコンテンツです。また、これに限らず、やはりイラスト付の投稿はとてもよい反応を頂けますね。先日、夕方の17時頃にハム係長が酔っ払ったイラストを投稿したところ、「こんな時間から飲んでるの?」等のコメントを多数頂きました。このように「つっこみどころ」を作っておくことも大切かと思います。
 
また、ユーザーの方から頂いたアイディアをページの投稿に取り入れると大変喜んで頂けますね。例えば投稿でよく使っているハム係長の顔文字 (公 )は、ファンの方が考えてくださったものです。また月曜日のお決まり文句である「ハムきってまいりましょう」も同様です。こちらとしても嬉しいですし、ファンの方にも喜んで頂ける。お互いによい関係が作れているのではないかと思っています。
 
-現時点で、売上や目に見える効果につながっている実感はありますか?
正直なところ、まだ売上や目に見える効果にはつながっていません。伊藤ハムの商品は100円~500円くらいが目安であり、Facebookページがきっかけでお買い上げいただいたのかどうかの客観的な数字が見えにくいこともあります。
ただ、今年3月に行ったKGI調査では、ソーシャルメディアを通じて伊藤ハムに触れて頂いているユーザーの方が、そうでない一般消費者よりも、圧倒的に伊藤ハムへの好感度や、売り場での想起率が高いというデータが出ています。正直、調査前は「5円、10円高くてもハム係長の会社のものを買ってあげよう」というユーザーがいればいいな、くらいに考えていたのですが、結果はもっといいものでしたね。ただ、いずれにせよ弊社は直接の売り上げ増ではなく、ファン作りとブランディングを重点にしています。
 
-今後、Facebookページをさらにどのように発展させていきたいと考えていますか?
以前Facebook上のキャラクター認知度調査を実施したところ、ハム係長を知っていただいているのはFacebookユーザーの2割との結果が出ました。これは、逆に言うと8割の方はまだ知らないということです。ここをもっと伸ばし、認知度を高めていかないといけません。
Facebookページを開設して約1年半、コツコツと運用して現在27, 000名を超える方にファンになって頂いていますが、これからは「アプリ」も活用しながら、新しいユーザーに、もっとアプローチをしていきたいと思っています。
 
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