LINEミニアプリ記事

LINE株式会社は2020年7月2日、同社の企業向けサービスである「LINEミニアプリ」の一般企業エントリー受付を開始しました(※1)。

「LINEミニアプリ」とは、LINE上で企業が自社サービスを展開できるウェブアプリケーションサービスです。2019年6月にそのサービスが発表され、既にこれまでいくつかの先行企業がサービスを展開していました。
そしてこの7月、その開発申請が一般に開始されたため、かねてより同社が打ち出していた「スーパーアプリ構想」が本格的に進むと大きな注目を集めています。

では、そもそもこのスーパーアプリとはどんなものなのでしょうか?スーパーアプリ化の動きはなぜ起こり、今後どうなっていくのでしょうか?
今回はそんな注目のスーパーアプリとLINEミニアプリについて、活用事例をまじえながら解説していきます。

新しいアプリサービスの形、「スーパーアプリ」とは?

まずはじめにスーパーアプリについてご説明します。

スーパーアプリとは「用途の異なる様々なアプリを一つのメインアプリ上で統合し、シームレスに使えるようにしたもの(※2)」です。

これまでは、動画を見るには動画視聴アプリ、モバイル決済のためにはモバイル決済アプリ、フードデリバリーを頼むにはデリバリーアプリ、といった様に、利用したいサービスによってそれぞれ個別のアプリを所持・利用する必要がありました。

スーパーアプリの場合は個別にアプリを所持する必要がありません。1つのメインアプリをダウンロードすれば、メインアプリに紐づく形で様々な用途のアプリケーションを利用することができます。このスーパーアプリに紐づくアプリケーションはミニアプリ、ミニプログラムなどと呼ばれています。

スーパーアプリとは

ユーザー視点、導入企業視点でみる「スーパーアプリ」のメリット

ではスーパーアプリには具体的にどういったメリットがあるのでしょうか。ユーザー視点、導入企業視点からそれぞれのメリットを考えていきたいと思います。

スーパーアプリのメリットデメリット

【ユーザーメリット】

①シームレスにサービスを利用することができる

例えば、「友達と食事するお店を予約する」ために、インターネットで情報検索をし、地図アプリで場所を確認し、予約アプリで予約をし、メッセージングアプリを使って予約の連絡をする必要がある、といった様に、我々の生活では1つの目的に対して複数のアプリケーションを起動させなくてはいけない場面は多々あり、不便さを感じているユーザーも多くいます。

しかしスーパーアプリを使えば、多様なサービスをメインアプリからシームレスに起動させることができます。つまり、目的に応じた複数のアプリを探したり、立ち上げたりする煩雑さを減らしてくれるのです。

②スマートフォンのデータ容量を圧迫しない

我々が一般的にアプリと呼んでいるものはネイティブアプリと呼ばれるものです。ネイティブアプリは、そのアプリケーションを使う端末上で動作するため、端末に直接アプリをダウンロードする必要があります。

一方、スーパーアプリに紐づく様々なサービスであるミニアプリ、ミニプログラムはウェブアプリと呼ばれるものです。ウェブアプリは、インターネットから利用するアプリケーションソフトウェアのことで、その動作はウェブ上で完結します。すなわち、アプリストア経由でダウンロードされるネイティブアプリとは違い、ダウンロードによってスマートフォンの容量を圧迫することがありません。

③新規登録や支払い情報入力の簡略化

ネイティブアプリを利用する場合には、それぞれのアプリごとに利用登録、個人情報や支払い情報の登録が必要でした。スーパーアプリでは、メインアプリに登録情報を入力して連携させることができるので、こうした情報登録にかかる手間を簡略化することができます。

【導入企業メリット】

①開発コスト・リソースの削減

ネイティブアプリは、iOSとAndroid向けのものをそれぞれ開発する必要があるため、ウェブアプリよりも開発コストやリソースがかかる傾向があります。
一方ウェブアプリであるミニアプリ、ミニプログラムはウェブブラウザ上で動作するためこの個別開発が必要ありません。よってネイティブアプリよりも開発コストやリソースの削減することが可能です。

②集客・利用率をあげることができる

ネイティブアプリの場合、アプリへの集客のために、様々な媒体を活用した広告施策や、アプリストア最適化施策が必要となります。また、アプリの稼働率をあげるため、外部のツールと連携させてプッシュ型のメッセージ配信をしていくなどの工夫も必要となります。一方、ミニアプリ、ミニプログラムの場合は、メインアプリ内に多様な導線が用意されている場合が多いのが特徴です。また、ユーザーに対してシームレスなサービスを提供できる分、稼働率の向上も見込めます。

③リッチなデータ活用

ネイティブアプリで取得できるのは、自社のアプリを利用している人のアプリ内の行動や登録データのみです。
しかし、スーパーアプリには、自社のミニアプリ、ミニプログラムの利用データ以外にも、メインアプリ内にある自社の公式アカウントのユーザーデータや、他のサービス利用データなど様々な種類のデータがあります。スーパーアプリごとで活用できるデータは異なりますが、ネイティブアプリ単体よりリッチなデータを活用したマーケティング施策を実施できるのがミニアプリ、ミニプログラムの特徴です。

