カジュアル動画 インタビュー

メディア接触環境の変化や5Gの到来などを背景に、動画コンテンツに対する需要が高まる中、デジタルマーケティング領域でも「動画化」の動きが加速しています。

一方、こうした「動画化」については、コストやリソース面から躊躇する企業も少なくありません。そこで今注目されているのが、クラウドサービスやツールを活用して簡単に作ることができる「カジュアル動画」です。

コストやリソースの削減といった面から語られることが多いカジュアル動画ですが、果たしてメリットはそれだけなのでしょうか?

今回は、なぜカジュアル動画が必要とされているのかその背景やメリット、そして「カジュアル動画」活用施策を成功に導くポイントについて、アライドアーキテクツ株式会社 CPO兼プロダクトカンパニー長の村岡弥真人が解説します。

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「動画化」が進んだのではなく、本来あるべき姿になってきた

-今回はデジタルマーケティング領域で進む「動画化」についてお話をお伺いしたいと思います。まず、こうした「動画化」が進んでいる背景についてどうお考えでしょうか?

村岡:動画は視認性が高く処理できる情報量も多いので、本能的に目を向けやすく理解しやすいという特徴があります。そのため動画コンテンツ自体は、例えばテレビや映画など、デジタルマーケティング領域以外ではこれまでも当たり前のように利用されてきました。

その上で、デジタルマーケティング領域でなぜ「動画化」が進んできたかというと、テクノロジーやインフラがそこに対応できるようになってきたからだと言えます。5Gや、それを処理するスマートフォンなどのデバイスがそこに追いついてきたというのが大きな流れとしてあります。

-確かに、動画コンテンツ自体は私たちの生活においては当たり前のものですよね。

村岡:はい。ですので、「動画化」が進んだというより、スマホの普及などによってデジタルの領域がようやく世間に追いついてきた、本来あるべき姿になってきたと言った方がいいと考えています。

また、マーケティングの観点からいうと、TikTokやFacebook、Instagram、LINE、Twitterなどのメディアによる動画コンテンツへの対応努力は凄まじいものがあり、マーケターが動画に対応することを求められているとも言えます。

-メディアが動画への対応に力をいれてきたのはなぜでしょうか?

村岡:まず1つは、ユーザー観点で、動画コンテンツが有効であるという点です。ソーシャルメディアなどのプラットフォーム上では、そのコンテンツが良いものであればあるほど、ユーザーのメディア滞在時間は当然増えます。シンプルなテキスト情報のみのメディアはやはりすぐ離脱されてしまいますし、静止画だけでも飽きがきてしまう。そうなった時に、メディアのMAUやアクティブ率、滞在時間を伸ばしていくためには、動画コンテンツを配信していかなくてはいけないというのがメディアの宿命であり、そのために各媒体が早い段階で動画に対応してきたのだと思います。

-そうですね。動画コンテンツがあることによってメディアがリッチになってきたという感覚はあります。

村岡:そしてもう1つはメディアのビジネス観点、広告在庫の観点です。メディア上に動画コンテンツが増えれば、当然広告クリエイティブにもその流れはやってきます。そして動画クリエイティブは静止画よりも視認性が高く商品理解を促せるものなので、広告のマネタイズや出稿ボリュームを増やす目的で、動画への対応を進めたという背景はあると思います。

<動画を活用したマーケティング施策について詳しく知りたい方はこちら>
動画を活用したマーケティング施策について、よくある質問10個に答えてみた!【マーケティング施策の「あるある」一問一答】

村岡 弥真人氏
アライドアーキテクツ株式会社 CPO兼プロダクトカンパニー長 村岡 弥真人

村岡:少し話はそれますが、デジタルマーケティング領域での動画活用施策は新しい取り組みだという認識を持たれていて、「本当に成果がでる?」と聞かれることも多いです。しかし、本当は我々は日々動画コンテンツに触れていますよね。

-確かにテレビや映画を全く観ない人はいないですよね。

村岡:そうなんです。街を歩けばデジタルサイネージもありますし、そこでも動画に触れています。なのでデジタルマーケティング施策になった瞬間になぜ効果を疑うのかが、実はとても不思議なんです。

