SMM Labセミナー「ソーシャルメディアで愛される企業になる秘訣 ~Facebookページタイムライン化後のコミュニケーション戦略~」の内容をレポートします。


こんにちは、SMMLabの小川です。
今日は、6月13日にSMM Lab主催にて開催したセミナー『ソーシャルメディアで愛される企業になる秘訣 ~Facebookページタイムライン化後のコミュニケーション戦略~』のレポートをお届けします。
今回のテーマは「ソーシャルメディアでファンとのエンゲージメントを高めていく目的の確認とその実践法」ということで、日本におけるアドボカシー・マーケティング研究の第一人者である山岡隆志氏と、国内Facebookページのエンゲージメント率上位ランク常連であるチロルチョコ株式会社取締役/松尾裕二氏、株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン マーケティング部部長/中澤伸也氏の3名にお越しいただきご講演いただきました。
 
■山岡隆志氏:「ソーシャルメディア時代のマーケティング」
山岡氏の講演では、カスタマー・パワーが高まり、従来の企業主導のマーケティングが通用しなくなっている現在に有効な「アドボカシーマーケティング」の理論を、実例を交えながらご解説頂きました。
 

プロフィール:
『顧客の信頼を勝ち取る18の法則』著者。マーケティング研究者であり実務家。大阪大学工学部卒、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。全社的な事業開発とマーケティング戦略、デジタルマーケティングを推進する。
北陸先端科学技術大学院大学マーケティング非常勤講師。著書に『顧客の信頼を勝ち取る18の法則 -アドボカシー・マーケティング-』(単著)日本経済新聞出版社 (2009年)。訳書に『アドボカシー・マーケティング』(単訳)英治出版、論文に『カスタマー・アドボカシーの中核概念』「季刊マーケティングジャーナルNo.118」や「Think!」東洋経済新報社など多数。
 
ソーシャルメディア時代に重要なアドボカシー・マーケティング戦略
 
「アドボカシー」とは擁護、支援、弁護を意味します。そして「アドボカシー・マーケティングとは、全ての顧客に対してありのままの情報を公平に提供、顧客にとっての最高の利益を追い求めることで、顧客とのロイヤリティを築き、長期的な企業のメリットを追求する戦略のことです。
顧客とのロイヤリティを築くことで、顧客は企業にとっての「見込み客→購買→リピート→ロイヤリティ発生→推奨者」とロイヤリティの梯子を上っていってくれ、やがては企業と同じ「マーケティングの担い手」になってくれると言います。
 
アドボカシーを実践するための8つのアプローチ
山岡氏は2009年に『顧客の信頼を勝ち取る18の法則~アドボカシ-・マーケティング』を執筆されていますが、ソーシャルメディアが普及し、カスタマーパワーが増大した今こそ、このアドボカシーのビジネスへの取り込みが重要になってきていると説明します。
まずは、具体的に実践するための、8つのアプローチが紹介されました。
1)透明性
=顧客に対して正直に情報を公開しているか?いいものも悪いものも積極的に情報を公開していくこと。
2)製品・サービスの品質
=絶対基準より、相対的な品質が重要。No.1の製品・サービスを作っていくこと。
3)インセンティブ
=企業の利益(従業員の利益)と顧客の利益を一致させる。顧客の利益を追求すること=従業員の評価になるように社内評価指標を置くことも大切。
4)顧客とのパートナーシップ
=企業が顧客を支援し、顧客に対して「あなたの味方である」と宣言。
5)顧客との共同作業
=企業と顧客、製品と顧客、顧客と顧客の関係が強化。「顧客参加型」の取り組み。
6)製品比較とアドバイス
=嘘や偽りが顧客に暴かれるリスクがあるなら、正直こそが最善の策。競合も含めて、お客様のニーズに的確にアドバイスしていくこと。
7)サプライチェーン
=流通・中間業者もビジネス・パートナーとして顧客から信頼を得る努力を。
8)アドボカシ-の浸透
=アドボカシー戦略を組織のあらゆる部門に浸透させることが重要。組織のトップがアドボカシーにコミットメントして、全社に浸透させて推進していく姿勢が大切。CAO(=Chief Adovocacy Officer)を設置している欧米企業も多く存在する。
 
