デジタル販促セミナーレポート イオンogp

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、リテール業界もEC化が加速しました。このような流れの中で、全国に400店舗近い実店舗を保有するリテール大手のイオンリテール株式会社はどのような施策に取り組んでいるのでしょうか?
今回は同社のEC「イオンスタイルオンライン」の運用を担当する三好 大介氏にお話をお伺いしました。

※本記事は2021年10月1日(金)にアライドアーキテクツ株式会社が開催したセミナー「デジタル販促×SNS最前線#4 withコロナ時代の2021年にリテール・メーカーが挑戦するSNSを活用したデジタル販促戦略とは?」の内容を編集したものです。

コロナ以降ネットスーパーを始めとしたECの利用が進む

ーまずは三好様の自己紹介をお願いします。

イオンリテール株式会社の三好と申します。私はECシステム部に所属しており、ECに関わる業務を行なっております。具体的にはECサイトの運営はもちろん物流、システムや集客など、ECにまつわる業務をまとめて担っています。

三好大介氏
イオンリテール株式会社 ECシステム部 部長 三好大介氏
イオンリテール株式会社でEC事業を担当。全国にある店舗を活用した店舗出荷・店舗からECへの送客、店舗での広告等のECモデルを構築中。

ー御社のECの特徴はどんな点でしょうか?

弊社はGMS(General merchandise store=総合スーパー)という業態で、様々な商品を取り扱っています。ECも同じでお客様がワンストップで様々な商品を購入できることを目指しています。そのため、複数のECを持っているのが特徴です。

皆様が一番よくご存知で規模が大きいのは「イオンネットスーパー」で、国内でもトップグループに入るシェアを持っています。一方でネットスーパーはECの中においてとても特殊な形態でもあります。それは、通常のECのように受注センターなどひとつのところから全国に物を届けるのではなく、お店の在庫を使ってお店から出荷するという形をとっているのです。ですので、イオンリテールでいうと現在200店舗強の店がそれぞれのサイトを持ってそこから別々に出荷し、かつ、近隣のお客様のみが利用できるECとして運用されています。

次に大きいのが、お中元・お歳暮などを取り扱っているギフトサイト「イオンショップ」。そして現在私が主に担当しているのは「イオンスタイルオンライン」というECサイトです。こちらではイオンのお店でいうと2階や3階の売り場にある、家具やファッション、 食品ではないものを取り扱っています。

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GMSという業態を表すように、顧客は複数のECを使い、種類豊富な商品を購買することができる。

ー新型コロナウイルス感染症の流行以降、様々なことが変化しています。御社のビジネスとしてはいかがですか?

我々は会社としてデジタルではなく、やはり実店舗を主軸にビジネスを行なっています。そのため、コロナ禍では、「お客様に来店していただきたい」という気持ちと、一方で「店内の混雑は避けたい」という相反する気持ちがありました。こうした状況において、会社としても、できるだけネットで購買してもらおうという機運は、未だかつてないほど高まってきたと思います。

ー実際にECの利用は進みましたか?

進みました。特に生鮮食品の需要は高く、ネットスーパーはよくご利用いただいています。先ほど申し上げたようにネットスーパーは店舗ごとに商品を配送しますので、その店舗ごとに配送できるキャパシティにも限界があります。極端な話、売上を2倍にしようとしたら、配送の人員や契約する車の台数を2倍にしなくてはいけません。このように、なかなか売上を伸ばすことが難しいという状況の中でも、昨年ネットスーパーはその売上を伸ばすことができました。
同時に、お歳暮やお中元などギフトも伸びました。やはり店舗で直接予約することが難しくなるなかで、ECを利用しようと思うお客様が増えたのだと思います。

「お客様の声」を重視しUGCを活用

ーECヘの集客や販促施策どのように行なっていますか?

ネットスーパーは前述の通り特殊な業態ですので、どんなに素晴らしい販促施策を行なっても、結局店舗の近隣に住むお客様しか注文することができません。そう言う意味でいうと、いわゆる広告などの一般的な施策というのはあまり向いていないのではないかと思います。もちろん、位置情報でターゲティングして広告を出すというアプローチはありますが、それよりもそのお客様が日頃利用している店舗から、ラインやメールなどを使ってオンラインでの購入もできますよと訴求する方が、より効果があるのではないかと思います。

ー三好様がご担当されているイオンスタイルオンラインなど、ネットスーパー以外のECではどのような販促集客施策をおこなっているのでしょうか?