「スーパーアプリ」が注目される背景にある「ネイティブアプリ市場の飽和状態」

このスーパーアプリが注目されてきた背景には「ネイティブアプリ市場の飽和状態」があります。

スマートフォンの普及し、ユーザーは様々なネイティブアプリを自分の端末にダウンロードしてきました。
アプリ分析プラットフォーム「App Ape」を提供するフラー株式会社の発表したデータでは、2019年12月における国内の1人当たりの平均アプリ所持数はおよそ99個でした。一方で、利用している平均アプリ数は約38個にとどまっています

このデータからは、スマホの普及によってたくさんのネイティブアプリを所持しているものの、そのおよそ3分の2近くを使いこなせないままのユーザーが多いという現状がわかります。

この飽和状態にあるネイティブアプリ市場の現状を踏まえると、開発コスト・リソースをかけてネイティブアプリ市場に新規参入するより、一定のユーザーをもつスーパーアプリに統合されたミニアプリを活用する方が効率的であるという見方が強まっているのです。
ユーザーにとっても、これ以上使いこなすことのできない「ゾンビアプリ」が増えることは健全ではありません

つまりスーパーアプリ化は企業、ユーザー双方にとって健全なアプリ施策となりうるものとして注目されているのです。

アジア圏先行で進む、スーパーアプリ化事例

では実際に、世の中にはどんなスーパーアプリがあるのでしょうか。簡単にその事例を紹介していきたいと思います。

①WeChat(中国)

WeChat アイコン

スーパーアプリのパイオニアとも言えるのが、中国・騰訊社が提供するメッセージングアプリWeChatです。
WeChatでは2017年1月にスーパーアプリ化を進めるべくWeChatミニプログラムのサービス提供をはじめました(※3)。そのサービス浸透率は非常に高く、WeChatのユーザー数11億人のうち、およそ7割のユーザーが日常的にミニプログラムを活用しているといいます(※4)。

そんなWeChatミニプログラムの特徴は「友達からのシェア」「QRコード」「検索窓」「発見タブ」などミニプログラムへの導線が豊富に用意されていることです。
また、プログラムの種類も、決済やメッセージングといったものから、飛行機や旅行の予約、エンタメから、名刺を作れる機能、名刺管理や顧客管理を行うようなビジネス系のものまで様々。
日本企業でも、ディスカウントショップのドン・キホーテやアミューズメント施設の富士急ハイランドなど、インバウンド対策としてWeChatミニプログラムを活用する企業が増えています

WeChatミニプログラム
関西国際空港ではミニプログラムを通して事前予約・事前購入→空港で受け取りのサービスが実装されている(左)。
また、岐阜県に本社をおく株式会社ARTISTIC&COのブランドでは、EC機能を実装したWeChatミニプログラムを活用。2019年のW11にて、新しく天猫国際に出店したブランド部門で売上1位を獲得(右)。

②Gojek(インドネシア)

Gojek ロゴ

Gojek(ゴジェック)は2010年に設立されたインドネシア・ジャカルタにあるベンチャー企業です。同社はインドネシアで一般的に利用されてきた二輪バイクタクシーの配車サービスとして、そのビジネスをスタートさせました。
現在は、バイク・自動車の配車、食品配達、電気代や携帯電話の支払いサービス、ホームクリーニングから引っ越しまで、生活に密接した様々なミニプログラムを展開。フードデリバリーには30万以上の加盟店があり、同社の運営するモバイルウォレットGoPayは、東南アジア有数の決済アプリとなっています(※5)。

Gojekの「Super App」イメージ動画。

③Grab(シンガポール)

Grab ロゴ

東南アジアにおいてGojekとその勢力を争っているのが、2012年にマレーシアにて設立され、現在シンガポールに本社を置くGrab(グラブ)です。
Grabはマレーシアにおけるタクシー配車サービスとして事業を開始しました(※6)。
その後2018年に東南アジアで初めてとなるスーパーアプリの構築を目指し、パートナー企業がサービスをGrabへ統合するためのAPIであるGrabPlatformを発表(※7)。
現在はGrabを基幹とし、フードデリバリー、デジタル決済、配車サービス、保険、チケットサービスなどを展開しています。

同社のブランド紹介動画。

こうした、スーパーアプリ化の動きがアジア圏などの新興国を中心に広がりを見せているのには、欧米を中心とした先進国とのアプリ環境の違いがあります。

そもそも、スーパーアプリは、それに紐づくミニアプリ、ミニプログラムに対する利便性をユーザーが認識してこそ、その価値を発揮します。そのためには、基幹アプリ自体が、普段からユーザーの活用頻度の高いものである必要があります。
また、ミニアプリ、ミニプログラムに参入する企業にとっては、自社のプログラムを活用していくれる基幹アプリからの送客があってこそ、参入意義があります。ユーザー数が少なく使われないアプリ上でサービスを展開したところで価値は感じられません。