アドボカシーを構成する5つの中核概念
また、アドボカシーの中核概念としては、5つのポイントに集約されると説明します。
・最高の品質=あらゆるニーズに対して、自分たちの製品がNO.1と言えるものにすること。またそれを実現できる社内体制にしていくこと。
・顧客利益最大化=通常は「企業利益最大化」で動いている企業が多いのが実情。そうではなく、まずはお客様の利益を考えること。
・相互支援=企業が顧客を支援すると、顧客も企業を支援してくれる。また、顧客同士も支援しあうようになってくれる。
・透明性=ネガティブなことでも隠すのではなく、外に出していく姿勢。
・誠実性=常に誠実な対応をすること。
 
アドボカシー実践の事例
また、上記を実現している事例として、”Everyday Low Price”で知られる「OKストア」や、ネスレの「トゥギャザー・ネスレ」の取り組みなど、いくつかの事例が紹介されました。
・「透明性」の実践事例:OKストア
チラシなどの宣伝にかける経費を一切カットし、商品開発などの別経費や、コストの削減に当てていくことで「Everyday Low Price」を実現。また、いい情報だけでなく、ネガティブな情報まで全て公開する姿勢を貫いており、野菜や果物に何の農薬を使っているかも全て公開している他、「リンゴのシャキシャキ感が少なくなっています」など、個別の品質に関する情報も掲げた上で商品を販売している。それにより消費者からの信頼を得ており、企業としては増収増益が続いている状態。
・「相互支援」の実践事例:ネスレ「トゥギャザー・ネスレ」
徹底的に顧客に寄り添った活動を実施、リレーションシップ・センターで得た情報をマイニングして商品開発に役立てている。例えば、従来は「顧客がコーヒーを楽しむシーンとは、ゆったりリラックスしている瞬間だろう」との企業視点から、「コーヒーを優雅に楽しむようなイメージのCM」を作っていた。ところが、実際の顧客の声を聞いてみたところ「実態としては、子供を遊ばせている合間に立ちながらコーヒーを楽しんでいる」ことが分かり、CMもそのような方針に転換。
 
これからのマーケティングに必要な考え方
講演のまとめとして、「これからの時代においては、企業が価値を作ってお客様に提供するという考え方ではなく、お客様が価値を作り企業がそれを支援する、顧客の価値創造プロセスに企業が参加させて頂くという考え方が大切」と語りました。
 
尚、アドボカシーマーケティングについては、以前こちらの記事でも詳しく取り上げておりますのでご参照ください。
・参考記事:コミュニケーション重視の今こそ! 改めてアドボカシー・マーケティングについて学ぶ
 
・チロルチョコ株式会社 取締役 松尾裕二氏:「チロルチョコのソーシャルメディア活用術」
チロルチョコ株式会社の松尾氏からは、「チロルチョコのソーシャルメディア活用術」として、チロルチョコがソーシャルメディアを使う理由や、実際にどのように運用しているのかについてご講演いただきました。

プロフィール:
平成23年、チロルチョコ株式会社に入社。各現場研修を行いながらソーシャルメディアの運用を管理。現在は、「Facebook」「mixi」 「Twitter」「Google+」左記4つのソーシャルメディアを運用中。更に2013年度の新卒採用もFacebookページ上のみで行っている。4月末時点で上記5つのソーシャルメディア合計ファン数は、約48, 000人。
チロルチョコ株式会社 FacebookページURL:https://www.facebook.com/TIROL.jp
 