我々は、自分たちで書くキャッチコピーや製品のおすすめポイントよりも、お客様の声をいかに拾うかというのがとても大切だと認識しています。その一つとして、UGC(=User Generated Contents)の活用を始めています。

例えば、イオンスタイルオンラインの、2022年のランドセル特集のページでは、「みんなのかるすぽ」として、商品を実際に背負っているお客様のInstagram投稿を掲載しています。これはアライドアーキテクツのLetroというツールを使っている施策で、ご購入を検討されているお客様に、実際に他のお子様が背負っている写真をご覧いただき、お子様が背負われた時をより具体的にイメージしていただくことを目的としたものです。

さらにわかりやすく伝えるという点では、やはりランドセルを背負って実際に動いている様子があるとよいと思いますので、今後は動画活用にも取り組んでいきたいと考えています。

ランドセルの特集ページ
ランドセルの特集ページで、同社の商品を使ったユーザーのInstagram投稿の写真をピックアップし「みんなのかるすぽ」として紹介している。

クチコミマーケティングの手法や注意点をご紹介した記事はこちらです。
クチコミマーケティングとは?最新の種類と成功ポイントを解説【2021年最新ガイド】

また、弊社の特色を出すとするならば、例えば小学1年生から6年生になるまでのランドセルを背負った写真をお客様に継続的に投稿してもらうことも効果的だと思います。みなさまランドセルを購入する時のイメージはつきやすいと思うのですが、それが4年生になった時にどうなるか、というイメージを持つことはなかなか難しいですよね。成長過程でのランドセルの写真をお見せすることで、こうした数年後の姿もイメージしていただき、購入の後押しにしていければと考えています。
同時に、弊社では6年間使い終わったランドセルを他の国の子供達に送るという取り組みを実施しています。お客様が実際に1年生から6年生になるまでランドセルを使っている姿と共に、その後のランドセルがまた他の国で有効活用されているまでという一連のストーリーをお伝えできたら素敵だなと思います。

ーお客様のInstagram投稿を通じてお客様と一緒に価値を共有し、購買体験を高めていくんですね。その他のSNSはいかがですか?

Twitterを活用した施策は社内でも注目を集め始めており、セール情報などを発信する目的でアカウントが運用されています。ただ、運用を担当しているのは他の部署になりまして、私の部署で実際に取り組んでいるわけではありません。一方で、Twitterの影響はすごく受けているので、その影響力や拡散性は認識しております。

ーどのような影響を受けているのでしょうか?

例えば弊社で限定の商品が発売された時や、入手困難なアイテムが入荷された時などは、我々から特に情報を発信しなくとも、Twitterユーザーの方が「イオンで見かけた」や「ここのイオンで買えるよ」などと、積極的に情報を発信し、それが広がっていくことが度々起こります。こうした影響はしばしば受けていますね。ですので一番影響を受けているSNSがTwitterで、積極的に活用したいのはお客様からの商品レビューやInstagram投稿写真です。

ーありがとうございます。その他に集客や販促に活用しているメディアはありますか?

弊社のアプリからの集客施策にも力をいれていきたいと思っています。

ーどのようなアプリなのでしょうか?

我々のアプリにはいくつか種類がありますが、数百万単位でダウンロードされているのは「お買い物アプリ」というものと「キッズリパブリックアプリ」というものの2つです。
ダウンロード数はお買い物アプリの方が多く、メーカーさんにご協力をいただき、アプリの会員様に限定のクーポンなどをお送りすることを目的に運用されています。

一方、「キッズリパブリックアプリ」は、親御様や祖父母の方を中心にご利用いただいているアプリで、お子様やお孫様のお誕生年月を登録する仕組みになっています。

ー「キッズ」の年齢はだいたいどのくらいなのでしょうか?