動画コンテンツの需要は高まっており、その受け皿も整えられて配信しやすくなっています。大切なのは、どんな動画をどこで使うかという施策設計です。もし動画施策の成果に懐疑的できちんと取り組めていない企業さんがいらっしゃったら、このあたりを考えてほしいなと思います。

-ありがとうございます。正しいやり方をすることできちんと成果が出るということですね。動画の活用の仕方、の話ですと、静止画と比較して動画がコンテンツとして有効なのはどういった点でしょうか?

村岡:まず、1つのクリエティブで表現できる情報量が多い点ですね。静止画と比較すると、動画の長さ、動き、音など複数の変数があるので、今まで表現できなかったものを表現することができます。

-表現の幅がより広いんですね。

村岡:はい。静止画では、商品を体験する流れや、化粧品などで言われている質感はとても伝わりにくいです。本当のリアルな状態、リアルな質感、ストーリーは動画コンテンツを使うことでより伝えやすくなると考えています。よって、例えば目に見えない成分で勝負している製品や、商品の魅力をきちんと伝えないと振り向いてもらえなさそうな企業さんは、動画との相性がよいと思います。

一方でその必要がない、静止画でも十分に表現できる商品もあると思います。そうしたことを踏まえると、必ずしも全ての商品が動画を使って効果的に表現できるかといわれるとそうではありません。音や、長さ、深さや質感を表現することで商品の魅力を伝えられる場合、動画はコンテンツとしてとても有効だと考えています。

メディアに馴染む「カジュアル動画」がもつ価値とは?

-ありがとうございます。一方で動画が有効だと考えながらもコストやリソースの面で躊躇してしまう企業もいる印象があります。

村岡:コストやリソースの話だと確かに静止画よりはかかってくると思います。しかしマーケティングを考える時はコストよりも、それを上回る成果が手にはいればいいと考えています。

これからも静止画だけをやり続け、クリエイティブがどんどん陳腐化してパフォーマンスが下がるくらいならば、今ここで投資して動画を作り、高いパフォーマンスをだして競合優位性をつけた方が今後を生き抜ける企業になるのではないでしょうか。コストはかかるけどそれ以上のパフォーマンスがあがるという前提で施策を設計し、将来に投資していく姿勢が大切だと思います。

-最近だと、いわゆるテレビCMのような「リッチ動画」に対して、クラウドサービスやツールを活用して手軽に作ることができる「カジュアル動画」が注目されていますよね。

村岡:はい。ただ、カジュアル動画は単純にコストやリソースを抑えられるから注目すべきだというわけではありません。

今メディアは多様化しています。そしてユーザーは取得する情報や発信する情報をそれぞれメディアによって使い分けています。例えば、Twitterにブログのようなテイストで文章を投稿する人はいないですし、Instagramに投稿する写真は程度の差はあれ「映える」ことを意識しますよね。

そうなると、企業が発信するメッセージや広告も、発信先のメディアに応じて変えて、そこに馴染むことが求められます。つまり、自分たちがスマートフォンで撮った動画をアップしているようなプラットフォームで、テレビCM用のリッチ動画を見せられても、おそらく効果的ではないということです。

カジュアル動画が大切なのはまさにこうした理由です。これまで動画化してこなかったSNSなどのプラットフォームの動画化が進み、よりそこに馴染む動画を追求した結果カジュアル動画が注目されてきたのだと考えています。

-テレビはもともとプロが作った番組の合間に流すための広告だからリッチ動画が適しているけれど、SNSはユーザーが自分たちで作ったものをアップする場だからそこにいきなりリッチ動画が流れてきても違和感がある、ということですね。

村岡:そうです。もちろんテレビCMを作るのであればコストもリソースもたくさんかけるべきです。ただユーザーがモバイル端末を介して手元で接触するようなメディアでは、ユーザーにとってより自然なカジュアル動画の方が効果が高いと思います。大切なのはカジュアル動画の方が効果が良いということではなく、ユーザー目線で何が起きているかを考えて、それに合わせたクリエイティブを作っていくことなのです。