チロルチョコがソーシャルメディアを使う理由
2011年7月にソーシャルメディアの運用を開始した当初、まずは「販売促進」を目的としていたそうです。ところが運用をしていくうちに、宣伝だと反応が良くないこと、逆に企業の内面を見せたり、(それが仮に売りにつながらなくても)お客様にとって価値のある情報を提供していけば、ファンになってもらえることに気付いたそうです。
現在、チロルチョコがソーシャルメディアを使う理由は以下の2点であると紹介されました。
・チロルチョコとお客様の距離を限りなく0にする
・お客様の記憶の片隅に居続ける
つまり「ブランディング」を目的とし、スーパーやコンビニエンスストア等で商品を目にした時に、「そういえばチロルチョコがFacebookをやっていたな、ちょっと買ってみようかな」と思ってもらえることをゴールにしていると言います。
 
チロルチョコのソーシャルメディア運用術
実際の運用にあたり、チロルチョコでは「とにかくやってみる」ことを大切にしているそうです。もちろん誤字・脱字に気を付けたり、また投稿により不快な思いをする人がいないか等の最低限の確認は行いながらも、まずは投稿してみて、そしてその後しっかり検証するというサイクルを繰り返すことが大切と言います。
また具体的な運用術として、いくつかのエピソードが紹介されました。
・写真付の投稿は反応率が4倍は違う。
・定時後の時間の反応率が良い。チロルチョコでは業務に支障がないことも考慮し19時頃を投稿の目安にしている。
・「このページのファンでよかったと思ってもらえるようなキャンペーン」を定期的に実施するのもファンにとってのメリットになる。
・季節毎にプロフィール写真を変更することでファンに楽しんでもらえる。
(左:クリスマスやお正月に合わせてプロフィール画像を変更。また、実際の桜の開花前線に合わせて、プロフィール画像にも桜を咲かせていったそう)
・新企画発表前に、カバー写真を徐々に変更したり投稿で予告するなどして期待感を高めることでファンとのエンゲージメントを高めておくことが大切。結果としてFacebookページのエッジランクも上がり、多くの人にリーチできるようになる。
その他にも、Facebook広告術や、Facebook就活術等、炎上リスク回避術等、Facebookページ運用者にとって非常に参考になるエピソードが紹介されました。
 
・株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン マーケティング部部長 中澤伸也氏:「ソーシャルメディアマーケティングの実践と現実」
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の中澤氏からは、「ソーシャルメディアマーケティングの実践と現実」として、GDOがソーシャルメディアを利用する目的や、実際の運用実態について、具体的な数値のご紹介を交えながらご講演をいただきました。

プロフィール:
1997年 株式会社ソフマップに入社。データマイニング、CRM、営業企画、経営管理といった部門の立上や運営を行う。2005年 株式会社パシフィックマネジメントに入社。システム企画担当として、アセットマネジメントシステム立上げを行う。2006年1月 株式会社ゴルフダイジェスト・オンラインに入社。データマイニングチームの立上げ、情報システム(DWH/BI)の導入を行う。2011年全社システム刷新プロジェクトにおいて、推進室、会員基盤プロジェクト等に関わる。マーケティング部 部長 として現在に至る。
GDO(GolfDigest Online) FacebookページURL:https://www.facebook.com/gdo.co.jp
 
GDOがソーシャルメディア、Facebookを利用する目的
GDOは、自社サイト(オウンドメディア)で深く繋がっているお客様をメインとした「ゴルファー」と、様々な経験や感動を共有し関係性を深めていくための場としてソーシャルメディアを運営しているそうです。自社サイト上ではお客様との「情緒的」な関係を結びにくい一方で、ソーシャルメディアでは「共感」を通じて情緒的な関係が結びやすいと言います。その為、無理な新規ファン獲得はせず、基本的には自社サイトのファンをFacebookページに連れてくることに力を入れていると説明します。
但し、2011年7月に開始した当初は、インセンティブを提供しての新規顧客の獲得にも力を入れていたそうです。ところが、ファン数が伸びる一方で、インプレッションはどんどん減っていくという現象が起こったと言います。つまり、ファン数が伸びても誰にも届いていない状態が続きました。GDOでは、その原因を「反応率が低くリーチが広がらない=つまり共感されていない状態であるため」と判断し、その後方針を転換。無理に新規顧客を集めるのではなく、自社サイトのファンを中心にゴルファーと「共感」する場を作ることに集中していったそうです。その結果、投稿へのいいね!やコメント、シェアが増え、ファンだけでなくその後ろにいる友達にも情報が伝わっていくようになった結果、ファン数の伸びとインプレッションの伸びが一致するというFacebook本来の姿に戻すことができたと言います。そして現在は、「約14%」という、日本国内でもトップクラスのエンゲージメント率(話題にしている人÷ファン数)を維持できているそうです。