1歳〜12歳のお子様のデータが登録されており、現在計算上では1年齢あたり、全体の20〜30%の親御様にアプローチできる媒体へと成長しています。

人間確実に今年1歳の子は来年2歳になりますし、5年後に小学校に入るとわかっていますので、このデータを利用すれば、登録者様のお子様の成長段階に応じたコンテンツの出し分けを行うことが可能です。特に0歳の赤ちゃんは3ヶ月の子と6ヶ月の子では成長段階が大きく違いますので、月齢を考慮したコンテンツの出し分けができることは大きな長所となります。今後は0歳から12歳まで一学年あたりの保護者の方2〜3割くらいにリーチでき年齢に応じたコンテンツの出し分けができるこのアプリをメディアとして活用し、ECとの連携を進めていこうと思っています。

リアル、デジタルに拘らずお客様の「買いたい」「体験したい」を実現するために

ーありがとうございます。2022年に向け今まで積み上げて来た知見からどんなことに取り組んでいきたいとお考えですか?

我々はECを始めとしたデジタル施策に取り組み始めたのは他の企業さんよりも遅れをとっており、まだまだという状況ではあります。
加えて、ECが伸びてきたとは言えやはり弊社は実店舗が圧倒的に強いという状況は変わりません。それは裏を返せば、「店舗」が一番お客様とたくさん接点がもてる媒体であるということだと思います。そのため、我々の基本である「店舗」からいかにECに誘導するかということにも取り組んでいます。

三好大介氏02

ー具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

今は、例えば店舗からECへの送客では、店舗にあるデジタルサイネージや、POPにECのことを書くといった基本的なところからこつこつと取り組んでいます。
正直な話、社内ですら、イオンリテールがECをやっているということを認識していない人もいるんです。こういった状況を変えていくために、お客様の前にちゃんと露出していくというのはまず基本として大切にしています。

ー実店舗とECの連携を進めていく上で留意されていることはありますか?

我々の場合、店舗の人間にECへの集客をただお願いしても、店舗側は売上をとられてしまうという懸念から積極的に取り組んでもらえません。そこで我々としては常に店舗にお願いするだけでなく、ECとして店舗に何ができるのかという視点を持つようにしています。

ー実際にどんな施策を行なっているのでしょうか?

はい。例えば、店舗ではお客様にお伝えできない、商品のバックグラウンドを含めた詳細な商品説明もECなら可能です。この特徴を生かし、商品についてより詳しく紹介し、本質的に理解してもらうような情報発信には力を入れて取り組んでいかなくてはいけないと思っています。
また、現在、ネットスーパーだけでなくイオンスタイルなどのECの商品についても、店舗から直接商品を発送するようなオペレーションへの切り替えに取り組んでいます。これであればECを利用しても店舗に売上をたてることができますよね。

ー確かにECに売上を取られるという懸念は解消されますね。

店舗とECとの連携を進めるうえで重要なのは、いかに店舗側の人間を巻き込んでいけるかだと思います。これは店舗の人員を使い、店舗にある商品を販売して店舗に売上をたてる、というほうが賛同を得られやすく、よりスムーズに連携を進めていくことができるからです。また、この取り組みは我々がECに取り組む上で自分たちの持つ長所をうまく生かしたものでもあります。

ーどのような長所でしょうか?

まずは店舗数の多さです。我々のように、ECへの取り組みが後発である立場の企業がこれからECを伸長させていかなければいけないと考えた時、例えば倉庫オペレーションなどは一番先頭を走っているAmazonさんなどには追いつきようがないんです。ただ、我々はそうしたECのトップ企業が持っている倉庫の数よりも多くの店舗を全国に持っています。この店舗をうまく活用することで、日本全国のお客様に一番早く商品をお届けすることも実現できるのではと思います。

次に品揃えの豊富さです。店舗数でいうとコンビニさんには敵いませんが、品揃えの豊富さは我々GMSという業態は大きくリードしています。
自分たちのもつ長所をフルに活用し、店舗側との連携をスムーズに行いながら、様々な種類の商品をお客様に近い店舗から一番早くお客様に届ける、こうした仕組みの実現を目指しています。

ーまさにGMSという業態をとる御社だからこそ実現できる施策ですね。

はい。極端な話ですが、お客様にとってはそれがECだろうが店舗だろうが関係ないのだと思います。「デジタル」「リアル」という枠にとらわれることなく、お互いがお互いの強いところをいかし、欠点を補いあって、お客様に「体験したい」「購買してよかった」と思っていただける購買体験を実現できれば、と考えています。