カジュアル動画 インタビュー

-例えば今後、素人でもプロみたいなリッチ動画が簡単に作れるようになってそれをSNSでアップする時代がきたら、SNSで使う動画クリエイティブもカジュアル動画ではなくなる、という話ですよね。

村岡:はい。カジュアル動画と相性がいいと言われているSNSでも、ストーリーズ広告なら手作り感のあるカジュアル動画と相性がよく、IGTVにあげる動画はもっとリッチ動画に近いものですよね。だから、シンプルにカジュアル動画がいいとかリッチ動画がだめだという話ではなくて、使う面によってクリエイティブを選ぶべきだという話だと思います。そのうえで、今動画化が進んでいるSNSなどのメディアでは、カジュアル動画が役立つ面が多いという話だと思います。

-ありがとうございます。そうは言っても実際作り込んだリッチ動画よりクオリティ面では劣りますよね。そこがパフォーマンスに与える影響はないのでしょうか?

村岡:Facebookによると、ストーリー用に制作した動画と既存動画の転用した場合で比較すると、前者の方が2.1倍成果に繋がりやすいというデータも出ています(※)。

例えばテレビCMだと、みんなもうある程度見る準備ができているから、ユーザーが気になるストーリー構成にして最後にCTAをつければ良いと思います。しかし、SNSなどモバイルでの接触が多いメディアは、興味がないと簡単にスクロールされてしまいます。そのため、こうしたメディアで流す動画は最初の数秒でいかにアイキャッチさせるかがカギであり、編集も構成もテレビCM用のものとは異なります。そう考えると、動画のわかりやすいクオリティよりも面に馴染ませることを考えた方が、パフォーマンスは高いのではないでしょうか。

-クオリティそのものよりも、ユーザーが違和感を感じないことの方が大切なんですね。

村岡:そうですね。そしてもちろん、カジュアル動画は、リッチ動画と比べて制作にかかるコストや時間を抑えることができます。そのため、複数パターンのクリエイティブを量産することができます。特にデジタルマーケティング領域では、モバイルを通しての接触が多いのでユーザーとの距離が近く、同じクリエイティブを何度も当ててはいけないと言われています。

これは広告以外のオーガニック投稿でも一緒で、企業はユーザーの接触回数に耐えうるクリエティブを量産することを求められており、その点でもカジュアル動画を使うことは効率的だと考えます。さらに、カジュアル動画なら修正にも迅速に対応できるので、PDCAを回して改善し施策効果を高めていく点でも成果をあげやすいというメリットもあります。特に、広告クリエイティブや広告LPに掲載するための動画コンテンツなど、施策改善スピードが問われる場面ではより効果を発揮すると思います。

※)出展:H1 2020 Creative Product Roadmap for FMPs|Facebook

「カジュアル動画」活用施策を成功に導くためのポイントとは?

-続いて具体的にカジュアル動画活用を行なっていく際に抑えるべきポイントについて教えてください。まず、動画制作の観点ですといかがでしょうか?

村岡:ここまでメディアに馴染むからカジュアル動画がよいという話をしてきましたが、カジュアル動画の中でも、媒体ごとによって馴染むクリエイティブは違います。例えば、Instagramのストーリーズ広告は手書き風の絵文字スタンプがとても馴染みますが、LINEの動画広告クリエイティブはより広告的というかCTAがはっきりしているものが多く、YDNになればそれがより顕著になります。出稿先のメディアにおいてユーザーがどういった心理状態でそれを受信するのかを考え、目的に合わせた出稿先の媒体特性を抑えることが、動画を制作するうえでとても大切だと思っています。

また、先ほど申し上げたとおり、SNSやYDN、GDNなどモバイルでの接触が多いメディアでは興味がないと思うとすぐにスキップされてしまうので、いかに最初にアイキャッチさせるような要素があるかというのもポイントです。広告を見た時に、すぐそれが何の広告なのか、何を目的にしているのかを伝えることが必要となります。

-実際に作った動画を活用していく際に抑えておくべきポイントはどんなことがありますか?