左:Facebookページ開設当初は、ファン数(赤)が伸びる一方でインプレッション(青)は落ち込む状態に
右:エンゲージメント重視の方針に転換後、ファン数(赤)の伸びとインプレッション(青)の伸びが一致
 
GDOのFacebookページ運営実態
GDOでは、実際のFacebookページ運営において以下のような工夫をしているそうです。
・ひたすら丁寧なウォールマネジメントを実施。社内の事業を横断した8名のメンバーで、週次でディスカッションを行いPDCAを繰り返している。
・投稿ネタだけでなく、投稿回数、投稿時間、投稿内容、文言(行間の空け方や、表現のトーンも含めて)についても工夫している。
・自社サイトと連動する形でFacebookキャンペーンを実施。自社のメルマガ等からFacebookページへ誘導する。
「共感してもらえる投稿」をひたすら研究することで、通常反応が得にくい「ゴルフ場ネタ」や「商品ネタ」等、少し商売寄りの投稿であったとしても、ある程度高い反応率が得られるようになっているそうです。また、キャンペーンについても「自社サイトと連動し、ファンに楽しんでもらえるキャンペーン内容になっているものが最も効果を上げられている」とのエピソードが(実際の数値を用いながら)紹介されました。
 
「ファンが友達を連れてくる可能性」に期待
最後に、GDO中澤氏が、ソーシャルメディアのどのような点に可能性を感じているのかについてのお話がありました。
中澤氏は、従来のメディアが、例えば「ゴルフ」などの何らかの「場や関心」が情報伝達のハブになっていた一方、ソーシャルメディアでは「人」が情報伝達のハブになっていることが大きな違いであると説明します。つまり、今までは「ゴルフ」に関心がある人としか繋がれなかった一方で、ソーシャルメディアでは、「友達」を通じて、ゴルフに特に関心がなく今までであれば出会えなかった人とも出会えることに期待していると言います。
「自社のファンとソーシャルメディアで共感を積み重ね、エンゲージメントを高めていくことで、潜在顧客ともつながれるかもしれない」との言葉で講演が締めくくられました。
 
今回のセミナーのテーマは「ソーシャルメディアで愛される企業になる秘訣」でしたが、お三方の講演内容をご覧になっていかがでしたでしょうか?ソーシャルメディアの普及によって消費者がますますパワーを持つ中、企業はもはや嘘やごまかしで自分をよく見せることはできません。これからの「透明化」の時代に、愛される企業・ブランドでいるために。そしてその実践法とは?
今回のセミナーが、皆さまがこれからのマーケティングを考える際のヒントになれば幸いです。
 
■セミナー内容Twitter中継まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2134016817981140101
今回のセミナーはTwitterによる中継を行いました。その内容をまとめてありますので、ぜひご参考ください。
 
■ソーシャルメディアマーケティングラボセミナー
・第一回:ソーシャルメディアマーケティングラボセミナーレポート『ザッポス伝説』本荘修二氏「ザッポス流”超顧客主義”逆転発想経営とは」
・第二回:SMMLabセミナーレポート:女性ブロガーに聞いた!企業のソーシャルメディアマーケティングに対する意識・本音大公開
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