「おしゃれな誌面」や「きれいなWeb」では戦えない【「オウンドメディア」の話をしよう(2)】
*本記事は「日経BPコンサルティングスタッフルーム」からの寄稿を、SMMLabが一部編集してご紹介しています。
 

「オウンドメディア(Owned Media)」とは、出版社などが一般市場に向けて発行するマス媒体に対して、企業が、顧客のために自ら発行する媒体のこと。航空会社の機内誌やカード会社のゴールド会員誌を思い浮かべていただければ、分かりやすいでしょう。もちろん、雑誌スタイルのものだけでなく、書籍やタブロイドなどの紙媒体、Web、電子雑誌書籍、メールマガジン、Twitter、Facebookなどの電子媒体に至るまで、最新のオウンドメディアは多岐にわたっています。このシリーズでは、オウンドメディアを活用することで企業は何を得られるのか、強いオウンドメディアはどう作るのかを語ります。第2回は、最新のオウンドメディアがどこを目指しているのかについてお話します(全5回)。
 


 
いきなり弊社のビジネスの話で恐縮ですが、私たちは出版社としてのリソースを活用し、クライアント企業のオウンドメディアを作るお手伝いをしています。私たちに声がかかる理由は実に様々。「雑誌スタイルの会員誌なので、出版社の市販誌クオリティで作ってほしい」というクライアントさんもあれば、「BP社の専門誌と同じような専門的なコンテンツがほしい」というクライアントさんもいらっしゃいます。中には、「頑張って社内で編集を続けてきたけど、プロの編集者ではないので、あまりにも効率が悪くて」とおっしゃるクライアントさんも。つまり、お声掛かりの理由のほとんどは、“餅は餅屋”というわけです。もちろん、どのケースも、喜んでお引き受けいたしますが、出版社がお手伝いすることの最大の意味は、本当は少し違うところにあるのです。
 
私たち出版社が、定期媒体であれ単発媒体であれ、紙媒体であれネット媒体であれ、とにかく媒体と名の付くものを作ろうとするときに、真っ先に取り組むのは、“媒体コンセプト”をどう組み立てるかです。媒体コンセプトとは、「その媒体は世の中にどんな価値を提供するのか」、言い換えれば「その媒体を読むことで、読者はどんなメリットを得られるのか」を定義するもの。媒体の中身のコンテンツやデザイン、あるいは造本やサイト設計などの仕様は、すべて媒体コンセプトを具体化、可視化したものですから、とにかく媒体コンセプトが出来上がらないと始まりません。コンセプトを考え抜き、とことん練り上げる作業を抜きにして、いい媒体、読まれる媒体は生まれません。安直に作ったコンセプトのゆるい媒体は、ほぼ間違いなく売れませんし、いくらコンセプトが明快であっても、世の中に先行する他の媒体がある二番煎じ、三番煎じでは、やはり読者の興味は惹けないのです。
 
「おしゃれな誌面」や「きれいなWeb」では戦えない【「オウンドメディア」の話をしよう(2)】
 

すべては「媒体コンセプト」から始まる

 
そしてこの構図は、出版社の市販媒体も、企業媒体であるオウンドメディアもまったく同じです。むしろオウンドメディアの場合は、「その媒体はお客様にどんな価値を提供するのか」に加えて、「その媒体を発行することで、会社は何を獲得できるのか」という命題を満たさねばなりませんので、コンセプト作りのハードルは、一段と高くなると言えるでしょう。そして、クライアント企業のオウンドメディアに対して、私たちが提供できる最初の、そして最大のサポートは、斬新でオリジナリティある媒体コンセプトを構築することなのです。おしゃれな誌面やきれいなWebデザイン、あるいは深みのある面白いコンテンツを提供するのは、その後の仕事です。
 
 
かつて企業が制作する媒体は、製品カタログや会社案内がほとんどでした。
しかし──
 
(1)新製品の説明や宣伝だけでは、なかなか消費者の関心を惹けない
(2)製品がもたらす生活の豊かさを、具体的なイメージで伝えたい
(3)企業イメージをアップしたい
 
といった事情があり、製品ジャンルをめぐる読み物や、使用シーンを盛り込んだ冊子スタイルが注目されるようになります。それが、さらに進化し、製品が想定する消費者に対し、ライフスタイルを提案する形になっていきました。いわば、これが日本のオウンドメディア──当時から最近までは「カスタム出版」と言っていました──の第1世代です。盛んになったのは、1980年代でしょうか。
 
さらに、それが市販誌スタイルへと進化していきます。
背景には──
 
(1)送り手の目線ではなく、読者目線の誌面のほうが読んでもらえる
(2)目の肥えた読者が増え、市販誌とのクオリティ格差が気になる
(3)有名人を多く起用し、メジャー感を出したい
 
といった要因がありました。結果、オウンドメディアは市販誌のテイストを積極的に取り込み、2000年代に入ると急速に誌面が市販誌化していきました。これが第2世代。出版社へのお声掛けが多くなったのも、この頃からです。
 
「おしゃれな誌面」や「きれいなWeb」では戦えない【「オウンドメディア」の話をしよう(2)】
 
 

必要なのは、機能が明確な「ソリューション媒体」

 
そしていま、オウンドメディアは次の第3世代へと進化しています。進化の原動力は、ネット媒体の浸透と企業の意識変化です。
つまり──
 
(1)ネット媒体、紙媒体と企業が複数の自前メディアを持つようになり、各メディアの機能、役割分担を明確にする必要が出てきた
(2)企業のコスト意識が進み、オウンドメディアにも「費用対効果」の視点を導入
(3)オウンドメディアの市販誌化が進んだ結果、市販誌を超える差別化が必要に
 
企業からの情報発信が増え、発信の手段も進化し、いまや「市販誌のようなオウンドメディア」は当たり前。求められるのは、その企業にとって機能が明確で、より付加価値の高い仕事をしてくれる「ソリューション媒体」なのです。冒頭で「その媒体を発行することで、会社はどんなメリットを得られるのか」という“媒体コンセプト”が最も重要だと申し上げたのは、そういう意味です。
 
 
しかし、一口にソリューションと言っても、そのアプローチは、オウンドメディアの発行目的によって多種多様。次回は、実際の例をご紹介しながら、ソリューションについてお話します。
 
 


 
ソーシャルメディアが成熟期を迎え、企業のマーケティングでは今後、より「コンテンツ」が重視されるようになると考えられます。
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<ライター紹介>
能勢 剛氏能勢 剛
日経BPコンサルティング 取締役・企画出版本部長
「日経トレンディ」「日経おとなのOFF」など、市販3誌の編集長を経て現職。趣味は、自転車、カヌー、パラグライダーなど、乗れるものは何でも。好物は、ウイスキー、ワイン、日本酒、ビール、紹興酒など、アルコールの入っているものなら何でも。
 



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