村岡:活用面では、効果検証ができるように戦略的に複数パターン用意することが大切です。例えば顔出しのUGCばかりを使う動画と商品だけが写っているUGCばかりを使う動画など複数のバリエーションを用意する、フォントを変える、素材を変えるなどがあると思います。静止画よりも動画の方がバリエーションを持たせやすいので、作る段階からいくつかパターンを用意し、しっかりその効果を検証してクリエイティブの勝ちパターンを見つけていくのが良いと思います。

また、こうしたカジュアル動画を活用する施策を考えた時、従来の代理店に依存した形だと制作本数の多さや細かな検証などを行うために、費用感が合わない可能性もあります。それでいうと、動画活用施策を自社で行う、動画をインハウスで制作しようという意識を社員がそれぞれもつことが大切です。制作物に対する意識を変えたりそれが可能となる体制づくりは、動画化を成功させるうえでとても重要になってくると思います。

動画が当たり前になる時代に備えるために

-ありがとうございます。こうしたカジュアル動画を用いた施策には、今後どんな可能性があると考えていますか?

村岡:カジュアル動画はリッチ動画よりコストを抑え、少ないリソースで制作できるので、今まで動画化していなかったものを動画に転換させる場合に良い選択肢だと思います。

例えば、オフラインのDMやチラシなど古くからある領域で、もう改善できないと思っている領域にも動画転換して改善できるものは多いと思います。また自社のECサイトやブランドサイトのコンテンツを動画に置き換えていくことでCVRや滞在時間の改善に繋がることもあるでしょう。ただそういった古くからある領域で新しいコンテンツを試すのは、その効果が判断しにくい為にいきなりそこにコストをかけることはできませんよね。その面では、比較的コストが抑えられるカジュアル動画は使いやすいクリエイティブだと思います。

-確かに、よく考えると非動画領域はまだまだありますよね。

村岡:はい。これは江崎グリコさんの事例なんですが、紙のファックスの注文書にQRコードがついていてアクセスすると、商品について簡単に説明したカジュアル動画が流れるようになっているんです。また、同様の施策をお客様にお送りするDMでも実施されています。

「動画化」というとどうしてもデジタルマーケティング施策への動画活用を意識しがちですが、必ずしもそこに縛られる必要はありません。カジュアル動画を使うときは、マーケティング活動をより広い領域でみて活用していくと成果があがりやすいのではないでしょうか。

同社がファックスやDMに活用している動画。オフラインのコミュニケーションに動画を活用し、商品の魅力についてわかりやすく訴求することに成功している。

村岡:また、実は動画の素材をもっているけど使いきれていないという企業さんもいると思います。こうした活用しきれていない動画素材も、冒頭のアイキャッチやCTAを固定したテンプレートに当てはめていくと、カジュアル動画にアレンジすることが可能です。既にもっているコンテンツの活用幅を広げるという点でも、カジュアル動画が効果を発揮できる可能性は多いにあると考えています。

-最後にこうしたマーケティングの「動画化」がもつ価値についてどうお考えかお聞かせください。

村岡:かつてSNSを活用したマーケティングが新しく、今では当たり前になってきたように、今後は動画も動画としてフィーチャーされなくなり、「当たり前」になる時代がくると思います。マーケティング施策に動画を取り入れていくのは、そうした時代への備えという側面があると思います。

そして、動画=全く新しい何かというわけではありません。よって「動画化」を進めていく上で大切なのは、いかに既存の施策を動画に置き換えられるかを考える意識をもち、既存の施策をひとつひとつ動画にリプレイスしていくことだと思います。

こうした施策を進めることで、今後2~3年以内に訪れる「動画が当然の時代」に対応していくことが可能になるのです。そのためにも、広告やデジタル領域の施策はもちろんですが、それ以外の企業全体のコミュニケーション施策を見直していくことが求められていると思います。