そして、こうした高いシェアやアクティブ率を支える要素にはアプリのローカライズ性があります。中国のWeChatは中国国内を中心に高いシェアを獲得しているメッセージングアプリですし、GojekやGrabは配車サービスとして、その国や地域に根ざしたサービスを提供してきました。いわばそこでの生活に密着したサービス・インフラのような役割を果たしてきたアプリなのです。

つまり、特定の地域や国に根ざし、アクティブ率の高いたくさんの固定ユーザーに活用されているアプリであることがスーパーアプリの条件となっているのです。

アプリストアが生まれたアメリカやアプリストアが先行して展開してきた先進国をみると、ネイティブアプリが発展する過程において、徐々にモバイル化が進んできたという背景があります。スーパーアプリ化に相性が良いとされるソーシャルメディア、配車アプリといったアプリも、モバイル化の過程において誕生したためにサービスが乱立。圧倒的なシェアを獲得するサービスそのものが成立しにくく、事業スケールのために地域性よりグローバル性を選択してきたという背景があります。

一方、現在スーパーアプリ化の動きが起きているアジア圏などの新興国では、テクノロジーそのものがモバイルファーストで発展してきました。そして、資金力のある地元企業が、すでに欧米や先進国で成功をしているサービスを模倣してアプリサービスを立ちあげた結果、国や地域に根ざして高いシェアを獲得することに成功しているのです。
この点が、アジア圏などの新興国において、スーパーアプリ化の動きが見られる1つの大きな背景です(※8)。

日本は先進国の中に含まれますが、その中でもLINEは国内MAU8,400万人、アクティブ率86%という日本最大級のメッセージングアプリとして、生活インフラのような独自のポジションを確立しています。その点では、スーパーアプリ化を進めていくにはうってつけのアプリサービスなのです(※9)。

「LINEミニアプリ」では何が実現できるのか

では、そんなLINEミニアプリはどういったサービスなのでしょうか。その特徴や導入までのフロー、先行活用事例についてご紹介していきます。

■LINEミニアプリのメリット

まずLINEミニアプリのメリットについてです。

①ユーザーの離脱防止

他のスーパーアプリ同様LINEアプリ内でサービスを利用できるので、煩雑な会員登録や支払い手段登録を少ない手順で実施し、ユーザーの離脱を防ぎます。

②多様な導線設計

LINEアプリからミニアプリへはさまざまな導線があります。同時にお気に入りのミニアプリをホームタブに追加する機能など、ユーザーのリピート利用を促す工夫もされています。
もちろんQRコードを活用し、利用企業が実店舗などオフラインの場でサービス利用を促すことも可能です。

③LINEのトークを活用して友だち間での共有が可能

飲食店の予約時やクーポン情報などをLINEの友だち同士で簡単に共有できるのもLINEミニアプリの特徴です。またプッシュ通知機能を活かし、予約や決済のリマインドなど重要なお知らせの通知設定も可能です。

④詳細なユーザーデータの取得と活用

予約、注文、決済、会員証提示など、オフライン、オンライン双方のユーザー行動をミニアプリ上で提供することで、LINEアカウントと紐づいた詳細なユーザー行動のデータを取得することができます。こうしたデータはミニアプリのサービス改善だけでなく、LINE公式アカウントやLINE広告などへ横断的に活用することができます。

■LINEミニアプリ、サービス導入開始までのフロー

LINEミニアプリは無償で利用することができますが、利用にはLINE社へのエントリーと審査が必要です。
サービス導入開始までのフローは下記の通りです。エントリー窓口へはLINEミニアプリのサービスサイトからアクセスすることができます。

■先行展開事例

最後に、LINEミニアプリを先行して導入している企業の事例をご紹介します。

①ジョルダン乗換案内

日本全国の鉄道、バス、飛行機の経路や時刻を無料で検索できるサービスです。検索した乗換結果は、LINEのトークを活用してLINEの友だちへ共有することが可能です。

ジョルダン乗換案内
検索した経路をそのまま共有する「そのままシェア」と、目的地と到着時刻はそのままに、共有先の友だちが出発地を自由に設定できる「待ち合わせシェア」2つの共有方法がある。
②回転寿司スシロー

回転寿司スシローのLINEミニアプリでは、各店舗の待ち時間確認や順番待ち受付をすることができます。また、すでに同社が展開していた予約アプリとのポイントを合算して活用することも可能です。

回転寿司スシロー
回転寿司スシローのLINEミニアプリ。エリア・現在地から店舗を探し予約できるほか、期間限定・エリア限定を含めたメニューの閲覧も可能。

③クラシル

動画レシピサイトのクラシルでは、同社のレシピ動画のひとつのハブとして、LINEミニアプリを活用。献立や買い物リストなどのコンテンツを提供しています。

クラシル
クラシルのLINEミニアプリ。レシピ動画を軸にして、献立検索や本日のオススメレシピの提案などレシピコンテンツを提供している。

 

いかがでしたか?今回は今注目の「LINEミニアプリ」について、「スーパーアプリ」の解説もふまえながらご紹介してきました。
今後スーパーアプリの浸透によって企業と生活者のアプリ環境がどのよう変わっていくのか、その動向からはますます目が離せませんね。
アプリを活用したマーケティング施策の1つとしてぜひご注目ください!